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君の名は

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「ティアってティアやないんかぁ?」

 展望広間にテーブルとイスを用意して、彼女と一緒にアフタヌーンティー。広大な銀世界をバックにしたお茶会は、とても壮大で絵になる。せっかくなので用意した3段のスタンドは、ロボが順に重ねてくれて、サンドイッチ、スコーンを経て、現在トップのケーキプレートに。とても本格的。

 ティアが至福の時間を満喫していたところ、どこからともなくぎつけたのか。ひとつ下、3階の住人であるハオロンがひょっこりと顔を出し、勝手に呼び寄せたイスに座って、彼女からケーキを半分もらい食べていた。
 もぐもぐと動く口で、ティアはティアじゃないの? いつぞやのセトみたいな質問をしている。

——お前は〈ティア〉か?


「……その質問は、本名の話をしてる?」

 ほのかな花のフレーバー。ティーカップから口を離して、ティアはハオロンに目を返した。「うん」と、口にケーキを含んだまま、ハオロンはうなずいた。こくりとみくだし、

「この前、倒れたときに……〈アレシア・フロスト〉って言われてたからぁ……」
「……うん、データ上はそっちが正しいね」
「そぉなんか。うちと一緒で、女の子みたいな名前つけられてるんやの」
「え? ……ロン君の名前って、ドラゴンなんでしょ? そっちの地域は女の子にそういう名前つけるの?」
「ん~ん、男女どっちもつけるわ」
「……うん?」

 会話がみ合っていない。
 こちらの名前は完全なる女性名なのだが。

 考えていると、ハオロンの横にいる彼女が何か気になる感情を浮かべ、横目を流した。

「……はおろん、」
「なに? ありす」
「てぃあは……はおろんの〈なまえ〉、しらないのかも……?」
「あぁ!」

 オレンジブラウンの眼が、彼女からティアへ。

「うち、ハオ・シンロンって言うんやって!」

 それは初耳。
 ティアは肩をすくめて「って言われても、僕にはそれが女の子っぽいのかどうか、よく分からないからね?」いちおう補足しておいた。彼の文化は、ふんわりと表面しか知らない。それもすべて映画のイメージであるし。

「シンが嫌なんやって! 子供の頃、バカにしてくる子もいたわ……ほんとゆるせん」
「ふぅん?」
「ティアはないんか? こっちは差別に厳しいからかぁ?」
「僕は特殊だから」
「とくしゅって?」
「……長いあいだ、僕は女の子として育てられてたんだよ」

 思いきって言った話だったが、ハオロンの反応は「へぇ~」
 ロボにオーダーしていたらしく、新たなケーキをもらい、そちらにほとんどの気持ちを向けていた。

「ねぇ、それより、さっきメルウィンとアリアも呼んだんやけどぉ……来るって連絡きたから、テーブルとイス追加しよっさ」

 さすが。
 いろんな意味で、さすがハオロン。しれっと勧誘まで。
 ティアが閉口していると、もうひとり。

「——なァにやってンの♪」

 展望広間に、ざらりとした声が響いた。振り返るまでもない。まぁ彼はこの4階の住人なので仕方ない。

「ろき」

 座る彼女の後ろにまわり込んで、「ウサちゃん見っけ」長い身体を傾けて抱きついている。セトがイラつくのも分かる。いまだに彼だけ遠慮がない。
 ハオロンの目がロキに向き、「ほや。あんたも偽名仲間やの」不名誉なグループ分け。ロキと一緒くたにされた。
 あらかじめ一部の会話が聞こえていたのか、ロキは「アレシアちゃんと杏杏シンシンちゃん、女3人そろってお茶会かァ~」綺麗に地雷を踏むあたり、さすが。こちらも、さすがロキ。

 ハオロンとティアの冷たい目を一切気にしないロキに、彼女が思い出したように首をかしげ、

「ろきの〈なまえ〉は……なに? へやの〈ぷれーと〉、ろきじゃない?」
「さぁねェ~? ま、本名なんてどうでもいいじゃん」

 墓穴を掘るとはこういうこと。
 ティアはニコリと笑って、「ロキ君の本名はルカなんだよ、似合わないでしょ?」嫌みとセットで伝えてあげた。

「あッ余計なこと言ってンなよ!」
「ほらアリスちゃん、せっかくだし発音してみて」
「るーか?」
「うん、上手上手」
「てめェ……」
「アリスちゃんは知らないだろうけど、かつて中二病というやまいがあってね。僕はそれだと思ってるんだよね、ロキ君のこと」
「ちゅーに?」
「そんな単語覚えンなって!」

 焦るロキなど、めったに見られない。ハオロンが「あははは! ロキは永遠の思春期やわ!」明るい声で笑っていた。
 余計なことを追加しようとするティアから守ろうと、ロキは彼女の耳を両手でふさぐ。

「もォいいじゃん! 謝ってやるから黙れよ!」
「え~? どうしよっかなぁ?」

 にぎやかな声は、展望広間に差し掛かっていたメルウィンとアリアにも届いていた。

「おや、なんだか楽しそうですね」
「……僕、知らないんだけど、〈chuuniチューニ〉ってどんな病気?」
「そのような疾病しっぺいはありませんね」
「……え?」

 ふふ、と笑みをこぼすアリア。
 メルウィンは意味が分からず、きょとりとした顔で見返していた。
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