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Birthday Story 花火消えたるあとの

Into the Flame 2

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 当然なのだが、たこ焼き1パックをシェアするくらいでは満たされず、なんだかんだで新たな屋台めしを求めて共に歩く羽目に。
 頭上の花火は一旦終わっている。ここの花火は、祭りの開幕を告げるものと終幕を飾るものがあり、のちほど第二弾が上がる。
 
 焼きそばを食し、串に刺さった唐揚げを購入した時点で、巾着のひもと一緒に握っていたラムネはぬるくなっていた。ふたができない形状で不便だが、的に涼しげではある。
 彼のほうはどうだろう……と思ったが、すでに飲み終えたのか瓶は空だった。回収袋に入れないのだろうか。

「なァ、なんかやらねェ? 射的は? オレ得意なんだけど」
「お好きにどうぞ」
「お姉さんはやらねェの?」
「……これ食べたら、帰ろうと思ってます」
「えェ? マジ? 全然遊んでねェじゃん」
「遊ぶ歳でもないし……」
「何しに来たわけ?」
「花火を見に」
「見てなかったよな?」
「……まぁ、そうですね。連れが来なくなって、予定がくるったんで」
「ひとりでも見たらい~じゃん?」
「そこまで見たいわけでも……ないし」
「じゃ、オレと見る? ここさ、あとでまた上がンの。そっちのほうが派手だし、どう?」
「……これ食べたら、帰ろうと思ってます」
「えェ~?」

 不満たっぷりに声をあげられても。何が悲しくて今日会ったばかりの他人と思い出の花火を見なきゃいけないのか。失恋後、という言葉だけで捉えたら、私の境遇は悲しいといえば悲しいのかもしれないが……だと、しても。

「オレ、暇なんだって。お姉さん遊んでよ」
「……ほかのひとを誘ったらどうですか?」
「ナンパの成功率って知ってる?」

 知らない。知りたくもない。

「限りなァく低いわけ。オレに問題があるンじゃなくて、平均的な話」
「……へぇ……」
「しかもさ、オレみたいにひとりなんて全然いねェじゃん? お姉さんとオレ運命じゃね? ……ってワケで、しばらく付き合ってくんない? お姉さんも暇だろ?」
「暇といえば暇ですね。ただ、だからといって私の時間をあなたに使わないといけないってわけでもないんですよね」
「じゃ、代わりにオレの時間あげるし。等価交換」
「………………」

 等価か?
 考えて、考えるほどのことじゃないと気づいた。チャラいわりに言葉遊びが変——なんてことも感じていた。

「とりあえずさ、射的しよ~よ。オレやるから、お姉さん応援してて」
「好きにすればいいですけど……応援は、しません」
「なんで? してよ。お姉さんが欲しいもの、オレが取ってあげるから」
「…………それなら、あれは?」

 目に入っていた射的の屋台の、下段右に立てられた縦長の箱。よく分からないキャラクターのキーホルダーに並んで、場違いな風格。表の文字を見るに、日本酒の瓶が入っているらしい。高確率で倒れにくい……というより、倒させる気なんてないのだろう。話題性のための飾り。
 指先の品を見定めた彼が、私に目を戻して、

「あれ、スキなの?」
「いえ、飲んだことないです」
「なんで欲しいわけ?」
「今後は日本酒をたしなむ女になろうかと。……無理ならいいですよ」
「欲しいなら取ってもいいけど。もしかして、一緒にも~ってこと? 誘ってくれてる?」
「……やっぱりあれで。あのキャラメルでいいです」
「『で』いいってなに? 妥協した?」
「キャラメルいいです」

 いつの間にか並ぶかたちになっていた彼は、射的の売り子にお金を渡して、専用弾を3つ受け取った。ワインの栓に似たコルク玉。彼の長い指がそれをつまみ上げ、手前の台に置かれていたピストルを立てて先端に詰める。横のレバーを引き下げると、横目を私に投げて、

「応援は?」
「……がんばれー」
「もうちょい心込めてくんない?」
「ふぁいとー!」
「お姉さん、すげェ雑」

 ふっとあふれたみたいな笑みが、彼の目許をくしゃりといろどった。
 とくり、と。胸を鳴らす程度には可愛い。

「取ったらキスしてくれる?」
「しません。それより早くしてください」
「ハイハイ」

 軽い雰囲気で応えて、上半身をすこし乗り出した彼。長い腕は、ともすると景品に銃口が当たってしまうのではないかと思ったが、手前30センチほどでピタリと止まった。真剣なふうの横顔に、数秒だけ、私も呼吸を止めて、

 タン! 強い音で弾き出されたコルク玉の軌跡を捉えるよりも、キャラメルの小さな箱が倒れこんだが先だった。得意と言うだけはある。
 思わず感心していたが、彼は、別の客にコルク玉を渡していた売り子が「お兄さん上手っすね~?」景品を取る隙を与えることなく、次の弾を装填し、キャラメル横にあったキャラクターにも狙いを定め、引き金を引いた。軽そうなキーホルダーが弾き飛ばされる。「わぁっ」と、後ろにいた子供の歓声があがった。迷いなく、次の弾。さらに隣の薄いおもちゃの箱も。右上の端っこにピンポイントで当てられ、まるで追いつめられた犯人みたいに倒れていった。

「おお~!」
「すげーっ!」

 子供たちを中心に、ちょっとした盛り上がりを見せた観客のなか、派手な上体を起こした彼が私に流し目を寄越して、

「キスしたくなった?」
「……いえ、まったく」

 あはははっ。彼の楽しそうな笑い声は、祭りの喧騒によく馴染なじんだ。
 ちっとも残念そうに見えない顔で笑うその顔が、あまりにも楽しそうで……ほんのすこしだけ、苦笑に近いけれど、私も釣られて笑っていた。
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