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高校の、ちょっと不良な先輩

狼と赤ずきん 1

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 ど定番と言われてしまえば、そのとおり。
 瀬戸先輩とは、少女マンガの王道だった。


「——俺の女に手ぇ出すな」

 誘われて行った地下のライブハウス。初めての場所に圧倒された私は、場違いに浮いていた。
 一緒に来た友達は、そこにいた別の友達としゃべっていて。交わされるバンドの話題にも入りづらく、ドリンクでも飲もう、と。ひとり移動し、知らない男の子たちに話しかけられ困っていたところを——助けてもらった。
 その助け方が、少女マンガ。
 俺の女に手を出すな——なんて紙面で見るか、ドラマや映画で聞くくらい。
 びっくりした私の腕をつかんで、知らない彼らの前から、そのままライブハウスの外まで連れ出された。

「あ、あの……」
「——お前、うちの高校がっこうだろ」

 くすんだ金髪に、低い声。振り返った眼は狼みたいに鋭くて、掛けられた言葉がいったん全部落ちていった。
 なんと言われたのか。怖い眼にさらされて真っ白な頭が何も言えず、あちらのほうから、

「おい、聞いてんのか?」
「は、はいっ……なんですかっ?」
「……お前、俺と同じ高校だろ。こんなとこで何してんだ」
「え? ……あの、どうして……?」
「部活の見学で喋ってる。覚えてねぇのか」

 ——おぼえてます。その流れで他の先輩にライブチケットをもらって、瀬戸先輩たちのこと、見に来たんです。
 普通にそう言えばよかったのだけれど、怖すぎてうまく喋れない。部活見学で、ほんのすこし話したときは……もうちょっとこう、話せなくもない感じだったのに。
 今日はとてつもなく怖い。

「——とにかく。1年の女がこんなとこ来んな。せめて誰かと来い」
「……いちおう、友達と来たんです……」
「そうなのか? なら、なんでひとりで絡まれてんだよ」
「……ひとりで行動してたので……?」
「お前には危機感ってもんがねぇのか」

 瀬戸先輩の意見に小さく返答していると、あきれたように吐息された。すこしだけ、怖い顔が緩和される。

「……瀬戸先輩、」
「ん? ……ん? お前、俺の名前知ってんのか?」
「……見学のとき、名札を見ました」
「ああ……つぅか? お前、覚えてるじゃねぇか!」
「……はい」

 憶えてます。忘れるわけないです。だって、

「部活紹介の、瀬戸先輩のドラムがかっこよかったから……ライブ、見に来たんです」
「——はっ?」

 相変わらず怖いので、ごくごく小さな声で主張した。
 ——でも、その主張を聞いた瀬戸先輩の顔が、真っ赤になったので。

(……かわいい)

 はからずしも、恋をしてしまった。
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