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Season1

剣聖ーGrandfatherー

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「あんた……本当にアンデットに成り果てちまったんだな……」

 カヲルの死体を見てシリウスが語りかける。答えは期待しなかった。
 
 シリウスはムサシのことを思い出した。自分が剣を覚えてすぐの頃、がむしゃらな自分に剣技と剣を持つものの心構えを教えてくれた。その教えは勇者とも呼ばれるようになったシリウスを今も形作っている。
 見た目からは堅物と思われがちだが、話して見るととても気さくで孫娘であるカヲルの自慢話を始められると朝まで逃げられなかった。

 恐らくそんな祖父をカヲルは自分で止めたかったのだろう。しかし怪物に成り果てた彼にはそんな彼女の思いは届かなかった。

 ……俺が解放してやる。

 目蓋を一瞬だけ閉じ、決意する。

 目を開けるのと同時にムサシに踏み込んだ。


「……我流……十字一筆……」

 ムサシは目にも止まらぬ速さで長い刀を振ると、まるで同時に切りつけたように十字に斬撃が浮かぶ。

「!?」

 何とか剣を盾にその斬撃を防ぐもシリウスは内心驚いた。

(なんだ……この精密な技は……まるで生前そのままだ)

 通常、アンデットになった時点で知能のほとんどは失われる。高度な術であれば生前の記憶をある程度引き出すことも可能であるが、ムサシの場合は訳が違う。体が覚えている、というレベルではないのだ。その計算され尽くされた体の動きはアンデットに再現できていいものではない。

「……黄泉送り…」

 一歩でシリウスまでの距離を詰めると袈裟斬りを狙うように剣を振り下ろす。

「!?」

 宙に切り落とされた腕が舞った。




 それはムサシの腕であった。

「……我流横一文字……あんたから教わった技だ。もう終わりにしよう」

 ムサシは刀を持つ腕を切り落とされており、武器はもう何も持っていなかった。
 シリウスは剣聖の首を切り落とすため剣を突き立てようとする。
 しかし、ムサシは片手でそれをいなし、シリウスを背負い投げして吹き飛ばす。

「何っ!!」

 アンデットの意外な攻撃に面食らう。ムサシに向き直すとさらに驚くことになる。
 何とムサシが切り落とされた腕を拾いあげそのまま切断面に抑えつけた。治癒魔法のような淡い光が発せられたと思うと完全にくっついていた。

「……これは思ったより長丁場になりそうだ……」

 シリウスは苦戦を覚悟した。


「……おかしい、シリウス殿はこの程度の実力だったか?」

 シリウスの動きを見ながらビルが疑問に思う。

 この世界の剣士は強い体を作ったり剣技を覚えるだけでは半人前である。自身に流れる魔力マナを制御し身体能力を向上させることで初めて一人前と呼ばれる。一流の剣士は魔力操作であれば魔術師以上であるとも言われる。
 勇者アルタイルの再来とも呼ばれるシリウスは魔力量も膨大でありそれを完璧に制御することで超人的な身体能力を得ていた。
 そのはずが剣聖とは言え全盛期を過ぎた老人…しかもアンデットにここまで苦戦するとはシリウス自身想像していなかった。
 それほどシリウスの精神的な疲労が彼の身体だけでなく魔力量や魔力操作を妨害していた。

「“荒れ狂う獅子ブーツ・ルーヴェ”!!」

 魔力を帯びた剣がまるで獅子のようにムサシに襲いかかる。しかしムサシはそれを最小限の動きで避ける。
 それでもシリウスは果敢に攻め立てる。どれだけ不調でも関係ない。
勇者の子孫として生まれた自分には敗北は許されないのだ。

 しかしそんなシリウスの気負いが彼らしからぬミスを招いた。

「……我流……振り逃げ……」
「!!」

 ムサシの長刀の死角でもある懐に飛び込んだシリウスをムサシは距離を取りながらの一振りで撃退した。
 攻撃に意識を向けていたシリウスは防御が間に合わず腹を切られてしまった。

「!!シリウス殿!!」
「はぁはぁ……大丈夫だ……」

 幸い傷は浅かった。しかしシリウスは久方ぶりの負傷、久方ぶりの痛みに少し怯んでしまった。

「!!……もう終わらせる気か……」

 ムサシはシリウスに向けて刀を構え、魔力を刀に貯めていた。

「……あんたの最後の果し合い、付き合おう……」

 シリウスもムサシと同じ構えを取ると魔力を剣に貯める。この技は最後にムサシに教えてもらった技であった。

「……我流……奥義……」

「「万象一閃!!」」

 二人が互いに駆け出し、剣が交差する刹那、激しい光が辺りを包んだ。


 光が消えると二人とも技を出し終えたのだろう、背を向けて立っていた。

「ぐふっ!!」

 シリウスが身体中から血を噴き出し、膝をつく。

「……み……ご…と……」

 ムサシの首元から血が勢い良く吹き出る。左手と右足は細かく切り刻まれ、まるで灰になったよう消えて行った。

「……!?」

 最後の力を振り絞っているのだろうか。ムサシは残った手足で這うようにカヲルの亡骸に近づくとその存在を確かめるように右手を彼女の頬に優しく添えるとそのまま動かなくなった。
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