77 / 129
第七節 〜遷(うつり)・初茜(はつあかね)〜
077 初茜(はつあかね)1
しおりを挟む
~遷(うつり)~編 突入です。
77 78 79 80 は“遷”の初日、その朝の一コマとしての“ひと綴りの物語”です。
《その1》
決戦初日の朝の様子です。と思わせての……。スミマセン。
実際に戦う名も無き若者たちの悲喜交交を、スッぺー恋愛チックも折込みながら物語は進んで行きますったら。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
◆ (『或る、槍使い《スピア》』の視点)
今の季節のこの時間だと、もう吐く息が白い。
白い息が瞬く間に闇に溶ける。
高い擁壁に囲まれたギルドの基底では日の出前の予兆めいた不確かな初茜も遮られ、未だ闇に淀み沈いんでいる。
それでも確然とした黒はやがて濃淡のある曖昧な暗闇へと少しずつ様を変え、二十メトル先の仲間の影絵のような姿と、抱えた肩から突き出す槍のシルエットを朧げに浮き上がらせ始める。ヤツの吐き出す息の白だけがまだ唯一の色彩だけれど。
見上げる。鍋の蓋を裏から眺めるような夜明け前の藍鉄色の空が、切り取られたように浮かんでいる。夜明けは近い。日の出と共にアイツラはやってくる。俺等を殺しに。
何となく、想像していたよりも落ち着いている。不思議だな。明日どころか一時間後にオレも含めて此処にいる全員が死んでいても可笑しくないというのに。緊張といったら昨日のほうが余程だな。そして昨日の昼飯は美味かった。そして楽しかった。
自然と頬が緩む。
残念なことに今日の朝飯は又、魔物肉に戻ってしまったが、乗り越えられたら、三日後にはまた美味い飯を出してやるってあの“女王様”は約束してくれた。あと『特別休暇』と『ボーナス』って言ってたかな。言葉の意味はわからない。要は『休み』と『金』の事らしい。
難しい仕事が終わった後の事を考えるのは楽しいと、誰かが言っていた。誰だろう? 親父じゃないな。普段は仕事なんてしてないダメ親父だったからな。……やっぱり親父だった。最後の仕事に行く直前にオレに言ったんだ。本当にその仕事を最後にしちまったけど。
金はほしい、でも休みは一日でいいかな。その代わりにオレは槍の稽古をもっとしたい。未だまだ力不足で恐いけど、何時か“溜まりの深森”に入って魔物を狩れるようになりたい。何時かは“忌溜まり”迄。
“女王様”や“黒の副官”、……あとあの“小僧”もだが、あれ程に強いのは“忌溜まり”を抜けて来たかららしい。
“忌溜まり”、読み方は“いみたまり”だが、誰もそんな名では呼ばない。一度入ったなら誰も抜けられない、帰ってこれない。だから皆は“イキドマリ”と呼ぶ。
何時か、オレも抜けられるようになれるだろうか。
オレは何としても生き残りたいと思った。生き残って三日後を超えたい。全てを超え、抜け出てやる。
ふと、オレは自分の口角が上がっていることに気づいた。
◆ (『或る盾使い《タンク》』の視点)
もうすぐ夜が明ける。東の空の低い雲に薄っすらと朱じみが見えるる。初茜と言うらしい……どうでもいいか。
ギルドの擁壁の上。首筋を嬲る風は冷たい。なのに。
日の出と日入りは前後が違うだけで現象としては同じ様なものなのに、何故にこうも感じが違うのだろうかと。普段の俺は呑気に思っていた。なのに。
東の空に目をやる。今は薄闇色に染まるソコに、これから日が昇ってくるとは、俺にはどうしても思えなかった。どうしても日が沈んだあとにしか見えなかった。心持ちの違いだろうか。
俺は酷い喉の乾きを覚え、支給されたばかりの対衝撃斬突撃防護付与型多機能服に括り付けた水筒を手に伸ばそうとした。だが実際には手を伸ばすことは叶わなかった。“盾”を握った手が石の様に固まり、上手く離れてくれない。あまりにも強く握りしめていて、無意識に。
ふと視線を感じた。相方が振り返り俺を見ていた。何も言うな、言わないでくれと思った。
相方は黙って自分の持ち場に視線を戻した。相方の“投網”の銃把を握る手が白く血を失い、震えていた。
俺たちは怯えているのか。
「お前の背中は俺が絶対に守る」
「ああ、わかっている」
相方の返事は変に大きく硬い声だったなと思う。俺もか。
