7 / 106
Season1
兄妹ーFamilyー
しおりを挟む
「もう大丈夫よ。扉を開けて」
アイリーンが扉の奥に語りかける。鍵をかけているのだろう。扉はびくともしなかった。
「嘘だ!おまえらも怪物の仲間なんだろ!ママを元に戻せ!」
中からまだ幼い男の子の声が聞こえた。先程倒した女性の息子なのだろう。こちらを疑い、開けてくれる気配はない。
「仕方ない。私がこじ開ける。ポラリス君達は彼女を見られないようにしてくれ」
母親の亡骸をアイリーンと別室に運ぶ。ちょうど入った部屋は寝室のようだった。床に横たわせるのも忍びないのでベッドに寝かせた。
死体の移動を確認するとビルは扉に体当たりした。絶妙に加減をしたのか扉の蝶番だけが外れた。
部屋の中には木でできたおもちゃの剣を両手に握る男の子とその袖を掴み後ろに隠れる女の子がいた。男の子は8才、女の子は5才くらいだろう。突然部屋に入ってきた大男に二人は怯え、固まってしまっていた。ビルも二人の様子に迂闊に動けなくなってしまった。両者の間に一時の沈黙が流れる。
ビルの後ろからポラリスとアイリーンが顔を出し、部屋に入ってくるとと二人は少し安心した様子で二人に駆け寄った。
「兵隊さん!助けて!トロールが入ってくる!」
男の子がビルを指差して叫ぶ。ビルは少し悲しい顔をした。
「あの人はちょっと大きくて怖いかもしれないけどトロールじゃないよ。とっても強くて優しいんだ」
「そうなの?」
膝をついて男の子と同じ目線で話した。ポラリスの弁護にビルも頷く。
「兵隊さん!ママがおかしくなっちゃったんだ!でも妹をちゃんと守ったよ。お兄ちゃんだからね」
「うん。えらいえらい」
アイリーンが男の子の頭を撫でると少し照れ臭そうにした。
「ねえママは?」
男の子の後ろに隠れていた女の子が泣きそうな声で尋ねた。
「もうすぐ妹が生まれそうだからお手伝いしなきゃなの」
「妹じゃないよ弟だよ!」
「妹よ!」
二人とも泣き出しそうになってしまった。ポラリスもアイリーンもかける言葉が出てこなかった。
「君たちのお母さんは…」
ゆっくりとビルが二人に近づき、こちらも膝をつく。子供達と同じ目線になろうとしているようだがそれでも二人の2倍くらい高く見えた。さらにぐっと背中を屈めて無理やり目線を合わせた。
「君たちのお母さんは神様の所へ行ったよ。」
「神様のところ?神様はどこにいるの?」
「ここよりずっと遠くて近いところさ。デネブ様と一緒に見守ってくれているはずだ」
「デネブ様と!?すごいすごい!」
法皇デネブは1000年前、この国、ラウム王国を創った三英雄の一人であり、ラウム教を立ち上げその教えで人々を死の恐怖や生の苦難から救ったという。その遺体は未だに大聖堂に安置され、未来永劫、法皇の地位にある。
人口7万人にもなるラウム王国ガラクシアの8割もの人がラウム教を多かれ少なかれ信仰している。
三英雄の名前に二人ははしゃいだ。ラウム王国の子供達は三英雄の英雄譚を聞いて育ち、皆憧れる。それはポラリスも例外でなく、兵士になり人々を守る動機を与えた。
「うん。デネブ様とお母さんも今でも二人を愛しているはずだよ」
ポラリスは二人の頭を撫でた。
男の子、ジョシュと女の子、ルーナを連れて民家から出るとき、ポラリスは一人母親を安置した寝室を振り返った。
(絶対にあの子達を守りきってみせます。だからどうか穏やかに眠ってください)
新たな決意を胸に城に向かう。
アイリーンが扉の奥に語りかける。鍵をかけているのだろう。扉はびくともしなかった。
「嘘だ!おまえらも怪物の仲間なんだろ!ママを元に戻せ!」
中からまだ幼い男の子の声が聞こえた。先程倒した女性の息子なのだろう。こちらを疑い、開けてくれる気配はない。
