ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Final Season

暁ーDiluculumー

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 ポラリスの槍術は以前、庭園で手合わせをしていた時と全く同じ動きであるためシリウスは致命傷は全て避け切ることができた。しかしポラリスのパワー、スピードは以前とは比べられないほど強化されている為、槍を受け止める腕は次第に痺れ、シリウスにつく傷も目立ち始めた。

(くそっ!!このままでは……かくなる上は……)

 シリウスは覚悟を決めるとポラリスの動きをよく観察する。振り下ろし、足払い、中段突き。その動きは近衛隊の訓練で新兵が最初に教わるものである。再び振り下ろし、中段突き、上段突き。今だ、とシリウスは一気にポラリスとの距離を詰める。槍の矛先が頬を撫でる。ポラリスは突いた槍を引き戻そうとするも間に合わない。シリウスはポラリスの頭に向かってその剣を振り下ろす。

 どちゅ。鈍い音と共にシリウスの剣ダーインスレイブみねがポラリスの頭を叩いていた。

「…………」

 ポラリスの動きが止まる。暗闇で覆われていた思考に小さな光が灯ると少しずつ、ゆっくりと広がっていくのを感じた。

「!!……俺の勝ちだな、ポラリス」

 ポラリスの目を見てシリウスは呟く。その目には光が宿り、体を覆っていた紅い鱗は灰のように散っていくとポラリスは元の姿に戻った。心なしか顔の白い部位が広がっている様に見えた。

「ぐっ……シリウスさん……すみません、自分は……」

 疲労からかポラリスは膝をつき、自分を失った恐怖から涙を流した。

「……いいんだ。それよりもまだいけるか?」

 シリウスはデネブを睨みつける。デネブの傷の治癒は完了しており、ポラリス達を眺めながら手を叩いていた。

「すばらしい友情劇をありがとう。……では次はどうするかね。二人で私を虐める気かい」

 言葉とは裏腹に余裕綽綽しゃくしゃくな様子である。

「ポラリス、悪いが無理でも立ってくれ」
「……当然です」

 ポラリスは不安定な足取りで立ち上がるとシリウスから耳打ちをされる。

「……奴の生命力は黒尸菌の回復力と奴自身の魔力による治癒で恐らく首をはねん限り死なないだろう」

 ポラリスは黙って聞く。暴走していた時の記憶でもデネブの強さを感じ取っており、簡単に首を切れる相手ではない。

「……だがもう一つ方法がある。お前のそのディールークルムだ」

 シリウスは思い出す。自分の負わせた傷は一瞬で修復してきたのにも関わらず、ポラリスが“ディールークルムで突き刺した傷は動きを止めてまで治癒に専念していたことを。

「いいか、二人で一気に畳み掛けるぞ。お前は隙を見て奴の急所をどこでもいいから突け。……例えお前一人になっても」
「シリウスさん……そんな……」

 ポラリスは困惑の表情を浮かべる。

「いいんだ……奴はここで殺さねばならない。俺の先祖アルタイルのためにも」

 二人はデネブを見やり、その一挙一動に注意した。

「話し合いは終わったかな。全く待ちくたびれたよ」
「……千年も待っていたんだろう。少しぐらい我慢しろよ……!!」

 話終える前にシリウスは火球ファイアボールを投げつける。デネブはそれをクレプスクルムで打ち払うと発生した爆煙を切り払うようにシリウスが斬りかかる。
 デネブはその攻撃に対応しながらも自身の背後から迫る一撃を魔法の障壁バリアで受け止める。

「くそっ!!」
「バレバレだよ。悪いが……“吹き飛べよ”」

 しかしポラリスは少しも動じない。

(また耳を……いや、魔法で聴覚を封印しているのか)

 デネブは二人の猛撃に流石に手を詰まらせたのか魔法で衝撃波インパルスを発動させ二人を吹き飛ばした。

『ポラリス!!次はもっとズラして奴のリズムを崩すぞ』
『はい!!』

 二人は念話テレパシーで会話をすると再びデネブに斬りかかる。

 二人の攻撃は時間が経つにつれて波長が合わさっていき、お互いの攻撃後の隙を完全に補えるカバーできるようになっていた。未だにポラリスの槍はデネブに傷さへ付けていないがその刃は少しずつだが確実のその体へと近づいていた。

(奴らがこそこそと話していた通り、“ディールークルム”は私にとって脅威だ。……神を殺して夜明けを取り戻した槍……恐らくこの世界の境界の線引きを明確にして異界の物を打ち払う力。私の異界の力黒尸菌にとってはまさに天敵だな。……!?)

