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第十節 〜十字路(クロスロード)〜

120 なるほど、それが貴方達のやり方なんですね 3

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118 119 120 は“ひと綴りの物語”です。
《 その3》
戦後処理? 的な?。
愚者エルフ見参!
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 なら何でそこまで『耽溺たんでき』に拘るのかがわからない。


 何がなんでも俺にハーレムを築き上げさせたいのか? その好意は有り難いが、それは逆に俺の寿命を縮める愚行だ。まさか俺の暗殺が狙いか? などと馬鹿な考えは止めよう。さっきからハナの視線が怖いし。 
耽溺たんでき』には呪縛以外に隠された効果や意味があるのだろうか。解らない。が、さんざっぱらにエルフ爺ぃサトリ自身が怪しいのだけは判った。
 
 後で『耽溺たんでき』を解析してみよう。焦って似非に廃棄を命じたが、偉い奴のことだ、俺の意を汲んで残して置いてくれたはずだ。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 もちろん完全消去済みです。
 バレた場合、生存率は1パーセントを切ります。
 それと、アレをハナ様を含め、誰かに本当に使えますか?
 と結論 ∮〉

 ……だいたい、ツルさんが大事ならもっと早くに手を打てただろうに。ずっと前から色々事情は知っていたはず。自分のこと非力って卑下していたが、そんな事あるか。

……すいませんでした。反省しております。
 ですから本当に、本当にハナに内緒にして下さい……。

 だいたい、“紅い稲妻レッドスプライト”から僕らが生き残ったのだって全くの偶然だ。普通なら死んでる。ツルさんさえも含めて。
 事前に止めることも無く、その最後まで観察し、全てが終わった後にノコノコ出てきた。

 “かたり”は止めなさいってハナに言われてたのに。まあ、最初の設定から既にひびが入ってたからな。案外馬鹿だろアレ。
 最初は、THE二千年を生きた賢者エルフって感じで頑張ってたのに、途中から怪しくなって、今じゃボロボロ。うちの似非以下だ。何があったのかと問い詰めたい。
 なんで睨んでいるエルフ爺ぃサトリ。


 とりあえずは僕の“願い”は聞き入れてもらえそうだ。
 
 明日、もう今日か。あと数時間で始まる“うつり”二日目に強制参加させようと思う。それが僕の切なる“願い”だ。

 傭兵共は新戦力として了解済みだが、実は戦力的にはまだまだ不安で……スッゴク心配で。ぶっちゃけ、その点が僕らが行う『依頼』の、未解決の最大の問題ボルトネックで、打開策がないまま開戦してしまったのが実情だ。

 戦争は数が絶対。初日は総力戦で何とか持ちこたえてもらったが、二日目以降はそうは行かない。補充が利かない前線に連戦はキツイ。このまま何もせずに手を打たなければ残念だが、崩壊は免れないだろう。

 それを回避すべく、多分そうなるだろうなって諦めてた最悪の解決策が僕とハナ、従者の花魁蜘蛛ルル達、そしてオッサンを始めとする傭兵共のフル参戦だ。やりたくはないが、仕方ないと諦めていた。

 敵の勢力を二分し、少しでもギルド兵の負担を軽くする目的で、僕らの戦場をギルド館とは別にこの領主館に定めた。やりたくもない今夜の領主館襲撃の二つの理由のうちの一つだったりする。

 それでも、領主館の陥落占領を含めてのカトンボ迎撃の達成率は低いと考えていた。
 数の脅威は僕ら領主館チームにも適用される。傭兵を加えても即席では連携もままならないだろう。加えてそれらを一気に払拭する広域破壊の手段が無いのが痛い。
 特に“1m定限ルール”に縛られる僕はクソで、チマチマ時間を掛けて潰していくしか無いだろうと考えていた。ギルド兵もそうだが、僕らも厳しい戦いが予想されていた。

 でも、そんなアンナコンナがボタモチ的に一気に解決しそうな流れが来ていた。願ったり叶ったりなのだ。準備は念入りに、面倒事は事前に行うが吉だね。両方ともヤッてなかったけど。

 あの超広範囲壊滅魔法“紅い稲妻レッドスプライト”は超使える。

 僕のパスが通っているんだ、スタミナ増量ポーションをバンバン飲ませれば日に十発、イヤ、十五発はいける。それに生き残った領兵も使えるだろう。
 実はオルツィ改おツルさんは領兵にしたわれているらしい。
 傀儡の元凶は個人技量と非道は得意だが、多人数戦闘での指揮や訓練方法はからっきしで、命令は『突撃』のみと、二○三高地のナンバーツー並みに無能だったらしい。