俺は怯えていると改めて思い、大きく息を吐いた。背中越しに相方のやはり大きく息を吐く声が聞こえた。手は水筒ではなく腰のケースに伸び、指で撫で回し、掌で擦り、確かにそこにあると何度も確認する。確かに在ると言い聞かせる。ケースの中には体力増加と大切な大切な治癒のポーションが収められている。大丈夫だ。ちゃんとある。
昨日は全然大丈夫だったのにな、と思う。決戦を明日に控え、案外平気で俺もなかなか肝が太いと一人悦に浸っていたのに、ザマぁない。
昼に街に出て、飯でもどうかと後輩を探したが、見つからなかった。そのへんからツキが徐々に落ちていったような、気がする。
昨日は突然に完全休暇が言い渡された。『リフレッシュ休暇』と、“女王様”は言っていた。リフレッシュが何を指すか分からなかったが、訓練に飽き飽きしていた俺たちは。さすがに解っていると大いに喜んだ。
訓練を続けたいと申し出た一部の“点数稼ぎ”が騒いでいたが、馬鹿かと思った。和を乱すなと。いい子ぶったバカに引きずられて結局は全員が訓練に戻らざるを得なくなったらどうする。
その点“女王様”はやっぱり判っている。武器に触ることさえ一切禁止だと。厳命だと。後は何をしても構わないと。俺たちは大いに湧いた。
ただ、そこに再び水を注すバカがいた。あの小僧だ。何故にお前がここに出てくる。ただの雑用のくせに。
「なにをしても構わない。逃げてそのまま戻ってこなくても」
バカが、この街を守るのは俺たちだ。何様のつもりだ偉そうに。ふざけろよ! 巻き起こる大ブーイングを受けても小僧はどこ吹く風で片方の口角を上げた白眼視の様相だ。
流石に見かねたのか女王様が平手で小僧の後頭部を叩いていた。小僧が二三歩たたらを踏むほどの強さだった。頭を抱えて蹲っている。でもそこになんとも言えない親密さの匂いを感じて、ちょっと白む。まあ、元々が小僧は女王様の従者らしいので仕方ないかもしれないが、やはりイラッとする。
気づくとギルド長も頭を抱えてはいたが、結局最後まで何も言わなかった。ゲートさんに至っては何度も頷いていた。赤鬼はもうダメかもしれない。ちょっと前までは俺等の兄貴として尊敬もしていたが、メッキが剥がれたと言うか……どうでもいいか。
◇
明後日には“遷”が始まる。その前に明日は休暇だ。俺は昼まで惰眠を貪ることにした。流石に身体は連日の酷使で悲鳴を上げていたしな。メンテナンスも必要だ。その後は街に繰り出し最後の晩餐と洒落込んでもいい。
今日の晩飯も通常の、いや、配給食にしては充分過ぎるほど豪華な、魔物肉ではない真っ当な食事が出て来るようになっていた。大判振る舞いだ。
街もギルド長が“投網”の弾丸や“タクティカル・ベスト”、“兜”の特急発注を行なった事を切っ掛けに住民も腹を決めたのか、或いは領主に街から逃げることを禁止されヤケクソになったのか、街の機能が復活し、飯屋やその他の店も再開するなんど大量高額発注の余波で大いに活気ついていた。商人を親に持つ同僚が『金が廻れば活気づく。活気づけば街は何度でも生き返る』と嘯いていた。どうでもいいが、俺は大義名分で動く。それが漢だ。
やはり気持ちは高ぶっているのか、思ったより早く目が覚めてしまった。夜明け前にだ。その後は変に目が覚めてしまい、もう眠れなくなってしまった。ああ、明日はこの時間から出撃かと思ったら途端にソワソワし始めて、我慢できなくなり飛び起きてしまった。その音のせいか、上のベットのヤツも隣のベットの二人もモゾモゾと起き出してきてしまった。
無理に起こしたかと済まない気持ちになったが、三人ともあまり眠れていなかったらしく、なんとも肝の据わらない奴等だと笑った。
その後は朝食が始まる迄と、男四人でバカ話しに興じた。主に“女王様”や“黒の副官殿”にもうチョッとポヨヨンだと更に良いのにと、ギルド長が若返ってポヨヨンがなくなってどっちが残念だとか、そんな身のない話だ。
大いに盛り上がり、何時の間にか眠っていた。流石に身体は疲れていたのか、起きたのはもう昼を随分と過ぎた時間だった。寝すぎて頭が重く、起きた時は俺一人だった。ツレねーじゃねーかと思った。
腹が異常に減っていた。
ドアを開けた処で部屋の三人が飯から帰ってきたところに出くわした。街に繰り出し昼飯を喰ってきたらしい。俺が文句を云うと、あまりにも俺が気持ちよさそうに眠っていたので起こさなかったと謝ってくれた。
