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四章 タッグ戦

四十八話 ハイタッチ

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「…………本当に人任せだな。もし俺がやられたらどうするんだ?」
「大丈夫っすよ、何ならウルスさんがあの2人をそのまま倒しちゃっても良いっすよ?」
「……それは無理だろ、俺を何だと思ってる?」
「えぇ? 何でしょうねー?」

 …………ふざけた奴だ。

「……まあいい。その人任せな作戦、やるぞ。」
「おぉ、さすが! 時間は40秒ぐらい頼むっすよ!」

 ニイダはそう言って俺たちの戦いから大きく離れていった。

「……さっきとは逆ですね。しかもニイダさんは……逃げてる?」
「何か企んでるはずだ……早く倒すぞカーズ!」

 ニイダの動きが気になったのか、体勢を完全に直した2人はニイダを追いかけようとする。
 だが、そんな2人の前に俺は立ち塞がる。

「悪いが、先に俺と戦ってもらおう。」
「そう簡単に行かせないか……カーズ、ここは俺が…っ!?」

 俺は持っていた剣をソーラへと投げつける。それをソーラは反射で避けようとしたが、魔力防壁を掠っていた。

 剣はすぐ後ろに転がり、放置される。

「け、剣を……一体どういうつもり……!?」
「どうするもこうするも……勝つつもりなだけだ。」

 俺は拳を構える。

(……見たところ、2人の魔力防壁は半分程度は削れている。ここでもう少し削って焦らせるか。)

「……いくぞ!」
「っ……はぁっ!!」

 俺は声を上げると同時に攻め上がり、距離を詰める。
 剣を持たないそんな俺の動きに動揺したのか、ソーラが直感的に剣を振るってきた。

「ふっ!」
「っ、避け……!?」
「危ない!!」

 その剣を最低限の動きで避け、蹴りを喰らわせようとした矢先、カーズが文字通り横槍を入れてきた。
 俺はその槍の突きをバックステップで避けようとしたが、距離が近すぎたせいか軽くダメージを受ける。

「まだまだっ!」
(……少し不味いか、だが…………)

 俺が初めてダメージを受けたのを好機と見たのか、2人は一斉に攻撃を仕掛けようとしてくる。
 この様子から鑑みて、どうやらこの2人はまだ戦いというものに慣れていないようだ。その証拠に、ただ目の前の情報に縋り付いて行動している。


(…………それが、命取りになるんだ。)

「撃て、『アイスショット』」
「っ……ソーラ!」
「ああ、受け止める!」

 俺は後退しながらカーズの目掛けて氷の弾を放ったが、ソーラが前に出て盾で防いできた。

「こんなもの効かな……えっ?」
「ど、どうしました?」
「い……いないぞ、ウルスが!?」







「こっちだ。」
「「なっ!?」」


 ソーラが弾を受け止めている間に、俺は彼らのに回り込んで剣を拾っていた。
 そして、隙だらけなカーズの背中へと斬り込もうとする。

「うっ、このっ!!」
「それはさっきやっただろ。」
「くっ、跳んで……ぐはぁっ!!」
「カーズ……ぐぉっ!?」

 カーズは慌てて振り返りざまに槍を横に振ってきたが、軌道がバレバレだったので今度は跳んで避けて魔力防壁を斬った。そのついでに斬られて倒れ込もうとしたカーズの体を踏んで跳び上がり、ソーラも斬り伏せる。


(残り20秒……あとは『コレ』でいいな。)


「『グラウンドウォール』」
「つ、土が……!」
「囲まれた……? 早く出っ………!」

 俺は2人の周りから土の壁を作り出し、逃げられないようにドーム状に生成して閉じ込めた。
 そして、設置していた魔法を放つ。



「『ライト』」
「「………!?」」


 瞬間、土のドームの隙間から強い光が溢れた。


「目が……!!?」
「何なんだ、これは……!?」

 光で完全に視力を失った2人は、土の中で慌てふためく。そんな2人に俺は焦らせるように声をかける。

「いいのか?そんな埋められた状態のままで。」
「………そうだ!カーズ、しゃがんでてくれ!」
「は、はい!」
「よし……うぉっらぁ!!!」


 中からそんな叫び声と同時に、土のドームにヒビが入っていく。
 そしてその数秒後、土のドームが一気に破壊されていった……おそらくソーラが剣を思いっきりぶん回したのだろう。

(視界を奪われているのに大胆だな……信頼し合っているのか?)

 ……まあ、もう関係ないけどな。


「や、やっと回復し……」



「ニイダ!」
「はいっす!」




 丁度40秒、俺は遠くにいるニイダを呼ぶ。

 そして、ニイダは威勢良く唱える。



「降れ、『苦無ノ舊雨』!」



「なっ……何の魔法……?」
「……あっ、ソーラ! 上です!!?」
「う……えっ!?」


 2人とも空を見上げて度肝を抜かれていたが……もう遅い。
 俺はそんな2人を横目にニイダのところへと向かう。

「いやぁ面白かったっすよ、さすがウルスさん。」
「危うかったけどな……あっちがもう少し強ければやられていたぞ。」
「まあまあ、結果オーライっすよ。」
「……というか、その魔法。調整を間違えたら魔力防壁を貫通して攻撃してしまうんじゃないか?」
「それは心配いらないっす。ちゃんと調整してますよ、ほら……」

 ニイダはそう言って2人の方を指さす。
 そこには、丁度クナイの雨が降り終わって魔力防壁を壊されて倒れていた2人の姿があった。


「そこまで、勝者ウルス・ニイダペア!」





「……中々食えないな、お前は。」
「それはどうも……ほら、ウルスさん!」
「……? 何だその手?」

 試合が終わると同時に、不意にニイダが片手を広げてこちらに向けてきた。

「あれ、知らないっすか?ハイタッチっすよハイタッチ。」
「あ、ああ……そうか。」


 ……ハイタッチか。











『やったウルくん! また新しい魔法が使えたね!!』
『うん、やったよ!』











「………別に、やる必要ないだろ。」
「えぇ、つれないっすねぇー」



 俺はニイダの手を無視して、舞台から去った。



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