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可愛かった、近所の男の子
バッドエンドを蹴っ飛ばせ 1
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「オレさ~、おっきくなったら陽菜お姉ちゃんと結婚したい」
中学生の頃、近所の男の子から、事あるごとに言われたセリフがある。
両親が不在なことが多く、放置されがちだった小さな君は、ふらりふらりと遅い時間まで歩き回っていて。何度も見かけるうちに、つい家に呼んで、宿題や夕食など面倒を見るようになっていた。
私の両親も心配していたから、あちらの両親に連絡を取ってみたらしいけれど、効果はなく。いつのまにか弟ができたかのような感覚で、あの子——ルカは我が家になじんでいった。
小さなルカが例のセリフを口にするたびに、私の両親は笑って、
「小さな許嫁くんねぇ」
「結婚相手が見つかってよかったなぁ」
子供の言うこと、冗談みたいなもの、と。のんきに受け流していた。
——冗談で済ませられなくなったのは、私が20歳のとき。彼は中学生だった。
小学生の後半から身長がぐんと伸びて、中学生の時点で私を越えていた。それでも、私のなかでは〈可愛いルカ〉だったから……警戒なんて、みじんもなかった。
「——陽菜ちゃん、オレのことスキ?」
女の子みたいに可愛い顔で、そのセリフを口にした君は。
私の部屋のベッドの上で、私を組み敷いていた。
真っ青になる私の顔を見下ろして、それでも平然として。
「ルカくん……どいてもらえる……?」
「ヤだ」
「……冗談だよね? ふざけてるだけなんだよね?」
「オレは本気だけど? 分かんねェの?」
茶色がかった髪が、垂れ下がって影を作る。笑う顔が、わずかに狂気を帯びた気がした。
「……オレ、大人になるまでいい子にしてたら、ほんとに結婚できると思ってたのになァ……だから、陽菜ちゃんがハタチになるまで、何もしなかったのに」
上から伸びてきた手が、さらりと私の顔にかかる髪を払った。その手は離れることなく、頬に添えられる。
「……なんで、オレ以外のヤツと付き合ってンの?」
無邪気さの残る顔に、大人びた色をのせ、彼は笑ってみせた。ひんやりとした寒気が、そっと背筋をなでていく。
「……ルカくん、いったん……離れて」
「ヤだね」
頬から外れた手は、私のシャツのボタンに指をかけた。寒気が、警告の熱を発して脳にひらめき、とっさに抵抗しようと試みるが、押さえられていない左手しか使えない。その手で彼を押してみるが、微動だにしない。
「……ね、これ以上は、ほんとに、私も……」
——大声を出すよ?
忠告は、発せられることなく彼の唇に消えていった。
付き合いたての彼氏とも、まだキスなんてしていない。初めてだった。
触れた唇は一瞬で離れたが、確かめるようにもう一度強く重なる。驚きに凍りついている私の抵抗がないのをいいことに、遠慮なく深く交わろうと舌がすべり込んできて——
思わず、歯に力が入ってしまった。
「いっ……た」
反射的に咬みついた痛みからか、ぱっと顔が離れ、彼はボタンを外していた手で口もとを押さえた。緩んだ力に、はっとして、
「——やめて!」
大声とともに全力で抵抗した私に、異変を察した両親があわてて部屋へと飛び込んできたため、凶行は未然に終わった。
ただ、未然だったからといって、なんの免罪符にもならず。衝撃を受けた両親は当然だが彼を二度と家に入れなくなり、そこからパタリと会う機会がなくなった。……両親が、相手の親に話をつけたのかもしれない。
とにかく、そこからしばらく、彼を見かけることすらなかった——。
中学生の頃、近所の男の子から、事あるごとに言われたセリフがある。
両親が不在なことが多く、放置されがちだった小さな君は、ふらりふらりと遅い時間まで歩き回っていて。何度も見かけるうちに、つい家に呼んで、宿題や夕食など面倒を見るようになっていた。
私の両親も心配していたから、あちらの両親に連絡を取ってみたらしいけれど、効果はなく。いつのまにか弟ができたかのような感覚で、あの子——ルカは我が家になじんでいった。
小さなルカが例のセリフを口にするたびに、私の両親は笑って、
「小さな許嫁くんねぇ」
「結婚相手が見つかってよかったなぁ」
子供の言うこと、冗談みたいなもの、と。のんきに受け流していた。
——冗談で済ませられなくなったのは、私が20歳のとき。彼は中学生だった。
小学生の後半から身長がぐんと伸びて、中学生の時点で私を越えていた。それでも、私のなかでは〈可愛いルカ〉だったから……警戒なんて、みじんもなかった。
「——陽菜ちゃん、オレのことスキ?」
女の子みたいに可愛い顔で、そのセリフを口にした君は。
私の部屋のベッドの上で、私を組み敷いていた。
真っ青になる私の顔を見下ろして、それでも平然として。
「ルカくん……どいてもらえる……?」
「ヤだ」
「……冗談だよね? ふざけてるだけなんだよね?」
「オレは本気だけど? 分かんねェの?」
茶色がかった髪が、垂れ下がって影を作る。笑う顔が、わずかに狂気を帯びた気がした。
「……オレ、大人になるまでいい子にしてたら、ほんとに結婚できると思ってたのになァ……だから、陽菜ちゃんがハタチになるまで、何もしなかったのに」
上から伸びてきた手が、さらりと私の顔にかかる髪を払った。その手は離れることなく、頬に添えられる。
「……なんで、オレ以外のヤツと付き合ってンの?」
無邪気さの残る顔に、大人びた色をのせ、彼は笑ってみせた。ひんやりとした寒気が、そっと背筋をなでていく。
「……ルカくん、いったん……離れて」
「ヤだね」
頬から外れた手は、私のシャツのボタンに指をかけた。寒気が、警告の熱を発して脳にひらめき、とっさに抵抗しようと試みるが、押さえられていない左手しか使えない。その手で彼を押してみるが、微動だにしない。
「……ね、これ以上は、ほんとに、私も……」
——大声を出すよ?
忠告は、発せられることなく彼の唇に消えていった。
付き合いたての彼氏とも、まだキスなんてしていない。初めてだった。
触れた唇は一瞬で離れたが、確かめるようにもう一度強く重なる。驚きに凍りついている私の抵抗がないのをいいことに、遠慮なく深く交わろうと舌がすべり込んできて——
思わず、歯に力が入ってしまった。
「いっ……た」
反射的に咬みついた痛みからか、ぱっと顔が離れ、彼はボタンを外していた手で口もとを押さえた。緩んだ力に、はっとして、
「——やめて!」
大声とともに全力で抵抗した私に、異変を察した両親があわてて部屋へと飛び込んできたため、凶行は未然に終わった。
ただ、未然だったからといって、なんの免罪符にもならず。衝撃を受けた両親は当然だが彼を二度と家に入れなくなり、そこからパタリと会う機会がなくなった。……両親が、相手の親に話をつけたのかもしれない。
とにかく、そこからしばらく、彼を見かけることすらなかった——。
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