しょがねぇなと、それに仲だってそれ程には良くもなく、ツルんで飯に行きたいとも思わなかった。何より、腹が空き過ぎて面倒くさい。俺も久々の街に繰り出し飯を食こうと、さっさと三人と別れた。
一人だと何だかなと、後輩を連れて行くことにした。女子寮の階に行くと、既に街に出て不在だった。なら街で捕まえればいい。栄えてはいるが小さな街だ、それに貧乏な俺等ギルド兵が行ける店なんてたかが知れてる。奴は既に飯は食い終わっているだろうが、俺が頼めば付き合ってくれるだろう。
俺は街へと繰り出した。
ギルドのゴツい外門を通って街の中心部に向かう大通りの中程で、後輩を見つけた。ギルドに帰る途中だったみたいだ。ちょうど良かった。でも後輩は一人じゃなかった。槍使い組の一番年若い、髪を真ん中で高く逆立てたトサカ頭の“ヤンキー”と一緒だった。
最初の顔合わせ時に小僧に突掛かって反対に瞬殺された、何時もダルっとして斜めに立っているような半端者だ。確か後輩と同じ種族で同い年だったか。なんかイラッとした。後輩が今までに俺に見せたことの無い顔で話し掛け、それをヤンキーが面倒くさそうに、それでも楽しそうに二人歩いている様子が妙にムカつく。
俺は二人が目の前に来るまで立ち止まって待ち構えた。後輩は俺には目もくれず、気が付きもせずに話に夢中で、ヤンキーに笑いかけていた。
「よお、俺は飯がまだなんだ、付き合えよ」
俺は後輩の手首を掴もうと手を伸ばす。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
77 78 79 80 は“遷”の初日、その朝の一コマとしての“ひと綴りの物語”です。
《その1》
決戦初日の朝の様子です。と思わせての……。スミマセン。
実際に戦う名も無き若者たちの悲喜交交を、スッぺー恋愛チックも折込みながら物語は進んで行きますったら。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
◆ (『或る、槍使い《スピア》』の視点)
今の季節のこの時間だと、もう吐く息が白い。
白い息が瞬く間に闇に溶ける。
高い擁壁に囲まれたギルドの基底では日の出前の予兆めいた不確かな初茜も遮られ、未だ闇に淀み沈いんでいる。
それでも確然とした黒はやがて濃淡のある曖昧な暗闇へと少しずつ様を変え、二十メトル先の仲間の影絵のような姿と、抱えた肩から突き出す槍のシルエットを朧げに浮き上がらせ始める。ヤツの吐き出す息の白だけがまだ唯一の色彩だけれど。
見上げる。鍋の蓋を裏から眺めるような夜明け前の藍鉄色の空が、切り取られたように浮かんでいる。夜明けは近い。日の出と共にアイツラはやってくる。俺等を殺しに。
何となく、想像していたよりも落ち着いている。不思議だな。明日どころか一時間後にオレも含めて此処にいる全員が死んでいても可笑しくないというのに。緊張といったら昨日のほうが余程だな。そして昨日の昼飯は美味かった。そして楽しかった。
自然と頬が緩む。
残念なことに今日の朝飯は又、魔物肉に戻ってしまったが、乗り越えられたら、三日後にはまた美味い飯を出してやるってあの“女王様”は約束してくれた。あと『特別休暇』と『ボーナス』って言ってたかな。言葉の意味はわからない。要は『休み』と『金』の事らしい。
難しい仕事が終わった後の事を考えるのは楽しいと、誰かが言っていた。誰だろう? 親父じゃないな。普段は仕事なんてしてないダメ親父だったからな。……やっぱり親父だった。最後の仕事に行く直前にオレに言ったんだ。本当にその仕事を最後にしちまったけど。
金はほしい、でも休みは一日でいいかな。その代わりにオレは槍の稽古をもっとしたい。未だまだ力不足で恐いけど、何時か“溜まりの深森”に入って魔物を狩れるようになりたい。何時かは“忌溜まり”迄。
“女王様”や“黒の副官”、……あとあの“小僧”もだが、あれ程に強いのは“忌溜まり”を抜けて来たかららしい。
“忌溜まり”、読み方は“いみたまり”だが、誰もそんな名では呼ばない。一度入ったなら誰も抜けられない、帰ってこれない。だから皆は“イキドマリ”と呼ぶ。
何時か、オレも抜けられるようになれるだろうか。
オレは何としても生き残りたいと思った。生き残って三日後を超えたい。全てを超え、抜け出てやる。
ふと、オレは自分の口角が上がっていることに気づいた。
◆ (『或る盾使い《タンク》』の視点)
もうすぐ夜が明ける。東の空の低い雲に薄っすらと朱じみが見えるる。初茜と言うらしい……どうでもいいか。
ギルドの擁壁の上。首筋を嬲る風は冷たい。なのに。
日の出と日入りは前後が違うだけで現象としては同じ様なものなのに、何故にこうも感じが違うのだろうかと。普段の俺は呑気に思っていた。なのに。
東の空に目をやる。今は薄闇色に染まるソコに、これから日が昇ってくるとは、俺にはどうしても思えなかった。どうしても日が沈んだあとにしか見えなかった。心持ちの違いだろうか。
俺は酷い喉の乾きを覚え、支給されたばかりの対衝撃斬突撃防護付与型多機能服に括り付けた水筒を手に伸ばそうとした。だが実際には手を伸ばすことは叶わなかった。“盾”を握った手が石の様に固まり、上手く離れてくれない。あまりにも強く握りしめていて、無意識に。
ふと視線を感じた。相方が振り返り俺を見ていた。何も言うな、言わないでくれと思った。
相方は黙って自分の持ち場に視線を戻した。相方の“投網”の銃把を握る手が白く血を失い、震えていた。
俺たちは怯えているのか。
「お前の背中は俺が絶対に守る」
「ああ、わかっている」
相方の返事は変に大きく硬い声だったなと思う。俺もか。
俺は怯えていると改めて思い、大きく息を吐いた。背中越しに相方のやはり大きく息を吐く声が聞こえた。手は水筒ではなく腰のケースに伸び、指で撫で回し、掌で擦り、確かにそこにあると何度も確認する。確かに在ると言い聞かせる。ケースの中には体力増加と大切な大切な治癒のポーションが収められている。大丈夫だ。ちゃんとある。
昨日は全然大丈夫だったのにな、と思う。決戦を明日に控え、案外平気で俺もなかなか肝が太いと一人悦に浸っていたのに、ザマぁない。
昼に街に出て、飯でもどうかと後輩を探したが、見つからなかった。そのへんからツキが徐々に落ちていったような、気がする。
昨日は突然に完全休暇が言い渡された。『リフレッシュ休暇』と、“女王様”は言っていた。リフレッシュが何を指すか分からなかったが、訓練に飽き飽きしていた俺たちは。さすがに解っていると大いに喜んだ。
訓練を続けたいと申し出た一部の“点数稼ぎ”が騒いでいたが、馬鹿かと思った。和を乱すなと。いい子ぶったバカに引きずられて結局は全員が訓練に戻らざるを得なくなったらどうする。
その点“女王様”はやっぱり判っている。武器に触ることさえ一切禁止だと。厳命だと。後は何をしても構わないと。俺たちは大いに湧いた。
ただ、そこに再び水を注すバカがいた。あの小僧だ。何故にお前がここに出てくる。ただの雑用のくせに。
「なにをしても構わない。逃げてそのまま戻ってこなくても」
バカが、この街を守るのは俺たちだ。何様のつもりだ偉そうに。ふざけろよ! 巻き起こる大ブーイングを受けても小僧はどこ吹く風で片方の口角を上げた白眼視の様相だ。
流石に見かねたのか女王様が平手で小僧の後頭部を叩いていた。小僧が二三歩たたらを踏むほどの強さだった。頭を抱えて蹲っている。でもそこになんとも言えない親密さの匂いを感じて、ちょっと白む。まあ、元々が小僧は女王様の従者らしいので仕方ないかもしれないが、やはりイラッとする。
気づくとギルド長も頭を抱えてはいたが、結局最後まで何も言わなかった。ゲートさんに至っては何度も頷いていた。赤鬼はもうダメかもしれない。ちょっと前までは俺等の兄貴として尊敬もしていたが、メッキが剥がれたと言うか……どうでもいいか。
◇
明後日には“遷”が始まる。その前に明日は休暇だ。俺は昼まで惰眠を貪ることにした。流石に身体は連日の酷使で悲鳴を上げていたしな。メンテナンスも必要だ。その後は街に繰り出し最後の晩餐と洒落込んでもいい。
今日の晩飯も通常の、いや、配給食にしては充分過ぎるほど豪華な、魔物肉ではない真っ当な食事が出て来るようになっていた。大判振る舞いだ。
街もギルド長が“投網”の弾丸や“タクティカル・ベスト”、“兜”の特急発注を行なった事を切っ掛けに住民も腹を決めたのか、或いは領主に街から逃げることを禁止されヤケクソになったのか、街の機能が復活し、飯屋やその他の店も再開するなんど大量高額発注の余波で大いに活気ついていた。商人を親に持つ同僚が『金が廻れば活気づく。活気づけば街は何度でも生き返る』と嘯いていた。どうでもいいが、俺は大義名分で動く。それが漢だ。
やはり気持ちは高ぶっているのか、思ったより早く目が覚めてしまった。夜明け前にだ。その後は変に目が覚めてしまい、もう眠れなくなってしまった。ああ、明日はこの時間から出撃かと思ったら途端にソワソワし始めて、我慢できなくなり飛び起きてしまった。その音のせいか、上のベットのヤツも隣のベットの二人もモゾモゾと起き出してきてしまった。
無理に起こしたかと済まない気持ちになったが、三人ともあまり眠れていなかったらしく、なんとも肝の据わらない奴等だと笑った。
その後は朝食が始まる迄と、男四人でバカ話しに興じた。主に“女王様”や“黒の副官殿”にもうチョッとポヨヨンだと更に良いのにと、ギルド長が若返ってポヨヨンがなくなってどっちが残念だとか、そんな身のない話だ。
大いに盛り上がり、何時の間にか眠っていた。流石に身体は疲れていたのか、起きたのはもう昼を随分と過ぎた時間だった。寝すぎて頭が重く、起きた時は俺一人だった。ツレねーじゃねーかと思った。
腹が異常に減っていた。
ドアを開けた処で部屋の三人が飯から帰ってきたところに出くわした。街に繰り出し昼飯を喰ってきたらしい。俺が文句を云うと、あまりにも俺が気持ちよさそうに眠っていたので起こさなかったと謝ってくれた。
しょがねぇなと、それに仲だってそれ程には良くもなく、ツルんで飯に行きたいとも思わなかった。何より、腹が空き過ぎて面倒くさい。俺も久々の街に繰り出し飯を食こうと、さっさと三人と別れた。
一人だと何だかなと、後輩を連れて行くことにした。女子寮の階に行くと、既に街に出て不在だった。なら街で捕まえればいい。栄えてはいるが小さな街だ、それに貧乏な俺等ギルド兵が行ける店なんてたかが知れてる。奴は既に飯は食い終わっているだろうが、俺が頼めば付き合ってくれるだろう。
俺は街へと繰り出した。
ギルドのゴツい外門を通って街の中心部に向かう大通りの中程で、後輩を見つけた。ギルドに帰る途中だったみたいだ。ちょうど良かった。でも後輩は一人じゃなかった。槍使い組の一番年若い、髪を真ん中で高く逆立てたトサカ頭の“ヤンキー”と一緒だった。
最初の顔合わせ時に小僧に突掛かって反対に瞬殺された、何時もダルっとして斜めに立っているような半端者だ。確か後輩と同じ種族で同い年だったか。なんかイラッとした。後輩が今までに俺に見せたことの無い顔で話し掛け、それをヤンキーが面倒くさそうに、それでも楽しそうに二人歩いている様子が妙にムカつく。
俺は二人が目の前に来るまで立ち止まって待ち構えた。後輩は俺には目もくれず、気が付きもせずに話に夢中で、ヤンキーに笑いかけていた。
「よお、俺は飯がまだなんだ、付き合えよ」
俺は後輩の手首を掴もうと手を伸ばす。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ガタリアの図書館で
空川億里
ファンタジー
(物語)
ミルルーシュ大陸の西方にあるガタリア国内の東の方にあるソランド村の少女パムは両親を亡くし伯母の元へ引き取られるのだが、そこでのいじめに耐えかねて家を出る。
そんな彼女の人生には、思わぬ事件が待ち受けていた。
最初1話完結で発表した本作ですが、最初の話をプロローグとして、今後続けて執筆・発表いたしますので、よろしくお願いします。
登場人物
パム
ソランド村で生まれ育った少女。17歳。
チャーダラ・トワメク
チャーダラ伯爵家の長男で、準伯爵。
シェンカ・キュルン
女性の魔導士。
ダランサ
矛の使い手。ミルルーシュ大陸の海を隔てて南方にあるザイカン大陸北部に住む「砂漠の民」の出身。髪は弁髪に結っている。
人間以外の種族
フィア・ルー
大人の平均身長が1グラウト(約20センチ)。トンボのような羽で、空を飛べる。男女問わず緑色の髪は、短く刈り込んでいる。
地名など
パロップ城
ガタリア王国南部にある温暖な都市。有名なパロップ図書館がある。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる