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33.私とデートするのは嫌かい?

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 昨日はニッキーさんが家に来ていて、私が帰ってくるまで兄さんが相手をしていてくれたらしい。私のことを話していたって言ってたけど、後から聞いても詳しくは教えてくれなかった。もう! 二人ともイジワルなんだから! でもニッキーさんは私にとって頼れるお姉さん的な存在で優しいから、きっと悪口とかそんなことはないわね。私がランズベリーでどんな生活をしていたかとか、そんな話かしら?

 それにしても、兄さんと会話している女性ってシャロン様ぐらいしか見たことがないけれど、ニッキーさんともあんな感じで喋ってたのかなあ。ニッキーさんと兄さんは多分同い年だし、話が合うのかも知れないわね。

 翌日は学園の授業がお昼までで、昼からは王宮に戻って茶会の準備に参加することに。パトリシアはフランツ様に生徒会室に呼ばれているそうなので一人で王宮に戻るべく校舎を出ると、後ろから呼び止められた。

「マリオン!」

 振り向くと声の主はミランダ様。今日も男装されていて、周りの女子からはため息が漏れる。その色気からはとても女性とは思えないぐらい。

「ミランダ様、こんにちは」
「今から王宮に戻るのかい? 私もちょうど戻るところだから、一緒に馬車に乗っていくといい」
「有り難うございます」

 お言葉に甘えて馬車にお邪魔すると、対面ではなく隣に座る様に促された。ち、近いですミランダ様! 凄くいい香りがする。

「もう学園には慣れたかい?」
「はい。でもまだ授業の内容は難しくて、付いていくのがやっとです」
「ハハハ、焦る必要はないさ。良く図書館で勉強しているんだろう?」
「はい、ちょっとでも皆に追いつきたくて」
「マリオンは真面目だね」

 微笑みながら私の顔を覗き込むミランダ様。だから近いですって! ドキドキしていると、スッと彼女の手が伸びてきて私の手を取った。

「!?」
「メイドの仕事をして狩りにも行っているのに、マリオンの手は綺麗だね」
「そ、そうでしょうか……」
「本当に女性みたいな美しい手だよ。羨ましいな」
「そんな……ミランダ様の手だって……」

 細いスッと伸びた指はほのかに温かくて、触れられているだけでドキドキしちゃう。女性同士ならともかく、私、男ですよ! 握り返すわけにもいかず、ただただドキドキして黙っていると、やがて彼女は私の手を自分の方に引き寄せて軽く口付け。

「チュッ」
「!!」
「マリオンには世話になってばかりだから、一度お礼をしたいと思っているんだけど」
「お、お礼だなんてそんな……」
「私とデートするのは嫌かい?」
「……」

 嫌なわけがない! でも恐れ多いと言うか、私みたいな田舎者がミランダ様に釣り合うとは思えないし……それに何より、どんな格好をして行けばいいのかも分からない。

「その……服もあまり持っていないので」
「普段着でも構わないよ。マリオンならメイド服でもいいぐらいさ」

 確かにメイド服ならミランダ様のお付のメイドみたいで違和感ないかも知れないけど、折角誘ってくださっているミランダ様に失礼な気もする。どうすべきか迷っている間に馬車は王宮に着いてしまい、彼女に押し切られる形で週末デートすることになってしまった。多分顔も真っ赤でオロオロしていると、ミランダ様に笑われてしまう。

「フフフ、そういうマリオンも可愛いよ」
「も、もう! からかわないでください!」
「ハハハ、でも可愛いのは本当さ。じゃあ、週末、迎えにいくからね」
「は、はい……」

 馬車から降りると、依然戸惑いを隠せない私とは裏腹にご機嫌なミランダ様は去ってしまった。暫く立ち尽くして途方にくれてはいたものの、これからメイドの仕事があるんだからシャキッとしないと! そう思い直して家に向けて走り出した。

 なんとか仕事はやりきったけど、やっぱり服装のことは心配……家に戻ってからクローゼットをひっくり返してみるが、当然ながら入っているのは普段着の田舎娘風な服ばっかり。あとは狩りに着ていく上下もあるけど、まさかそんな格好でミランダ様とご一緒するわけにもいかないし。今まで何度かパトリシアと一緒に街に行ったことはあるけど、その時はメイド服だったり学校の制服だったりしたからなあ。

 途方に暮れていると兄さんが帰宅して、部屋を服で散らかしている私の様子を見てぎょっとしていた。

「何やってんだ? お前」
「兄さん! 服がないの!」
「いや、その散らかしてある分は全部お前の服だろう? 女性モノばかりなのはまあ置いておいて」
「そうじゃなくて!」

