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Season3

侵攻ーAttackー

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 朝日が昇らぬうちに防衛の準備を始める。シリウス、チャック、ヤンに加えてアイリーンが前衛で敵の殲滅、それ以外はこの城で最も守りの固い王室に篭ることとなった。アイリーンの前衛への配置は本人の希望でありシリウスは最初は反対したものの設置魔法陣の任意での起動と敵の接触での起動の確認が魔力を込めたアイリーンにしかできない事を理由に渋々認めざるを得なかった。

「エストレア、ビル。そちらは頼んだぞ」

 手負いのエストレアとビルは王室で非戦闘員の護衛に当たることとなった。
 まだ日も昇っておらず辺りは真っ暗であり、幼いジョシュとルーナは眠い目を擦りながらカレンに引率されていた。カレンは今まで盗賊ギルドで自分よりも二回りも年上の年長者ばかりに囲まれてきたからか、城に来てから自分よりも幼い二人の面倒を見ることに張り切っていた。

 庭園から王室までの道にいるゾンビは昨日、チャックとヤンに誘き出された所をシリウスが一網打尽にしたためほとんどいなくなっていた。
 王室に到着すると国王は両手で扉を閉め、魔力を込める。すると扉に幾重もの魔法陣が張られた。

「これでこの部屋は内側からしか開かん。後はシリウス達に任せよう」

 
 ガラクシアに朝日が昇る。シリウス達は城壁の上から東から昇る日の光と向き合う。
 しかし、その目に捉えるのは太陽ではない。ガラクシアの中心にある城から東の港まで真っ直ぐに伸びる大通り。その先に戦士ギルドの拠点は存在する。

 日が高くなるにつれて街が明るくなっていく。一同はそこで初めて城に迫る百数人の戦士の行進を目視できた。

「ひでぇ……」

 集団の中に掲げられた十数本の十字架には王権派と思われる戦士ギルドのメンバーの死体がくくり付けられていた。その中には七英傑にして戦士ギルドマスター、戦神ダイムラーの姿もある。その異様な光景を前にヤンが息を呑む。
 シリウスは集団の先頭の馬に跨る男を黙って睨む。純白の鎧に纏われた恵まれた体つきに小綺麗に整えられた金色の髪と髭。神の子メルセデスは涼しげな視線をシリウスに返す。
 
 メルセデスとシリウスは十ばかり歳は離れているが共にダイムラーに剣の師事を受けていたこともあり昔からの顔馴染みであった。しかし表には出さなかったが反王権派のメルセデスにとって王家のシリウスはいわば敵であり、シリウスも彼の内にある自分への憎悪に似た感情を感じ取り、二人の仲は自然と犬猿となっていた。

「悪いが容赦はしないぞ……神の鉄槌ミョルニル!!」

 メルセデスに向かって天から雷の一撃が落ちる。しかし、その攻撃は彼に直撃する前に消え去った。

「……外道め……」

 集団の前方の数十人の戦士が天に向かって盾を構える。それは近衛隊の鉄壁ファランクスと同様に魔法による加工が施され、盾同士で魔法陣を形成して周囲に障壁を張る。加えて盾の一つ一つには魔術師の首が貼り付けられ、その魔力を向上させていた。

「終わりにしようか、シリウス。今日、我々は自由を手に入れる」

 攻撃されてなおその涼しげな表情を崩さず、メルセデスはゆっくりと片手をあげる。それを合図に戦士達は一斉に城に向かって走り始めた。


 ガラクシアの城の周りは深い堀で囲まれ、唯一の入り口は城の西側の石橋で繋がる正門のみであった。対して戦士ギルドは東から攻めてくる。その侵攻はもちろん堀に阻まれ、彼らは西の正門まで回り込むのを余儀なくされるはずだ。
 しかし、彼らは回り込む素振りも見せずそのまま直進してくる。
 最初に掘にたどり着いた数人の戦士が手を合わせ魔力を練り上げると戦士達の体から木の枝が突き抜けて生え出し、合わさって巨大な大木となり堀を越えて城へと繋がる。
 後続の戦士達はそれを橋代わりとして城まで乗り越えていった。

 シリウスは魔法で迎撃を試みるがその殆どが盾で防がれる。ヤンもクロスボウで一人づつ確実に仕留めていくが敵の士気が落ちる気配は全く無い。
 
「城内まで引くぞ!!」

 シリウス達は城内でチャックとヤン、シリウスとアイリーンの二手に分かれた。

 
 戦士ギルドは城内に侵入したのち、メルセデス率いる城の制圧を目指す本隊とシリウス達の殲滅を目的とする分隊に分かれた。シリウスは追ってくる戦士を各個撃破しながら本隊への攻撃を伺う。
しかし、その動きにどこか違和感を感じた。メルセデス達本隊が王室に向かって迷いなく真っ直ぐに進行していた。本来、城の正確な構造は外部には秘匿されており初見の者が目的地に迷いなく進むことなど不可能なはずである。