 不意にデネブの頬を“ディールークルム”の刃が掠めた。

「……“西の神風ゼピュロス”」

 魔法で突風を発生させるとシリウスとポラリスは耐えられず吹き飛んだ。デネブは傷口から滴る血を手で拭い、見つめると自身の背筋を冷たい何かが流れるのを感じる。その事実がデネブを更に苛立たせた。デネブから発される気配が更に暗く、異質なものに変わった。
 ポラリスはその気配に気圧されるも再度の攻撃に向けて構え直す。

「……もう十分だ。君たちはよくやったよ」

 デネブは黙って魔法でその体を浮かべると剣を空に掲げる。すると掲げた剣に魔力が集まりその刀身を白く輝かせた。同時にデネブの背に巨大な輝く翼が発生する。

「“我は神の使い。天よりの監視者にして調停者”」
「あれは……“天使達グリゴリ”……」

 デネブの唱える呪文を聞き、シリウスは身を凍らせる。
 “天使達グリゴリ”。シリウスも文献でしか見たことがないが範囲は狭いが威力は“失楽園エルシオンに匹敵すると言われている。

 シリウスは魔法によって自身から離されたポラリスを見やる。ポラリスは飛翔魔法を扱えないため自分一人だけでデネブをなんとしてでも止めるしかないだろう。
 シリウスは飛翔魔法で飛び立つと詠唱を続けるデネブに斬りかかる。予想外にも彼に反撃の意思はなく、あっさりとその刃によって両断された。

(……!!)

 シリウスは驚愕する。まるで風を切ったかのように手応えの後、デネブの体は霧のように消え去りシリウスの目には自分に向けて剣を突き刺すデネブの姿が映った。

「残念だったね。幻だよ」

 どしゅ。シリウスの腹から熱く、そして冷たい感触が広がっていく。
 腹部から湧き上がる痛みにシリウスは顔を歪めた。そんな彼の表情を嘲笑うかのようにデネブは囁く。

「君は先程、彼に一人でも戦うようにと言っていたが、残念ながら彼一人では私には勝てんよ。……安心しなさい。君も彼もすぐに楽にさせてやろう」
「……」

 シリウスは黙り込むと震える手をデネブの肩に伸ばすと、そのままがっしりと強く掴んだ。

「……悪あがきのつもりかい? 君はよくやったさ。アルタイルも鼻が高いだろう」
「……ふっ」

 シリウスは鼻で笑うとその体を黒い霧と化しデネブの視界いっぱいに霧散した。デネブはその行動に違和感を覚える。

「……何のつもりだ? 今更、霧化したところでこの“黄昏クレプスクルム”の前には意味をなさんぞ。……!!」

 デネブは驚愕する。黒い霧の先から黒い刀身がデネブに向かって姿を現したのだ。

(これは“ディールークルム”!?)

 シリウスの黒い霧の先。槍の投擲を終えたポラリスはその結末を見守っていた。

 ポラリスは思い返す。それはシリウスが自分の耳元で作戦を伝えていた時であった。

「……奴の生命力は黒尸菌の回復力と……」
『ポラリス、俺が実際に話していることはデネブにも筒抜けの筈だ』

 耳から伝わるシリウスの声に被さるようにポラリスの頭に彼の声が響いた。念話テレパシーで話しているのだろう。

『いいか、まずは二人で奴を攻め立てるぞ。流石の奴も痺れを切らしてどちらかに……恐らく俺に狙いを定めて仕留めてくるだろう。俺は出来るだけ奴の動きを封じ、視界を遮る。お前は……俺ごとでいい、その槍をデネブに叩き込め』

 そこでシリウスの念話は終わった。

「シリウスさん……そんな……」

 ポラリスはその作戦を否定しようにもシリウスの顔がそれを許さなかった。
 そして実際にシリウスがその身を糧にデネブの動きを止めるとポラリスは迷いを捨てて跳び上がり、“ディールークルム”をシリウスの先にいるデネブへと思い切り投げた。
 投擲を終えた後もポラリスの胸は高鳴り、刹那の時間が遠く、長く感じた。

 しかし、そんなポラリスの心情とは裏腹にデネブは落ち着き払っていた。

(ふむ、この距離では流石に避けられないな……だが)

 クレプスクルムで打ち払えば自身の心臓を目掛けるその槍の軌道はずれ、致命傷は避けられるだろう。

 だが、デネブは気付く。“ディールークルム”は今、シリウスに“触れて”いることに。

「“神速スレイプニル!!”」

 霧となったはずのシリウスから魔法の詠唱が聞こえると“ディールークルム”はさらに加速され、まさに神速の速さでデネブの胸に突き刺さった。
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