 事情を話すと呆れた風な顔をする兄さん。兄さんに服のことを相談したってどうしようもないのは分かってるんだけど……

「じゃあ、金をやるから街で買ってこい。まだ日にちはあるんだろう?」
「えー、でもどんな服を買ったらいいのか分からないし。そもそもデートってどんな服装していけばいいの!?」
「そんなもの、俺が知るはずないだろう」

 そうだった。どうしよう、パトリシアに相談するのも何か違うし、そうなるとニッキーさんやローナさん? いや、メイドの先輩方に相談したら『ミランダ様とデート』することだけがフォーカスされて、服装どころではなくなっちゃうわね、きっと。

「うーん……」
「やれやれ、仕方ないから助っ人を呼んできてやる。三人分の飯を作って待っててくれ」
「分かった」

 そう言って兄さんはまた出て言ってしまい、仕方なく夕飯の準備。兄さんの知り合いでこう言うことに詳しい人って誰だろう。王宮内では意外に顔が広いみたいだから、誰か心当たりでもあるんだろうか。

 夕飯の準備が終わる頃に兄さんが戻ってきて、そして連れてきてくれたのはシャロン様だった。

「シャロン様!?」
「聞いたわよ! ミランダ嬢とデートですって!? そう言うことなら任せて!」

 妙にテンションが上がっているシャロン様。夕食の間も根掘り葉掘りミランダ様との関係を聞かれて、兄さんに注意されるといつもの様に口喧嘩。この二人は見ていて本当に飽きないわね。

「よし! マリオンは私と背格好が似ているから、私の服を貸してあげるわ! 何着か見繕っておいてあげるから、茶会の片付けが終わったら私の部屋にきて」
「有り難うございます!」
「それにしても、マリオンがあのミランダ嬢とデートとは。フフフ、服装はあべこべだけど、きっとお似合いのカップルだわ」
「そんな、私なんて……」
「あんたは可愛いんだから、自信持ちなさい。困ったらいつでもお姉さんを頼っていいのよ」
「お前は面白がってるだけだろう?」
「フンッ! 全く役に立たないあんたよりマシよ! あんたも誰か見つけてデートぐらいしなさいよ」
「俺はそう言う面倒なことは嫌いなんだ」

 この間兄さんとニッキーさんはちょっといい感じだったんだけど、シャロン様に告げ口したら兄さんに怒られそうだし黙っていよう。

 翌日、朝から茶会の対応でバタバタして、茶会の片付けまで終えたのは三時を過ぎた頃。私はともかく、先輩方はクタクタだった。茶会は王妃様主催のものだったのでフランツ王子やパトリシア、それにもちろんミランダ様の姿も。私は走り回っていたのでお話はできなかったけど、とても華やかな会だったわね。

 ニッキーさんたちに挨拶をして控室を後にしシャロン様のお部屋へ。

「失礼します」
「あ! 待っていたわよ、マリオン!」

 茶会にはシャロン様も出られていたけどもう着替えられていて、部屋の中にはシャロン様の他に見慣れないメイドの方が数名。シャロン様のお付の方々かしら? なぜか皆キラキラした目で私を見ていて、どことなくソワソワしている様子。

「こちらの方々は……」
「ウチのメイドの子たちよ。着替えを手伝ってくれるわ」
「あなたがマリオンね!」

 シャロン様に紹介されるや、メイドの方々に取り囲まれてしまった。

「えっ、えっ、本当に男の子なの!?」
「かわいいーー!!」
「髪サラサラ」

 喋るまもなくお姉様方が体を触ったり髪を触ったり。どうすることもできずシャロン様に助けを求めると、彼女はクスクスと笑っているだけだった。

「ほらほら、もう充分観察したでしょう? そろそろ着替えましょうか」
「はい!」

 そこからはもう着せ替え人形状態で、恥ずかしいとか言っている暇もなく次々に服やらドレスやらを着せられ……最終的に明日着ていく一着に絞られた。今まで着たことがないフリルの付いたスカートに上着。帽子やバッグ、アクセサリーまで全部セットになっていて、明らかに高級なので緊張してしまう。

「あ、あの……こんなに高級なものをお貸し頂いてよろしいのでしょうか? 私なんかにはもったいなのですが……」
「何言ってるの、とっても良く似合ってるし、可愛すぎてちょっと妬けちゃうぐらいよ」

 シャロン様の言葉にメイドの方々も全員頷いている。そう言うものなのでしょうか。鏡の前に立たされたけど、そこに映っているのは自分ではない別の女性の様でまるで実感がなかった。

「よしよし、後は髪をセットしてお化粧すれば完璧ね。明日の朝、家に行ってやってあげるから準備しておいて」
「はあ……」

 髪型はいつもみたいに後ろで束ねているだけではダメなのだろうか。お化粧なんてしたことないんだけど……もうここまできたら全てシャロン様にお任せするしかないわね。
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