 良識のある領兵は困り果て、暇を持て余していたツルさんを頼ったらしい。元はギルド本部の特別機動急襲部隊隊長、本職で有能エキスパートである。たちまち心酔させちゃったらしい。

 残ってるよね、領兵? オッサンったら全て始末してないよね。
……まあいいや、超広範囲壊滅魔法を二十発ぐらい撃ってくれれば。そうだ、サチを付けよう。サチもツルさんと和解すればトラウマが取れて戦えるようになっただろう。ダメでも強制。僕があんなに頑張ったんだから恩を返せ。

 実はさっきツルさんの胸をワシワシした時、もとい治癒した時にコスプレ服に組み込まれていた全ての魔法陣を“複写取得コピー盗取”してました。ワシワシはコピーの際の仕様だよ。本当だよ。

 これでサチも不完全な劣等魔法で自爆せずにビシバシ撃てる。いやはや、改めてホントすげーわこの純血、違ったコスプレ服。勉強になります。これでスリングショットバージョンに変身したら言うこと無いのに……。

 先程の戦闘中は女男爵バロネスを挑発する為に“忌避する”ような言動をしていましたが、実はツルさん、“ないすぼでい”ナノです。ほら、うちって俎板ばっかじゃないですか。凹凸何処行った状態じゃないですか。それに比べて大人の魅力って言うんですか、思わずワシワシしちゃったのであります。てへ。

 あっ、ちょっとまって、オレ悪くないだろう。だって心は高校生男子だぞ、いや、だから、ガァ! ぐああっぁああ‼
 ……ゴ、ゴメンナサイ。
 フ、フテキセツナゲンドウガ、ゴザイマシタコトヲ、フカクハンセイシ、コンゴコノヨウナ、ゴカイヲマネクシツゲンヲ、クリカエサヌヨウ、カイゼンニドリョクスル、ショゾンデス。


 魔法陣の大半は“コウイチ”のものだろうが、本当に凄いのはツルさんだ。オリジナルの“紅い稲妻レッドスプライト”の制御と自己保護機能は本当に良く考えられている。そして“コウイチ”の大胆で強力だけど雑でほころびだらけの個々の魔法陣に適切なパッチを当て、十全以上の効果を引き出していた。

 彼女が手を掛けていなければ半分の能力しか発揮していなかっただろう。僕もあんなに苦労しなくてよかったのに、と思ってしまう程に。
 彼女の強さの要は身体能力や魔法の高さではなく、その類まれな魔工技師としてのスキルの高さに在るのかもしれない。

 後でわかったことだが、良識ある領兵の皆さん(前の領主からの残留兵)は早々と武装解除して降伏して助かっていたようだ(事前にオッサンがナシ付けてた)。結構多く残ってた。よかった良かった。

 ここでハタと気づいてしまった。
 ツルさんをこのまま領主継続させる最大の障害ネック、傀儡の元凶をどうするのか。
 大体こんな貴族が大規模に絡んだ陰謀を一個人だけで出来るはずもなく、大概は怖いお兄さんがオラオラする組織バックが控えてらっしゃるんじゃね、と。そこにどうコウ・シリーズが絡んできているのか。

 ここサガンで陰の領主を努めていたのがこの国の公爵の三男だったらしい。当然バックは公爵当主本人だ。なにそれ怖い。っと思ったが、三男は既にお亡くなりになっており、今日明日どうこうって事はなく、当面は大丈夫らしい。死人に口無し、王都は遠い、露見しバレなければ万事オーケー。
 陰の領主を直接屠ったのはオッサン。ああ、赤鎧を得意の大魔法やらで細切れにしてた。あれがそうか。

 ちなみにオッサンは早いうちに一階を制圧してずっと僕と女男爵バロネスの戦闘を覗いていた。大穴の陰から。僕が負ければ即刻撤退を見据えながら。
 知ってたけど。助けてくれなかったのも契約だから仕方ないけど。恨んでないよ。ちっとも。そして知らなかったとは言え、自分が公爵御子息をその手でチョッパした事を知り、顔を青ざめさせていた。終わったなオッサン。南無。


 ギルドが崩壊し、街も半壊となったら領主は当然責任を取らなければならない。その為の人身御供がオルツィで、その後釜に御子息を爵位させての新領主とさせる。そんな青写真を描いたのが公爵領主本人。公爵の真の狙いはギルドの崩壊で、政争の一環らしい。例の委員長系ギル長や赤鬼が派閥争いで負けて左遷された件と根は同じらしい。
 あーイヤダイヤダ、関わり合いたくない。

 そのドサクサ紛れで問題を起こし廃嫡された息子の復権が次点の画策。バカ親として。
 その件を知ったハーレムナンバーワンである公爵令嬢が、折角ならとギルドの秘匿する造幣実機とそのノウハウ、蜘蛛糸の利権を狙い実兄のフォローと捨駒オルツィの提供をしたらしい。
 何だと、公爵令嬢までハーレムに取り込んでいるとは羨ましい、もとい、恐ろしい。

 ならやっぱり二重の強力バックで詰んでね、っと思ったらさにあらず、らしい。
 “コウイチ”の立場は今のところ唯の『勇者候補』の一人だし、ハーレムナンバーワンの公爵令嬢も次期当主の継承権を持っている訳ではない。
 ただし、そのカリスマ性から親の権力とは別の独自の支持団体を持ち、聖女の名を強固なものとしている。気をつけるべきはコウイチよりも公爵令嬢だそうだ。今回もその組織、いてはコウ・シリーズの勇者争奪戦の資金づくりの為に親の公爵に頼み込んで加わった。
 抗争事業ってなんだかんだお金が掛かるらしい。世知辛い。

 なら問題は公爵家に限定出来るが腐っても最高権力者の一人、やばい事に変わりない。まあ、そうなんだけど、今まで色々と公爵様は強引過ぎた。結果、身動きが取れなくなっているらしい。

 前のサガ領主は貧乏子爵だったのを金で横っ面引っ叩いて爵位を買い取り、無理を承知で一般人オルツィを領主資格を持つ最低位であるが男爵に授爵させている。そんな強引なところが三男にも受け継がれたのか、やはり親子らしいと微笑ましい。バカ親子だな。

 そこで何の罪もない、いわんや、前回とは違い、今年の“うつり”で男爵の個人的尽力で、サガの街に一つの被害を出さず、ギルドと協力してカトンボを撃退する事に成功したとする。
 もう英雄と言って良く、それを何の咎もなく罷免することが出来るのか?
 公爵が許しても、彼の敵対勢力、対抗派閥が黙っていない。いや、ココぞとばかりに責め立て、攻撃してくる。
 公爵は絶大な権力を有しているが、敵がいない訳ではない。

「例えば私とか」
 と、エルフ爺ぃサトリはのたまふ。
 
 流石どの国の始祖王の遥か以前から生きてるエルフだけあって、この国だけではなく様々な国で様々な爵位を持っているらしい。
 領土的には極小で、領民も少ないが有効で貴重な鉱山やら、魔的な薬草の群生地など、所有しているだけで大金持ち確定の領地をその最初から各地に数多く保有し、その資金で各王様に恩やら脅迫などを仕掛けて今の地位を確保維持してきた。しかも非課税特権まで。

 例えばこの国では子爵位を持ち、ハナの実家のある国では伯爵。その他諸々。
 「ああ、いたな、エルフの伯爵。滅多に公の場に姿を表すことがなく、顔は見知っていないが」とはハナの弁。

 元世界あっちでも中世欧州ではハプスブルク家とかの所為で各国婚姻関係が入り乱れ、あっちの国でこっちの国で同じ人物が複数の爵位や名前を持つのが当たり前と聴いたことがる。そのようなものか。

 自分は歴史の唯の傍観者だとうそぶいていたが実に羨ましい。もとい、恐ろしい。
 一代貴族で政治的には一切かかわらず、傍観者の立場にて常に中立を保ち、どの派閥に組みせずに今じゃ御意見番的な立場だと威張ってみせた。

 一代ってエルフで永遠だし、それって陰の実力者的な立場じゃねっと思ったが、実際にも政治には本当に口を出さず、自由な立場の確保のみに終止していたそうだ。今までは。
 まあ、公爵にも非はあるし、派閥を動かすぐらいはそそのかせるし、今回の件から手を引かせる事ぐらいは容易いな。
 だそうだ。なにそれ怖い。


 『一つの被害を出さず』等のツルさんの功績はこれからだし、本人はまだ寝てるし、エルフ爺ぃサトリは不気味。それでも事態は動いた。“うつり”二日目は直ぐに始まろうとしていた。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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