「仕方ない。私がこじ開ける。ポラリス君達は彼女を見られないようにしてくれ」
母親の亡骸をアイリーンと別室に運ぶ。ちょうど入った部屋は寝室のようだった。床に横たわせるのも忍びないのでベッドに寝かせた。
死体の移動を確認するとビルは扉に体当たりした。絶妙に加減をしたのか扉の蝶番だけが外れた。
部屋の中には木でできたおもちゃの剣を両手に握る男の子とその袖を掴み後ろに隠れる女の子がいた。男の子は8才、女の子は5才くらいだろう。突然部屋に入ってきた大男に二人は怯え、固まってしまっていた。ビルも二人の様子に迂闊に動けなくなってしまった。両者の間に一時の沈黙が流れる。
ビルの後ろからポラリスとアイリーンが顔を出し、部屋に入ってくるとと二人は少し安心した様子で二人に駆け寄った。
「兵隊さん!助けて!トロールが入ってくる!」
男の子がビルを指差して叫ぶ。ビルは少し悲しい顔をした。
「あの人はちょっと大きくて怖いかもしれないけどトロールじゃないよ。とっても強くて優しいんだ」
「そうなの?」
膝をついて男の子と同じ目線で話した。ポラリスの弁護にビルも頷く。
「兵隊さん!ママがおかしくなっちゃったんだ!でも妹をちゃんと守ったよ。お兄ちゃんだからね」
「うん。えらいえらい」
アイリーンが男の子の頭を撫でると少し照れ臭そうにした。
「ねえママは?」
男の子の後ろに隠れていた女の子が泣きそうな声で尋ねた。
「もうすぐ妹が生まれそうだからお手伝いしなきゃなの」
「妹じゃないよ弟だよ!」
「妹よ!」
二人とも泣き出しそうになってしまった。ポラリスもアイリーンもかける言葉が出てこなかった。
「君たちのお母さんは…」
ゆっくりとビルが二人に近づき、こちらも膝をつく。子供達と同じ目線になろうとしているようだがそれでも二人の2倍くらい高く見えた。さらにぐっと背中を屈めて無理やり目線を合わせた。
「君たちのお母さんは神様の所へ行ったよ。」
「神様のところ?神様はどこにいるの?」
「ここよりずっと遠くて近いところさ。デネブ様と一緒に見守ってくれているはずだ」
「デネブ様と!?すごいすごい!」
法皇デネブは1000年前、この国、ラウム王国を創った三英雄の一人であり、ラウム教を立ち上げその教えで人々を死の恐怖や生の苦難から救ったという。その遺体は未だに大聖堂に安置され、未来永劫、法皇の地位にある。
人口7万人にもなるラウム王国ガラクシアの8割もの人がラウム教を多かれ少なかれ信仰している。
三英雄の名前に二人ははしゃいだ。ラウム王国の子供達は三英雄の英雄譚を聞いて育ち、皆憧れる。それはポラリスも例外でなく、兵士になり人々を守る動機を与えた。
「うん。デネブ様とお母さんも今でも二人を愛しているはずだよ」
ポラリスは二人の頭を撫でた。
男の子、ジョシュと女の子、ルーナを連れて民家から出るとき、ポラリスは一人母親を安置した寝室を振り返った。
(絶対にあの子達を守りきってみせます。だからどうか穏やかに眠ってください)
新たな決意を胸に城に向かう。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
超人ゾンビ
魚木ゴメス
大衆娯楽
「十三歳でセックスしたら何が悪いんですか?」──こいつは何を言っているんだ?
日本中を震撼させた「歴代Z務事務次官連続殺害事件」の犯人が逮捕された。
Z務省──それは官庁の中の官庁にして時の首相をも操る、国家の中のもう一つの国家とも言うべき存在。
その頂点に立つ、上級国民の中の上級国民たる歴代Z務事務次官を十人殺すという、日本社会最大のタブーを犯した男の奇妙な告白から始まる物語──
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる