50 / 291
四章 タッグ戦
四十八話 ハイタッチ
しおりを挟む「…………本当に人任せだな。もし俺がやられたらどうするんだ?」
「大丈夫っすよ、何ならウルスさんがあの2人をそのまま倒しちゃっても良いっすよ?」
「……それは無理だろ、俺を何だと思ってる?」
「えぇ? 何でしょうねー?」
…………ふざけた奴だ。
「……まあいい。その人任せな作戦、やるぞ。」
「おぉ、さすが! 時間は40秒ぐらい頼むっすよ!」
ニイダはそう言って俺たちの戦いから大きく離れていった。
「……さっきとは逆ですね。しかもニイダさんは……逃げてる?」
「何か企んでるはずだ……早く倒すぞカーズ!」
ニイダの動きが気になったのか、体勢を完全に直した2人はニイダを追いかけようとする。
だが、そんな2人の前に俺は立ち塞がる。
「悪いが、先に俺と戦ってもらおう。」
「そう簡単に行かせないか……カーズ、ここは俺が…っ!?」
俺は持っていた剣をソーラへと投げつける。それをソーラは反射で避けようとしたが、魔力防壁を掠っていた。
剣はすぐ後ろに転がり、放置される。
「け、剣を……一体どういうつもり……!?」
「どうするもこうするも……勝つつもりなだけだ。」
俺は拳を構える。
(……見たところ、2人の魔力防壁は半分程度は削れている。ここでもう少し削って焦らせるか。)
「……いくぞ!」
「っ……はぁっ!!」
俺は声を上げると同時に攻め上がり、距離を詰める。
剣を持たないそんな俺の動きに動揺したのか、ソーラが直感的に剣を振るってきた。
「ふっ!」
「っ、避け……!?」
「危ない!!」
その剣を最低限の動きで避け、蹴りを喰らわせようとした矢先、カーズが文字通り横槍を入れてきた。
俺はその槍の突きをバックステップで避けようとしたが、距離が近すぎたせいか軽くダメージを受ける。
「まだまだっ!」
(……少し不味いか、だが…………)
俺が初めてダメージを受けたのを好機と見たのか、2人は一斉に攻撃を仕掛けようとしてくる。
この様子から鑑みて、どうやらこの2人はまだ戦いというものに慣れていないようだ。その証拠に、ただ目の前の情報に縋り付いて行動している。
(…………それが、命取りになるんだ。)
「撃て、『アイスショット』」
「っ……ソーラ!」
「ああ、受け止める!」
俺は後退しながらカーズの顔目掛けて氷の弾を放ったが、ソーラが前に出て盾で防いできた。
「こんなもの効かな……えっ?」
「ど、どうしました?」
「い……いないぞ、ウルスが!?」
「こっちだ。」
「「なっ!?」」
ソーラが弾を受け止めている間に、俺は彼らの背後に回り込んで剣を拾っていた。
そして、隙だらけなカーズの背中へと斬り込もうとする。
「うっ、このっ!!」
「それはさっきやっただろ。」
「くっ、跳んで……ぐはぁっ!!」
「カーズ……ぐぉっ!?」
カーズは慌てて振り返りざまに槍を横に振ってきたが、軌道がバレバレだったので今度は跳んで避けて魔力防壁を斬った。そのついでに斬られて倒れ込もうとしたカーズの体を踏んで跳び上がり、ソーラも斬り伏せる。
(残り20秒……あとは『コレ』でいいな。)
「『グラウンドウォール』」
「つ、土が……!」
「囲まれた……? 早く出っ………!」
俺は2人の周りから土の壁を作り出し、逃げられないようにドーム状に生成して閉じ込めた。
そして、予め設置していた魔法を放つ。
「『ライト』」
「「………!?」」
瞬間、土のドームの隙間から強い光が溢れた。
「目が……!!?」
「何なんだ、これは……!?」
光で完全に視力を失った2人は、土の中で慌てふためく。そんな2人に俺は焦らせるように声をかける。
「いいのか?そんな埋められた状態のままで。」
「………そうだ!カーズ、しゃがんでてくれ!」
「は、はい!」
「よし……うぉっらぁ!!!」
中からそんな叫び声と同時に、土のドームにヒビが入っていく。
そしてその数秒後、土のドームが一気に破壊されていった……おそらくソーラが剣を思いっきりぶん回したのだろう。
(視界を奪われているのに大胆だな……信頼し合っているのか?)
……まあ、もう関係ないけどな。
「や、やっと回復し……」
「ニイダ!」
「はいっす!」
丁度40秒、俺は遠くにいるニイダを呼ぶ。
そして、ニイダは威勢良く唱える。
「降れ、『苦無ノ舊雨』!」
「なっ……何の魔法……?」
「……あっ、ソーラ! 上です!!?」
「う……えっ!?」
2人とも空を見上げて度肝を抜かれていたが……もう遅い。
俺はそんな2人を横目にニイダのところへと向かう。
「いやぁ面白かったっすよ、さすがウルスさん。」
「危うかったけどな……あっちがもう少し強ければやられていたぞ。」
「まあまあ、結果オーライっすよ。」
「……というか、その魔法。調整を間違えたら魔力防壁を貫通して攻撃してしまうんじゃないか?」
「それは心配いらないっす。ちゃんと調整してますよ、ほら……」
ニイダはそう言って2人の方を指さす。
そこには、丁度クナイの雨が降り終わって魔力防壁を壊されて倒れていた2人の姿があった。
「そこまで、勝者ウルス・ニイダペア!」
「……中々食えないな、お前は。」
「それはどうも……ほら、ウルスさん!」
「……? 何だその手?」
試合が終わると同時に、不意にニイダが片手を広げてこちらに向けてきた。
「あれ、知らないっすか?ハイタッチっすよハイタッチ。」
「あ、ああ……そうか。」
……ハイタッチか。
『やったウルくん! また新しい魔法が使えたね!!』
『うん、やったよ!』
「………別に、やる必要ないだろ。」
「えぇ、つれないっすねぇー」
俺はニイダの手を無視して、舞台から去った。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる