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15.まだ油断はできないんだ
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「殿下、報告書をお持ちしました」
「有り難う」
騎士団からの報告書、これを待っていた。先日の魔物騒動、討伐隊の第一陣が無惨にもやられてしまった時は絶望したが、第二陣は戦うことなく凱旋。件の魔物は何者かによって既に討伐されていたと言うのだ。ここ十数年魔物との戦いがなかったとは言え、我が国の騎士団や兵士たちは決して弱いわけではない。彼らとて常に魔物との戦いを念頭に訓練を積んでいたはずなのだから。それだけ今回の大蛇の魔物が異常だったと言うことだが、過去の文献を紐解いてみても王都周辺でこんなに凶暴な魔物が出た例はなかった。
魔物と共に捕縛されていた人物は片方の手首を切り落とされていて、その傷口は……おそらく魔法で焼かれていた。当初は取り乱して尋問どころではなかった様だがその後落ち着いて、魔物を操っていた術師であること、そして術師を雇ったのがクエイルの領主であることを自白したそうだ。これについてはクエイル領に潜入しているドミニクからの報告にもあったのだが、まさかあんな魔物を差し向けてくるとは……我々が術師を確保していることは外部に漏れていないはずだが、クエイル領主に対しては策を講じる必要がありそうだ。
もう一つ気になるのは魔物を倒し、術師を捕縛した人物。術師は『女の姿をした悪魔』と口走り、それ以上は怖がって何も話そうとしないらしい。一人なのか複数なのか、とにかく相当な恐怖を植え付けられたのだろう。大蛇の首は一刀両断されており、それについても疑問が残る。大蛇の皮は硬く騎士や兵士の剣を跳ね返したらしいが、一体何で切ればあんなに綺麗に切断できると言うのか。術師の言葉を借りるなら、まさに悪魔が大きな鎌で切り取ったかの様だった。
「兄上、入ります」
「ああ」
報告書を読み終えた頃、フランツの声がして部屋に入ってくる。ミランダと、そして今日はパトリシアにも同席してもらった。
「グラハムお兄様! 魔物が討伐されたんですって!?」
「パトリシア、またお前は挨拶もせずに……」
「ハハハ、いいさ。パトリシアは今日も元気だな。ああ、魔物は討伐された。これで王都も安全だから、お前たちも安心していい」
「本当ですか!? 良かったですわ、お姉様」
相変わらず、パトリシアはミランダにべったりの様だ。私やフランツの妹と言うより、既にミランダの妹みたいだな。
「これで一件落着……なのでしょうか?」
「いや、まだ油断はできないんだ、ミランダ。この一件には恐らくクエイルが一枚噛んでいる」
「クエイル……以前から王族に反抗的な三位の貴族ですね?」
「そうだ。西の山の向こう側だが、最近他国との交易で力を付けてきている。今回の件も王族に対する攻撃と考えて間違いないだろう」
それが失敗したとなると、次にどんな手を繰り出してくるか分からない。ドミニクによれば、領主の息がかかったならず者が王都に送り込まれたと言う話もある。
「王宮にいる間は問題ないが、特に学園にいる間は注意して欲しい。警備を増やす様に指示はしているが、お前たちが狙われる可能性が高いのだからな」
「はっ! パトリシアも無闇に王宮の外に出るんじゃないぞ!」
「分かってます! 危ない時はお姉様に守って頂きますから」
「ハハハ、そうだね。私もヘンストリッジの名に懸けて、パトリシアのことをしっかり守るよ」
「お姉様!」
ミランダに抱きつくパトリシアに少し不満そうなフランツ。お前は昔からパトリシアを可愛がっているからな。しかし女性の心を掴むのは、同じく女性のミランダに分がある様だ。
「ところでパトリシア、マリオンと言うメイドと最近仲が良いみたいだね」
「はい、 彼女はとても素敵な女性なんです! 私の命の恩人でもありますし……そうだ! 今度お兄様にも会って頂きたいので連れてきますね! 一緒に学園にも入るんです」
「お前がそこまで言うのだから魅力的な人なんだろうね。彼女はどこの出身なんだい?」
「えーっと、田舎の……ああ、そうだ、ランズベリー領と言っていました。領主の娘らしいですよ」
「ランズベリー領主の娘!?」
「お兄様、ご存知なんですか?」
「いや、まあちょっとな。会えるのを楽しみにしているよ」
ランズベリー領と言えばドミニクの出身地で、ドミニクは領主の息子。と、言うことはドミニクの妹か!? そう言えばあいつの家族構成については聞いたことがなかったが……あいつが帰ってきて、妹が王宮で働いていることを知ったら驚くだろうな。フフフ、このことは黙っておいてやろう。
魔物の件はなんとか解決できたが、やはりクエイル領の問題は早急に対処すべきか。術師という証拠を掴むことはできたが、それだけでは白を切られてしまう可能性もある。やはりもう少し確固たる証拠が欲しいところだが、兄弟たちに被害が及ぶのは望む所でないし……一度父上にも相談して対応を決めるとしよう。
「有り難う」
騎士団からの報告書、これを待っていた。先日の魔物騒動、討伐隊の第一陣が無惨にもやられてしまった時は絶望したが、第二陣は戦うことなく凱旋。件の魔物は何者かによって既に討伐されていたと言うのだ。ここ十数年魔物との戦いがなかったとは言え、我が国の騎士団や兵士たちは決して弱いわけではない。彼らとて常に魔物との戦いを念頭に訓練を積んでいたはずなのだから。それだけ今回の大蛇の魔物が異常だったと言うことだが、過去の文献を紐解いてみても王都周辺でこんなに凶暴な魔物が出た例はなかった。
魔物と共に捕縛されていた人物は片方の手首を切り落とされていて、その傷口は……おそらく魔法で焼かれていた。当初は取り乱して尋問どころではなかった様だがその後落ち着いて、魔物を操っていた術師であること、そして術師を雇ったのがクエイルの領主であることを自白したそうだ。これについてはクエイル領に潜入しているドミニクからの報告にもあったのだが、まさかあんな魔物を差し向けてくるとは……我々が術師を確保していることは外部に漏れていないはずだが、クエイル領主に対しては策を講じる必要がありそうだ。
もう一つ気になるのは魔物を倒し、術師を捕縛した人物。術師は『女の姿をした悪魔』と口走り、それ以上は怖がって何も話そうとしないらしい。一人なのか複数なのか、とにかく相当な恐怖を植え付けられたのだろう。大蛇の首は一刀両断されており、それについても疑問が残る。大蛇の皮は硬く騎士や兵士の剣を跳ね返したらしいが、一体何で切ればあんなに綺麗に切断できると言うのか。術師の言葉を借りるなら、まさに悪魔が大きな鎌で切り取ったかの様だった。
「兄上、入ります」
「ああ」
報告書を読み終えた頃、フランツの声がして部屋に入ってくる。ミランダと、そして今日はパトリシアにも同席してもらった。
「グラハムお兄様! 魔物が討伐されたんですって!?」
「パトリシア、またお前は挨拶もせずに……」
「ハハハ、いいさ。パトリシアは今日も元気だな。ああ、魔物は討伐された。これで王都も安全だから、お前たちも安心していい」
「本当ですか!? 良かったですわ、お姉様」
相変わらず、パトリシアはミランダにべったりの様だ。私やフランツの妹と言うより、既にミランダの妹みたいだな。
「これで一件落着……なのでしょうか?」
「いや、まだ油断はできないんだ、ミランダ。この一件には恐らくクエイルが一枚噛んでいる」
「クエイル……以前から王族に反抗的な三位の貴族ですね?」
「そうだ。西の山の向こう側だが、最近他国との交易で力を付けてきている。今回の件も王族に対する攻撃と考えて間違いないだろう」
それが失敗したとなると、次にどんな手を繰り出してくるか分からない。ドミニクによれば、領主の息がかかったならず者が王都に送り込まれたと言う話もある。
「王宮にいる間は問題ないが、特に学園にいる間は注意して欲しい。警備を増やす様に指示はしているが、お前たちが狙われる可能性が高いのだからな」
「はっ! パトリシアも無闇に王宮の外に出るんじゃないぞ!」
「分かってます! 危ない時はお姉様に守って頂きますから」
「ハハハ、そうだね。私もヘンストリッジの名に懸けて、パトリシアのことをしっかり守るよ」
「お姉様!」
ミランダに抱きつくパトリシアに少し不満そうなフランツ。お前は昔からパトリシアを可愛がっているからな。しかし女性の心を掴むのは、同じく女性のミランダに分がある様だ。
「ところでパトリシア、マリオンと言うメイドと最近仲が良いみたいだね」
「はい、 彼女はとても素敵な女性なんです! 私の命の恩人でもありますし……そうだ! 今度お兄様にも会って頂きたいので連れてきますね! 一緒に学園にも入るんです」
「お前がそこまで言うのだから魅力的な人なんだろうね。彼女はどこの出身なんだい?」
「えーっと、田舎の……ああ、そうだ、ランズベリー領と言っていました。領主の娘らしいですよ」
「ランズベリー領主の娘!?」
「お兄様、ご存知なんですか?」
「いや、まあちょっとな。会えるのを楽しみにしているよ」
ランズベリー領と言えばドミニクの出身地で、ドミニクは領主の息子。と、言うことはドミニクの妹か!? そう言えばあいつの家族構成については聞いたことがなかったが……あいつが帰ってきて、妹が王宮で働いていることを知ったら驚くだろうな。フフフ、このことは黙っておいてやろう。
魔物の件はなんとか解決できたが、やはりクエイル領の問題は早急に対処すべきか。術師という証拠を掴むことはできたが、それだけでは白を切られてしまう可能性もある。やはりもう少し確固たる証拠が欲しいところだが、兄弟たちに被害が及ぶのは望む所でないし……一度父上にも相談して対応を決めるとしよう。
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