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Chap.1 X in Unknownland
Chap.1 Sec.10
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「あれ? セト君もシャワー浴びたの?」
シャワー室からふたりが戻ってきた。
ティアは、セトが着替えていることに気づいたので、なんとなしに尋ねてみたところ……ものすごい目でギロリと睨まれ、
「こいつがシャワーの使い方わかんねぇから、洗ってやったんだよ」
「洗ってやった? ……え? まさか一緒に入ったの?」
「悪ぃかよ」
「や、まぁ……悪くはないけど。……でもさ、使い方だけ教えて、自分で洗わせればよかったんじゃない?」
「シャボンにも手ぇださねぇし、洗ってくれって感じだったんだよ」
「えぇぇぇ……? そんなことある? 教え方の問題じゃなくて?」
「知るか」
露骨に機嫌がわるい。なにがあったのだろう。
きまりが悪そうに横で下を向いているこの子に襲いかかって、突き飛ばされでもしたのだろうか。いや、しかし、セトの屈強な身体をこの子が押したところで、びくともしないだろうし。
「どこを押せばシャワーが出るか、もう覚えたみてぇだしよ。次からは独りで入れるだろーな」
皮肉じみた言い方。ひょっとして、襲おうとして頭上からシャワーをぶちまけられたのかも。——だったら、この子は意外とたくましい。
そういえば下着問題はどう解決したのか。見る感じではセトの上衣のみ着ている。厚めの生地で作られたトップス。透けにくい衣類を選んだのは、セトの優しさか。
「うん、ひとまずお疲れさま。次、イシャン君どうぞ。僕がそこ座っとくよ」
イシャンが立ち上がった。すると、セトが先に運転席へと足を向け、
「俺が座る。ティアはそいつに共通語を教えてくれ。喋れねぇと話になんねぇ」
「え? ……うん、まぁ……それはそのとおりだけど」
実のところモーターホームはもう停止しているので、運転席に座らなくても問題はない。異常があれば警告があるし、イシャンは帰宅経路をどうするか思案していただけだ。
ちなみにティアが交代を申し出たのは、映画でも見ようと思ったから。
「えー……と。じゃ、座ってくれる?」
ひとまず着席を促すことにする。こちらの意図を察して、ダイニングチェアに素直に座ってくれた。
ふと、彼女の濡れた髪が目に入った。
「あれ? ちょっと、セト君」
「なんだよ」
音楽でも聴こうとしているセトが振り返った。ちゃっかりヘッドセットを手にしており、装着してこちらを遮断する気だ。
「シャワー室で乾かしてこなかったの? この子、髪が濡れてるよ」
「最後ドライつけたぞ。長いし乾きにくいんだろ」
ティアの髪も長い。しかし、いつも乾く。セトのやり方に問題があると思われる。
「身体の水はちゃんと吹き飛んだし、大丈夫だろ」
「うーん……」
濡れた髪に触れる。わりとしっかり濡れているように思う。服の首まわりと背中は色が変わっているし、いくらなんでもこれは……。
「寒くない?」
尋ねると、彼女はきょとりとした顔でこちらを見た。背中に流れていた髪を取って、掲げる。濡れていることを示すと、心配は要らないといったように、控えめに首を横に振られた。遠慮しているだけで、濡れているのを気にしていないわけではないようす。
「ちょっと、待っててね」
とんとんと、なるべく優しく肩をたたいておく。セトに襲われかけたとしたら、不安も強いだろう。そこまで欲に弱い人間ではないと思っていたが、セトはよくよく考えると狩猟家の気質だ。与えられた餌より、逃げる獲物を追いたくなる。彼にすがっている場合は面倒を見てくれるが、拒絶するそぶりがあれば喰い殺す習性かも知れない。
……やめよう。昔の悪い癖がでている。
「タオル、取ってくるね」
シャワー室の方を指さして、笑顔を見せておく。リビングを後にしてから、ある懸念が浮かんだ。
ソファで書物をかかえたままのサクラと、ある意味ふたりきりにしてしまった——。
シャワー室からふたりが戻ってきた。
ティアは、セトが着替えていることに気づいたので、なんとなしに尋ねてみたところ……ものすごい目でギロリと睨まれ、
「こいつがシャワーの使い方わかんねぇから、洗ってやったんだよ」
「洗ってやった? ……え? まさか一緒に入ったの?」
「悪ぃかよ」
「や、まぁ……悪くはないけど。……でもさ、使い方だけ教えて、自分で洗わせればよかったんじゃない?」
「シャボンにも手ぇださねぇし、洗ってくれって感じだったんだよ」
「えぇぇぇ……? そんなことある? 教え方の問題じゃなくて?」
「知るか」
露骨に機嫌がわるい。なにがあったのだろう。
きまりが悪そうに横で下を向いているこの子に襲いかかって、突き飛ばされでもしたのだろうか。いや、しかし、セトの屈強な身体をこの子が押したところで、びくともしないだろうし。
「どこを押せばシャワーが出るか、もう覚えたみてぇだしよ。次からは独りで入れるだろーな」
皮肉じみた言い方。ひょっとして、襲おうとして頭上からシャワーをぶちまけられたのかも。——だったら、この子は意外とたくましい。
そういえば下着問題はどう解決したのか。見る感じではセトの上衣のみ着ている。厚めの生地で作られたトップス。透けにくい衣類を選んだのは、セトの優しさか。
「うん、ひとまずお疲れさま。次、イシャン君どうぞ。僕がそこ座っとくよ」
イシャンが立ち上がった。すると、セトが先に運転席へと足を向け、
「俺が座る。ティアはそいつに共通語を教えてくれ。喋れねぇと話になんねぇ」
「え? ……うん、まぁ……それはそのとおりだけど」
実のところモーターホームはもう停止しているので、運転席に座らなくても問題はない。異常があれば警告があるし、イシャンは帰宅経路をどうするか思案していただけだ。
ちなみにティアが交代を申し出たのは、映画でも見ようと思ったから。
「えー……と。じゃ、座ってくれる?」
ひとまず着席を促すことにする。こちらの意図を察して、ダイニングチェアに素直に座ってくれた。
ふと、彼女の濡れた髪が目に入った。
「あれ? ちょっと、セト君」
「なんだよ」
音楽でも聴こうとしているセトが振り返った。ちゃっかりヘッドセットを手にしており、装着してこちらを遮断する気だ。
「シャワー室で乾かしてこなかったの? この子、髪が濡れてるよ」
「最後ドライつけたぞ。長いし乾きにくいんだろ」
ティアの髪も長い。しかし、いつも乾く。セトのやり方に問題があると思われる。
「身体の水はちゃんと吹き飛んだし、大丈夫だろ」
「うーん……」
濡れた髪に触れる。わりとしっかり濡れているように思う。服の首まわりと背中は色が変わっているし、いくらなんでもこれは……。
「寒くない?」
尋ねると、彼女はきょとりとした顔でこちらを見た。背中に流れていた髪を取って、掲げる。濡れていることを示すと、心配は要らないといったように、控えめに首を横に振られた。遠慮しているだけで、濡れているのを気にしていないわけではないようす。
「ちょっと、待っててね」
とんとんと、なるべく優しく肩をたたいておく。セトに襲われかけたとしたら、不安も強いだろう。そこまで欲に弱い人間ではないと思っていたが、セトはよくよく考えると狩猟家の気質だ。与えられた餌より、逃げる獲物を追いたくなる。彼にすがっている場合は面倒を見てくれるが、拒絶するそぶりがあれば喰い殺す習性かも知れない。
……やめよう。昔の悪い癖がでている。
「タオル、取ってくるね」
シャワー室の方を指さして、笑顔を見せておく。リビングを後にしてから、ある懸念が浮かんだ。
ソファで書物をかかえたままのサクラと、ある意味ふたりきりにしてしまった——。
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