【短編集】初恋は眠れない

クラスメイトのバレー部くん

What I love Fin.

「東条！ これ試合の場所だ！」

　インターハイ予選前の壮行会も無事に終わり、試合に対する意気込み満々の彼は、一枚の紙をぺらっと私の前に掲げた。
　試合の会場地図と日程表。
　彼のなかで、リベロとしての素晴らしいプレイが大好きなクラスメイト、という位置づけになった以上、断るのも面倒である。……まぁ、彼のレシーブを見られるのなら、こちらとしても嬉しいのだけど。

「ありがとう。行けたら行くね」
「なに言ってんだ！ 行けなくても来いよ！ 前よりもすげーの見せてやるからなっ」

　パーフェクトレシーブ！ とかなんとか、よく分からないことを口走りながら鞄をかつぎ、部活をするため体育館へと向かうとする。
　ひらひらと手を振って、廊下まで見送ろうかと思っていたところ、出口の扉に手をかけた彼が、ふいに振り返り、

「——好きなんだろ？」

　もう、動揺なんてしない。
　君の鈍感さに、私はこの片思いを当分しまっておくつもりでいる。
　はいはい、と。適当にあしらうくらいの感覚で「うん、好きだよ」短く返すと、彼は想定内の答えに満足そうに笑った。

「俺も、東条が大好きだからな！」
「うん…………うん？」

　じゃあなーと疾風しっぷうのごとく彼が出ていった扉を見つめたまま、たっぷり30秒。彼の言った言葉を脳内再生。
　じわじわと熱くなる、頬。

（——どういう意味！？）
 
　体育館に向かう彼も、また同じように真っ赤な顔をしていたことを、彼女は知らない。



Fin.