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三章 入学試験 (学院編)

二十八話 ガータ

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「うわぁ……色々ある! これが街なんだね!」
「ああ、俺も初めて来た時は驚いた。」

 ミルは街を見渡してキラキラと目を輝かしていた。
 この街……『プリエ』は毎日人で賑わっており、屋台や服屋、武器屋に宿など様々な建物がそこら中に建っており、街に来たことのないミルにはどれも目新しく写っているようだった。

 一通り見渡してから、ミルは俺に聞いてくる。

「……ところで、ウルスくんはここに来たことがあるんだよね?」
「………ああ、まあな。」


 ……そういえば、ここら辺に『アイツ』の店があったな。

「ミル、試験のところに行く前に少し寄っていいか?」
「うん、いいけど……どこに行くの?」
「すぐ近くだし、行けば分かる。」

 ミルの了承を得て、俺はある建物がある場所へと向かう。
 その建物とは、明るい茶色いレンガの壁で作られた建物で、大きな看板とは裏腹に少し小さめの店だった。

「ここって……鍛冶屋?」
「そうだ。」
「へぇ、鍛冶屋ってもっとぐわってした感じだと………って、ウルスくん!? そっちは裏口みたいなところじゃ……?」
「大丈夫だ、こっちでいい。」

 俺は正面の扉ではなく、裏口の扉を開けて中に入る。

「っ、熱い……?」
「武器を打ってるから熱が篭ってるんだろう。」

 扉を開けた瞬間、現場に篭っていた熱が一気に解放され俺たちを襲う。

(……前より人が増えてるな。)

 中を見渡してみると何人かが鉄を打ったり、火の加減を見ていたりとまさに鍛冶場といったところだった。

 炭の匂いが鼻につきながらも、俺は『アイツ』を探す。そして鉄を打っている人たちの中に『アイツ』はいた。


「……あれか。」

 その男はガタイが良く、頭に炭やら埃やらで汚れたバンダナを頭に付けており、濃い髭を顎(あご)に生やしていた。

 俺が見つけたと同時にそいつも俺の存在に気づき、こちらに近づいてきた。

「おおっ、久しぶりだなウルス! 半年ぶりくらいか?」
「……それくらいになるな……前よりも人が増えていないか?」
「ああ、繁盛してるもんでな……って、そこにいるのは誰だ? まさか………お前の彼女さんか何かか?」
「そう……」

「違う、知り合いだ。」
「……………」

 俺がそう言うとミルはガクッと肩を落とした。ふざけられるとややこしくなるからやめて欲しいものだ…

「お、おお…そうか…………俺はガータ、ここで鍛冶屋を営んでいる。ウルスとは昔助けてもらってからの縁だ、よろしくな。」
「は……はい。私はミルです、よろしくお願いします。」

 ミルは少し緊張しながらも返事をする。
 ……他人と顔を合わせるのはほぼ初めてだっただろうが…………この様子なら心配はいらないか。

「ガータはここの店主で、毎日武器を打ってる鍛冶馬鹿だ。そのせいか武器の質は他よりもいいんだ。」
「へぇ~……じゃあ前に戦った時に壊れた武器も?」
「ああ、そうだ。」
「おい、鍛冶馬鹿ってなんだ馬鹿って……というかまた壊したのか?」
「仕方ないだろ、どんな物だって寿命はある。」
「いやいや、そんな短い寿命があってたまるか!」


 いくら腕が良くても、神器と渡り合える武器を作るのは難しい……というか、俺が全力で使えばほとんどの武器は壊れてしまうのでガータが特段悪いことはないが。

 ガータは溜め息を吐く。

「はぁ……で、今回も武器を?」
「ああ、片手剣と細剣を1つずつ。」
「魔法武器か普通武器、どっちだ?」
「普通武器で、できるだけ良いのを頼む。」
「もちろん……そしたら、またしばらくしてから来てくれ。」
「分かった……行こうミル。」
「う、うん。」


 武器を作ってくれる約束を取り、俺たちは店を出た。
 しかし状況についていけてないのか、ミルは首を傾げていた。

「……も、もう用事は済んだの?」
「ああ、武器を頼んだだけだからな。金は払う必要もないし。」
「え、どうして?」
「俺がガータを助けたって言ってただろ? その恩だろうけど、ガータは基本的に俺から金は取らないんだ……素材集めには手伝わされた事はあったが。」
「そうなんだ……それで、何で武器を頼んだの? 私たちにはもう武器があるよ?」

 ミルはそう言ってアステールをカタっと鳴らした。
 ………師匠からは聞いてないのか。

「アステールや俺の『武器』は普通の武器じゃない。師匠曰く神器だそうだ。」
「じ……神器!?そうだったの!?」

 ミルは俺の言葉に度肝を抜かれていた。まあ、確かにポンと渡された物が神器だとは普通思わないが……


 (………それにしても、師匠はよくこんな神器を持っていたものだ。)


 神器は世界のあちこちにあり、師匠が見つけた他にもいくつかあるらしいが…………一体どこで見つけたのだろうか。

「神器は人が作った武器とは訳が違う。分かる人が見れば一瞬で分かるし、事と次第によっては大騒ぎになる。」
「……だから仮の武器を使うってこと?」
「そうだ、これからは学院に通うことになるはずだ。そこで神器なんて振り回していたらかなり目立つ。一先(ひとま)ず今はアステールはボックスにしまっていてくれ。」
「わ、分かった。」

 ボックスというのは空間魔法であり、自身だけの異空間に物を入れられる魔法だ。そして、魔力のステータスで異空間の大きさが変わったり、扱えるといった特殊な魔法だ。

 ミルがアステールをボックスに入れるのを見届けてから、俺は歩き始める。

「……それじゃ、そろそろ向かおう。」
「うん、行こう!」



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