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六章 仮初 (夏の大会編)
六十八話 風が……
しおりを挟む(剣身が、伸びた……)
……どうやらラナの魔法武器は、魔力を込めることで剣の刃の部分の長さを変える代物らしい。
「ふぅ…………」
「……なるほどな。」
ラナが剣を振り切ったあとの息を吐く仕草や、今受けた剣の重さから鑑みると……おそらく剣身が伸びれば、その分重量も増えている。
(伸びた分だけ重くなる……そんなものを使えば、魔力消費もそれなりに多いはず……)
約20メートルの延長、そして最初の業火の舞……今のラナの魔力量はかなり削れているだろう。普通なら遠距離戦で攻めた方がいいが……
「……『グラウンドウォール』!」
「……!」
俺はラナとの間にいくつかの土の壁を作り出し、その壁たちに隠れながら距離を詰めていく。
「面白いね……でも、魔力を感じ取ればっ!!」
そんな言葉が聞こえたと同時に、俺が隠れていた壁から剣が突き出て来た。幸い俺に直撃することはなく、その一撃で壁は破壊され俺の姿は丸見えになるが…………
(流石にラナのステータスでも、ある程度伸ばした剣は『突き』か『慣性を付けた斬撃』しかできないはず。だとすると次にラナはこの剣を………)
「見つけ……っ!?」
ラナが伸ばした剣を戻す前に、俺はその剣の刃を無理矢理掴む。
すると、縮まっていく剣に俺は引っ張られていき…………一瞬のうちにラナの懐へと入っていた。
「手間が省けたな。」
『火球』
「うっ……!」
ゼロ距離で火の球を当て、ラナの魔力防壁を初めて削った。本当なら剣で攻撃したり上級魔法で攻めてもいいのだが……
(観客がいる以上、俺が変に善戦しても仕方ない。それより……次席という冠を持つラナを持ち上げるほうがいいだろう。)
ジェットはもう見せた。あとは…………
「『ジェット』」
「またっ……!」
再び距離を取り、今度は空高く上昇していく。
そして、ある程度まで昇ってからジェットを解除し、さっきのように落下していく。
「この高さなら……解らないだろ。」
両手を突き出し、風の球を作り出していく。そして紫色へと染め上げていく。
「……っ、来るねっ!!」
俺の魔法に気づいたラナは、できるだけ俺から距離を取って魔法で対抗する準備をしていた。
俺のオリジナル魔法……風神・一式は、一見風魔法に見えるが、実際は無属性に近い特殊な魔法だ。その性質として熱で浮いたり、他の風魔法と混ざり合うことのないように作られている。
(……『龍属性』といったところか………まあ、名前なんてどうでもいいが。)
紫風の球はどんどん勢いを増していき、膨らんでいく。
「『グラウンドウォール』」
(壁で緩和させるつもりか…………)
…………丁度いい。
「……くらえ、『風神・一式』!!!」
熱を込めた叫び声を上げながら、紫風をラナ目掛けて飛ばす。
「…………っ!!!」
『ジェット』
ラナは土の壁に隠れるが、一瞬にして崩壊していく。そしてその崩壊とともに舞台は砂埃で見えなくなっていった。
そんな様子を見届けながら、ジェットを発動して落下の衝撃を抑えて地面に降り立つ。
(……さて、来るか……)
「………はぁぁっ!!」
砂埃が舞っている中から、剣を構えたラナが真正面から飛び出してきた。予想通り、あの速さの魔法は避けられたな。
俺はラナの斬撃を受けながらも後退するが、ラナはそれを許そうとはしない。
「そろそろ限界だね……!!」
「……もう少し抗うさ。」
悪あがき程度に、俺はラナの足元目掛けて魔法を放つ。
「吹け、『青嵐』」
「……えっ!?」
青嵐は、俺が初めて覚えた初級魔法だ。
この魔法はただ小さな風を吹かせるだけで、攻撃性はない…………が。
「夢中になりすぎたな。」
「くっ……うわっ!?」
意識外からの小風を受け、ラナは体制を崩す。
(……風神・一式を避け切った喜びからか、今のラナは少し重心が上にいっていた。文字通り『浮ついていた』ってところか。)
「……はっ!」
「っ…………むっ!」
仰向けに倒れようとしているラナ目掛けて俺は剣を振るったが、彼女は片手で体を支えながら剣でそれを受け止めた。
しかし流石に体制が悪かったこともあり、ラナは衝撃によって軽く吹き飛ばされる。
「まだいくぞっ!」
「………
…………ふふっ。」
俺がすかさず追いかけようとした瞬間…………ラナは、笑った。
「…………っ………!?」
その笑い方は………見覚えがあった。
『いってらっしゃい、ラナ!』
『うん、行ってくるねウルくん……あっ、そうだ! ウルくんって、何か欲しい物とかない?』
『ほしいもの? うーん……お父さんたちが首につけてる物かな。キラキラしててかっこいいし………でも、どうしてそんなことを?』
『ふふっ、それは……………』
「吹け、『青嵐』っ!!」
「………!?」
風に足を取られ、体制を崩す…………さっき手をついた時に仕掛けたのか。
「これで……とどめっ!!!」
「っ、ぐはっ……!!」
俺は何とかバランスを保とうとしたが、そんな隙にラナはとっくに立ち上がって俺を思いっきり斬りつけた。
その結果、俺は大きく吹き飛び……魔力防壁を破壊された。
『……………そこまで! 勝者はライナ!!』
「す、凄い試合だったな……てっきり一瞬で終わるかと思ったが、あのウルスって奴結構やるんだなっ!!」
「ウルスって人、空を飛んでたよね?あれってもしかして魔法?」
「多分……でも、そんな相手すら倒してしまうなんて……次席はやっぱり凄いっ!!!」
(………そこそこ目立ってしまったが……まあいい。何だかんだ言って俺はほとんどラナにダメージを与えられてないし、ジェットや風神・一式といった魔法を使っても、『あの次席には勝つことができない』というレッテルがこれで付いた。そこまで心配することもないだろう。)
逆に使わなければ、今度はラナやニイダたちに怪しまれるところだっただろう。そう考えれば、この終わり方もよく見えたはずだ。
「……私の勝ちだね。」
倒れたままの俺に、ラナがそう言ってくる。
そして、俺のそばに立って…………手を伸ばしてきた。
「立てる?」
(……………。)
「……ひとりで立てる。」
差し伸べられた手を掴まず、自力で立ち上がる。
「……最後、無理矢理に真似したな。」
「あ、ばれてた? 面白い使い方だなって、ついやっちゃった。結構無茶したなって思ったけど、引っかかってくれて良かったよ。」
ラナはそう言いながら、照れ臭そうに髪の毛を弄る。
(……………)
…………あの笑い方も、その『仕草』も………
「…………………やめてくれ。」
「………やめる? 急にどうしたの?」
「っ……………いや…何でもない、ちょっと疲れただけだ。」
(…………俺は、何を言っているのだろう。自分で選んでおいて………あまりにも、ふざけてる。)
馬鹿みたいな感情を押し潰し、俺はここを去ろうとする。
「……あっ、ちょっと待って!」
しかし、そんな俺に何故かラナは声を掛けてくる。
その声に渋々振り返ると、ラナまた俺に近づいて…………手を出してきた。
「…………? もう立ち上がってるぞ。」
「えっ? ……あぁ、そうじゃなくて握手だよ。今日はこれで最後だし、いっぱい人も観てるからね。これでおしまいってやった方がいいかなって…………嫌かな?」
…………断る選択肢は……………ない…か。
「…………まあ、そうだな。やろう。」
そう言って俺は改めてラナに向き合い、俺より一回り小さいその手を軽く握った。
「強かったよ…………ライナ。」
「…………ありがとう、ウルスくん。」
俺たちの握手を皮切りに、観客席から賛美の声が一層大きくなった。ラナはそんな歓声を聞いて、また照れ臭そうに髪を弄っていたが………
「………っ。」
「わっ………?」
その時、不意に風が…………吹いた。
その風は少し強く…………懐かしさを含ませながら、俺たちを撫でた。
(…………………)
何かを攫うような…………あるいは、慰めるような…………そんな、風だった。
「…………今のは強かったね。」
「………………
…………そうだな。」
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