「アイリーン、魔法陣は?」
「何個かは発動したけど……王室までの通路に仕掛けたのは発動してないの……」

 やはりおかしい。魔法陣はメルセデス達が侵攻している通路にも設置してあったはずである。

「こちらから発動できるか?」
「やってみる……。!!発動しない!!」

 異常事態にアイリーンは目を丸くする。

「……妨害魔法ジャミングか、或いは解除されたか。……しかしなぜ場所が分かる……」

 こうしている間にもメルセデス達が迷いなく王室に向かうのを索敵サーチで感じ取る。シリウスはすぐにチャック達に念話テレパシーを送った。

『チャック、ヤン、どこにいる!?』
『4階だ。しかし、何かおかしい。こいつらまるで、俺たちを足止めしているような感じだ。』
『……そっちもか。先に王室で皆んなと合流してくれ。俺らもすぐに向かう』

 城内で撹乱しながら大方殲滅するという当初の作戦は既に瓦解し、王室に立て篭ることを余儀なくされた。


「俺たちだ!開けてくれ!!」

 ヤンが王室の扉を叩く。魔法による加工でまるで絶壁のようにびくともしなかったがすぐに国王によって扉が開かれる。

「そちらはどうなっておる?」
「それが、奴らまるでここの場所が分かるみたいに一直線に向かってきます」

チャックの報告に国王も怪訝な顔をする。

「シリウス達もすぐにこちらに向かうようです」
「……篭城戦になるか……」
「国王、シリウス殿との念話は可能ですか?」

 ビルが尋ねる。国王はその問いに肯定し、自身を経由してビルとシリウスを繋げる。

『シリウス殿聞こえるか。今、国王を介して話している』
『ビルか。そちらの様子は?』
『まだ敵は来ていない。君たちはまだそこで待機していてくれ』
『?どういうことだ?』
『王室に閉じ込められ、こちらの衰弱を待たれると勝機が薄くなる。シリウス殿は外で待機し、時が来たら一気に攻勢に出よう』
『……挟み撃ち、というわけか』

 ビルの提案は王室で篭城し、好機を伺い王室内のメンバーとシリウスで敵の前方、後方両面から一気に落とすというものだ。
 シリウスはその提案を了承し敵に見つからぬよう身を隠した。


 シリウスとの会話を終えた数分後、王室の扉が大きく揺らいだ。

「……来よったか」

 怯えるジョシュとルーナを下がらせ、エストレアが前に出る。ビルも国王たちの前に立ち塞がり、扉を睨みつける。

「ここの魔法陣は特別性じゃ。大賢者でもない限り開けられん」

 国王の言う通り、扉への攻撃は激しいものだが扉が傷つく気配すら見られない。
 数回の大きな衝撃の後、不気味な静寂が訪れた。

「……諦めたか……」

 一同が安堵した時、眩い光と共に魔法陣は掻き消され、扉がゆっくりと開く。
 その先からメルセデスが不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと王室に入場する。

「会うのは久しぶりですね。国王陛下」
「……どうやった……」

 依然、涼しげなメルセデスに国王が尋ねる。
 メルセデスは懐から水晶を取り出し、見せつけた。

「いやぁ、やはり革命を成功させる秘訣は有能な協力者ですな。こんな便利な代物を教会が保持していたとは」

 そう言うとメルセデスは魔力の切れた“解除の水晶オーブ”を握り潰す。

「やはり教会が……」

 困惑する一同をよそに戦士ギルドの者達は次々に王室に入り込んでくる。

「……革命?この滅んだ国の王にでもなる気?」
「なにも国取りだけが革命ではないよ、エストレア。我々はただ自由に生き、自由に戦いたいだけだ。だから解放するんだよ。我々自身を目障りな王家からね」
「そう、なら勝手に戦って勝手に死になさい」
「たはは。手厳しいね」

 エストレアの鋭い言葉を茶化すように頭を掻く。

「メルセデス殿、何故ダイムラー殿を……」
「おや、ビルさんも城に逃げていたんですね。姿が見えなかったんで心配しましたよ」
「……戯言を……」
「……もちろん親父には感謝していますよ。俺に剣を教え、ここまで鍛えてくれた。でもね、頭が硬すぎたんだよ。このままでは我々はこの国に飼い殺されるだけだ。だから退場してもらったよ」

 メルセデスの言葉にビルは怒りの眼差しを向ける。

「……ビル、もう対話は無用だ」
「そのようだな。ダイムラー殿の無念、この猛獣ビル・マーレイ・ワゴンが晴らす!!」

 武器を構え、両者の間に緊迫した空気が流れた。
 しかし、その空気をかき消すようにメルセデスは吹き出すと笑い声を部屋中に響かせた。それにつられるように後ろで控えていたバーゲンとフォードも腹を抱えて笑う。

「はははは。おいおい名演技だな。役者の道もあったんじゃないか。なあ、ビル・マーレイ・ワゴンBMW

 ビルは口元を歪めて笑うと後方の国王を手に取った。
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