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五章 選択

五十六話 魔物

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 課題を出されて3日目。最初は全くできなかったものの、地道に試行錯誤を繰り返した結果、ある程度まで完成はできていた。
 フィーリィアも初めこそ休憩を頻繁に取っていたが、少しずつ慣れてきたようで10分程度までは耐えられるようになっていた。

「いくぞ、もう一度だ。」
「…うん。」

 俺は風の球を作り、中に空洞を開ける。次に、フィーリィアがその空洞に氷を生成する。

「いいぞ、そこからどんどん空洞を広げていくから氷を圧縮しながら大きくしていくんだ。」
「…ふん……!」

 フィーリィアは慎重に氷を圧縮、そしてその氷を大きくする。
 その行動を繰り返し、どんどん氷は強固に、巨大になっていく。

「はぁ…はぁ……!」
「……よし、それじゃあこれを空に浮かべていくんだ。」
「う…ん……!」

 俺はフィーリィアの様子を見ながら、風の勢いを増させていく。そして氷の詰まった風の球を上昇させていく。

「うっ……あっ……!」

(……ここらが限界か。)

「ここまでだ、解除してくれ。」
「……っ、ふぅっ……!」

 フィーリィアの限界を感じ取り、俺は魔法を中断させる。それを聞いたフィーリィアはすぐに魔法を解除してその場にへたり込んでしまっていた。

「休憩するか?」
「……少し、だけ……」

 俺の提案をフーリィアは受け入れる。

 ………今日は課題練習の最終日。まだ少しの間しか同じ時間を過ごしていないが……それでも多少の信用は得られたようで、フィーリィアは俺への遠慮はしなくなっていた。

「回復魔法を使おうか?」
「……いらない、息が、乱れてる、だけだから…」
「……そうか。」
「…そっちこそ……疲れてないの? 昨日だって……私を回復させたり……」
「…………」

 ……確かに、今日はともかく昨日はフィーリィアに回復魔法を使いながら合体魔法の特訓もしていたので、今の俺のステータスの魔力量じゃ少し不自然な使い方をしていると思われるだろう。
 そんな質問をされると予想していた俺は、事前に用意していた返しをする。

「……効率的な魔法の使い方を知ってるんだ。これをすれば魔力消費を節約できる。」
「……そうなんだ。」

 フィーリィアは特に疑う様子もなく納得してくれた……が、代わりに今度はこちらを向いて、また質問をしてくる。

「………ねぇ。」
「なんだ?」
「…あなたは……魔物と戦った……ことは、ある……?」
「……ああ、弱い魔物なら何回かはあるぞ。」

 ちなみに、この学院に通っている生徒のほとんどは魔物などとの戦闘経験はないらしい。カーズ曰く2、3年生になれば魔物退治の課題なども出るらしいが………

「……それがどうしたんだ?」
「……魔物は…怖い……?」
「……そうだな…………」

 ……今となっては、どんな魔物が来ようとも恐怖は感じないが……



『グッ、グギァ!!』
『なっ……全然効いてない………!?』


『ここ………まで、なのか…………また…………』






「………怖い、な。」
「………そう……」
「……何でこんなことを?」
「………なんと、なく。」

 そう言い返しながら、フィーリィアは俺からそっぽを向く。

(…何か、あるんだろうが……)
「……確か、恩人だったか? その恩人がお前を育てたって言ってたけど、その人は強いのか?」
「……うん……強いよ。」

 俺は話を半ば無理やり終わらせ、そのフィーリィアの恩人とやらの話を聞いた。
 するとフィーリィアは途端に……と言っても表情の変化はないが、気持ち嬉しそうに話し出す。

「どれくらい強いんだ?」
「…本人曰く……5本の指、とか……」
「5本………?」

 5本の指……に、入るという意味ならそれは世界に5人だけが神威級魔法を扱える英雄ということになるが……


「……もう…回復した。再開、しよう。」


 俺が色々と考え込んでいる内にフィーリィアの体力は回復したようで、再開を促してきた。


(……少し気になるが…まあいいか。)

「ああ……再開しよう。」



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