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13.四枚目の扉

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 はっ! 扉をくぐって一瞬意識が遠のき、気がつくと私は鏡の前に座っていた。鏡に映る整った顔の美しい女性と、豪華な中世風の部屋の様子。紛れもなくイグレシアス王国の王女、エマの姿だ。このドレスは……成人を祝う誕生日パーティーに着ていた衣装。どうやらパーティー直前に自室にいたエマに入り込んだみたい。記憶を辿ってみるとエマとしてのコレまでの記憶、そして私、勝間かりんとしての記憶が両方ある。二重になってて若干気持ち悪いけれど、まあ時間が経てばその内なれるでしょう。ベースはどうやらかりんのままみたいだから、案内人がちゃんと約束を守ってくれた様だ。

 今の時間は十時。パーティーは正午スタートだったはずだから、あと二時間か。『ちょっと前』って言うから一週間ぐらい前かと思ってたのに、まさか二時間だけとは……いや、しかし贅沢は言ってられない。二時間でも考える余裕があるんだから、全力で次の一手を考えなければ。

「いっそバックレるか? いやいや、それはマズいか。じゃあどうする? 三王子の誰も選ばない? そうすれば多少は時間稼ぎできるけど……」

 さっそく考え始めるがそう簡単に決まるものでもない。あー、せめて一日ぐらい余裕があればなあ……悶えつつもあれこれ考えていると、不意にドアをノックする音が。

「はい、どうぞ」
「失礼致します、姫様」

 そう言ってドアを開けたのは見知った女性。そう、エマの引きこもりの兄、テレンス王子の婚約者でイグレシアスの役人でもある、ルシア・エガートンだ。彼女もドレス姿で、エマの誕生パーティーに出席予定なのだろう。

「ご機嫌よう、ルシア様」
「姫様、本日はおめでとうございます。僭越ながら私もパーティーには参加させて頂きます」
「有り難う。成人だなんて全く実感がないけど、王女として頑張るわ。ところでお兄様は?」
「それが、やはり出席されないとのことでして……申し訳ございません」
「あなたが謝ることではないわ。それにしても妹の記念すべきパーティーなのに、お兄様にも困ったものね」

 恐縮した様に俯いているルシアさん。連絡係の様なことをさせられて、彼女は彼女なりに大変なんだなあ、と同情する。兄の様子や本日の参列者などについて世間話程度に会話した後、彼女は部屋を去った。そう言えばいつもはメイドのバーバラがいるはずなんだけど居ないわね。パーティーの準備で駆り出されているのだろうか。確かドレスを着せてもらっているときはいたんだけど。そんなことより、対応を考えなくては!

 頭を悩ますこと小一時間。完璧ではないけれど今までの私の知識を総動員して何とか方針を固めた。それを見計らった様にバーバラが戻ってきて、パーティーがそろそろ始まることを告げられる。主役だから遅れるわけにもいかないわね。

「姫様、お時間でございます」
「ええ。有り難う、バーバラ」

と、言いつつも頭の中では三人の王子に対して言うべきセリフを練習、練習! 事前に両親に話す暇もなかったけど、ぶっつけ本番でやり切るしかないわね。さあ、まずは最初の難関を突破するとしましょうか。
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