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二章 『強く』なるために

十六話 ユウ

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「…着いた、ここが私のお勧めの店だよ!」
「……とりあえず入るか。」


 私は旅人と一緒に店に入る。ここの店はいつも人で賑わっており、今日も変わらずたくさんの人が騒ぎあっていた。
 2人でテーブルの席に座ると、さっそく旅人が聞いてきた。

「おすすめはなんだ。」
「えっと………あったあった、若鶏の串焼きだよ。」
「…じゃあそれで。」

 この若鶏の串焼きは絶品だ。初めて来て食べた時には感動して震えたぐらいだ。最近は食べ過ぎたりして最近は少し太ったけど……


(…ってそんなことより…)

「じゃあ、とりあえず自己紹介するね……私はローナ、助けてくれてありがとう。あなたって旅人?」
「……まあ、そういうことになるな。」

 旅人さんは曖昧な返事をした。
 ここでもフードは外さないので相変わらず顔は見えず、あまり表情の変化も伺えない。

「名前は?」
「……それは言えないな。」
「そう……それじゃあ、なんて呼べばいい?」
「………ユウ…とでも呼んでくれ。」

 旅人改め……ユウは、少し考えてそう言った。本当の名前も知りたかったけど、答える気は無さそうなのでこれ以上聞かないことにした。

「それで……何の話を聞きたいんだ?」
「そうそう!さっきのあなたの魔力防壁……ものすごく強くなかった?剣で刺されて傷一つ無いなんて、普通じゃないよ!」

 『魔力防壁まりょくぼうへき』というのは、自身が持っている魔力が自動的に紫色の壁となって自分を守ってくれる不思議な物だ。
 そして、自身の魔力の最大量が多ければ多いほど強い魔力防壁を張れる。壁を張るのに魔力はほとんど使わず、勝手に張られているので便利であるが、物理攻撃には比較的弱いと言われている。

 大人の剣などで攻撃されれば、よほど魔力が多くなければ傷付きはするはず……なのだけれど、あの時のユウの魔力防壁は何の変化もなかった。


「……鍛えたからな。」
「鍛えた、って……そんなあっさり……」

 ……剣で刺されてもダメージ一つ無い魔力防壁なんて、魔力のランクの差が100どころではないはずだ。

 おそらく、ユウは私と歳はそう変わらない。旅人として活動しているなら私たちの歳の平均ステータスよりは圧倒的に上だとは思うけど……本当にそんな強さがあるのだろうか。


(………気になる……)


 ……ユウには悪いが、盗み見させてもらおう。








『詳細不明』






(……えっ…見れない……?)





「……いきなりステータスを見るとはな。」


 私がステータスを見れなかったことに1人驚いていると、ユウは呆れたように溜め息を吐いていた。

「えっば、ばれた…!?」
「……正直だな。」
「ご…ごめん……あんなに強かったし、正直に聞いても見せてくれないと思ったから……」
「……まあ、構わない。だがステータスは見せられないな。」


 見せられない……何か特別な事情でもあるのだろうか。

 ……いや、そんなことよりさっきの『詳細不明』って……


「詳細不明って……一体どういうこと?実力差があるとこういう表記になるの?」
「……やっぱりそう見えたか。」
(……『やっぱり』?)
「どういうこと?……というか、ってなんで分かったの?」
「……人は他人のステータスを見る時、相手の体から自然に出てくる魔力をキャッチして、その魔力を分析してステータスを確認する……俺は、今お前にキャッチされる感覚を覚えたから分かったんだ。」
「……そ、そんなことができるの?」

 私はそんなもの感じたことないけど……


「ああ……まあ、そんなに難しいことじゃない。感覚さえ掴めれば誰でもできるもんだ。」
「へぇ~そうなんだ……今度私もやってみよっ!」

 魔力を感知する力か……ちょっと繊細っぽくて私に向いてるか分かんないけど、できたら強くなれるかな?


「……それで、なんでユウのステータスって見れないの?」
「………それも言え……?」



 ユウがそう言いかけた時、何故か店の周りをキョロキョロとし始める。

「……どうし……」

 私が言い切る前に、不意に店の扉が勢いよく開けられた。
 そして、扉を開けた1人の男が焦った表情で叫び出す。




「み……みんなっ、やばいぞ!街の外に魔物が大量発生している!あの数じゃここも…!!」
「え……嘘っ!?」
「街の中心まで逃げるぞ、お前たち!!」

 ……あの焦りよう、嘘ではないらしい。
 確かにこの店は街の端っこにあり、そもそも街と外の境界線にあるのは小さな壁だけなので、大勢の魔物が攻めてくればかなり不味いことになるだろう。


「に、逃げないと……ユウも逃げるよね?」
「……いや、俺は魔物のところに行く。ローナは先に逃げておくんだ。」
「え……だ、大丈夫なの?」
「ああ……俺なら心配いらない。」

 みんなが慌てふためいている中、ユウは特に焦ったりすることもなく、立ち上がって店を出ようとしていた。

 
 ……確かに、ユウの強さが本物ならよっぽどの魔物でない限り、やられてしまうようなことはないだろう。


(……………)
「……どうした、ローナ?」

 
 ……普通なら、私はここで逃げないといけないだろう。しかし……



 




(…………!)




「……ねぇ、ユウ。もしかして、魔物を倒しに行くの?」
「……そうだな。一応冒険者でもあるし、魔物が街に侵入してくる前に対処するつもりだが……」
「な、なら……私も一緒に、連れて行ってくれない?」
「…………何?」

 私の言葉にユウは驚き、眉を細めた…気がした。顔がよく見えないのでよく分からないけど。


「……お前に戦う力があるとは思えないが。」
「ま、魔法は一応使えるよ!ゴブリンぐらいしか倒せないと思うけど……」
「………それでも、来るつもりか?」


 ……ユウは、私の身を案じていってくれているのだろう。




(……でも、私には……『目標』がある。)



「……うん、行くよ。」
「…………

 









 ………分かった……だが、邪魔はするなよ。」


 その言葉には、脅すような色が見えた。
 

「うん、分かってる。」


 しかし、私はおくさず返事をした……それくらいしないと、無理にでも置いてかれそうだったから。




「……じゃあ、行くぞ。」












 ……この時、私は思ってなかった。







 この旅人……『ユウ』がこれから起こすでやることを…………私は一生、忘れないだろう。

























 そして…ここから始まる私の“物語”も。






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