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第六節 〜似非魔王と魔物、女王と兵隊〜

061 何処に行く

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久々のハム・ハナ・サチ3人の団らん回です。ほのぼいになってくれたでしょうか? 微妙?

※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 ◇

 あの、いいんですけどね、この縄、誰か解いてくれませんかね。誰もいなくなった薄暗い食堂で椅子に縛り付けられたままの僕は独りごちる。

「すまないな、色々と」と、委員長系ギル長。
 結局、縄を解いてくれたのは様子を見に来てくれた彼女だった。
「何が」と僕。

「いろいろだ」

「いろいろか、そうだな、まあ、ひとそれぞれ色々だな」

「私は……見ていなかったのだろうな。先の“うつり”も経験していない。その街に来たのもつい最近だ。でも。だからこそ、この街のギルドの長として、失格だ。六日後に迎える“戦争”にあたって、迎える皆の色々な思いを、私は少しも……」

「いいんじゃねぇか。アンタも言ってただろ、ひとそれそれだって。全てを引き受けたら、それこそ、な。
 いいじゃねえか。なるようにしかならねぇよ」

「それでも私は」

「それと俺は慰めねえよ、それは赤鬼に頼め」

「なにを……」

「それと出歯亀は勘弁してくれ。様子見なんて、おばさま達とのアレヤコレヤをただ覗きに来ただけだろ。ギルドの長としてだけでなく、人間としてもどうかと思うぜ」
 俺を見捨てた事は忘れない。絶対だ「溜まってんじゃねぇか、それこそ赤鬼に頼め」

「な、何おぅ!」

 僕は立ち上がり背を向け歩きだす。「縄、ありがとな。そろそろ俺も休ませてもらうわ。それにうちのお姫様の事も心配だからな」

「……ああ、そうだな、お前も五十時間ぶっ通しだったな。ご苦労様、ゆっくり休んでくれ」

「おやすみ、出歯亀ギルド長さん。また明日」

「もう、今日だけどな。おやすみ、不器用なマイマスター」



 はぁ~、アラクネのあの娘さん、意外とボッキュンボンなんだよなぁー、やっぱりどう考えても勿体なかったよな~、やっぱりアレヤコレヤ教えてもらいたかったなあ~。……それを、委員長系ギル長が目ン玉ギラって出歯亀ってやがった。別に見られててもいいんだけどさ、やっぱり喋るよな、ハナに……。

 よくぞ我慢したオレ、……ってことにしてこ。なんか違うと思うし。



 自分に与えられた部屋のドアの隙間から光が漏れている。まあ想定内だ。「ただいま」とドアを開けながら。
「おかえりなさい」と僕のベットのヘッドボードに背中を預け、胸の前で銃身を磨いていたハナが嬉しそうに顔を上げ。


「ごめんな、昨日は戻れなくて」
「いいよ、お仕事だったんでしょ。委員長系ギル長さんからも”帰れない”って連絡もらってたし、サッちゃんと一緒に楽しく待ってたよ」

「そうか」と部屋の隅の丸椅子にただひっそりと座っているサチに向かい「サチもご苦労だった」と僕。サチは立ち上がるでもなくその場で軽く黙礼だけで済ませる。

「今日は何してたんだ」

「んー、兵隊さん達とお稽古、私が怪獣役で追いかけ回した」

「あんまりいじめるなよ」

「ぶー、イジメてないよ、ね、サッちゃん」

「エリエル様は至極真面目にお勤めを果たされておりました」

「サッちゃんたらブー。そのエリエルって止めてって言ってるじゃない」

「失礼しました。エリエル様。いえ、我が主よ」

「それもいや、普通にお嬢様にして」

「それは……。私のモチベーション的にも……」

「それはたいへん。じゃぁね、人のいるとこはお嬢様で、その他はサッちゃんの好きにしていいよ」

「ありがたき幸せ」

 こいつらマジ寝てねーな。ハナの微妙な幼児後退も然る事ながら、サチの目の下の隈と思考力のダダ下がりで明らかだった。
 僕はハナの横に潜り込み「ちょっと働きすぎた、ちょっと眠るかな」

 ハナはニマっと笑い「イイよ、私がハム君が眠りにつくまで見守っていてあげるよ」

「それは嬉しいな。じゃぁ頼もうかな」

「手ぇ、繋いでてあげようか。良く眠れるように」

「ああ、それは嬉しいな、たのもうかな」

「うん、いいよ。おやすみハム君、また明日」

「おやすみハナ、また明日」


 二時間、僕はヘッドボードに背中を預け、傍らで丸くなって眠るハナの手を握っていた。繋いだ手と手を通して魔力アルカヌムを流し、片時も離さず股に挟んだ“火縄銃モドキ”に更なる改良を加えていく。僕も五十時間ぶっ続けの【表象印契】行使で得たモノは大きい。それをハナの“火縄銃モドキ改”に早々還元している訳だ。少しずつ、確実に、ハナを守る糧となる様に。
 “火縄銃モドキ改”に手を加える際、直接ではなく、ハナを通して行うとより馴染むことを今までの経験で知っていた。

 驚いた。素直に驚愕した。何時の間にか魔法陣が増えていた。それも『同時多発射出及び複数弾丸の同時個別操作に関する魔法陣章』って、めちゃくちゃ高次魔法理論だ。未だまだ攻撃魔法としては甘い部分が多いが、少し手を加えれば。

 ハナとサチが兵隊相手に頑張ってるって事は知ってる。相当無理していることも。俺の願いを聞いてそれを実現しようとしていた。
 魔力の使いすぎで規定値超えの過負荷オーバーロードを起こして倒れたのは昨日の、もう日が変わっているから二日前か。
 あの時はとても焦った。血の気が引いた。自分でもどうしてあんなに動揺したのか不思議なほどに。……不思議じゃないな。解ってる。失いたくないと切に思った。これで何度目だろうか。その度に思う。もし喪うことが有れば、僕はこの世界を恨んでしまうだろうと。

 僕とパスが繋がっている彼女に基本的に魔力切れはない。でもそれが逆に恐い。魔力切れは二、三日寝込むだけで済むが、規定値超えの過負荷オーバーロードは過ぎると突然に破裂するそうだ。身体が。パンって。人に非ざる力だと似非は言っていた。
 そんな人外の力を極限まで使わざるえない状況に彼女を追い込んだのは僕だ。

 自分の能力的には実現不可能な事を二人に頼んでいる自覚はある。でも二人にしか頼めないし、俺には二人しか居ない。そして二人なら実現可能なことも知っている。
 
「ハナは偉いなあ、がんばってるな」
 それでも、僕は彼女を箱の中に仕舞っておくことなんて出来ない。
 でもだからこそ、今は、ありがとうとも済まないとも言わない。
 僕の空いている手が自然とハナの頭に伸び、撫でていた。
 ハナがズズッと鼻を啜りむにゃむにゃ言っている。ちょっと笑った。


 僕はそっとハナの手を離し、ゆっくりとベットから降りる。

「サチ、ハナは熟睡している。あと八時間は起きないだろう。お前も少し寝ておけ、いざって時に役に立たないでは済まされないぞ」
 部屋の隅、丸椅子に未だ腰掛けたままのサチは自虐的な笑みを浮かべ、
「私が役に立つことなんてあるのか」

 僕は溜息を付いてやるほど甘くなく「サチ、二日前に俺はお前に言ったよな。どうするんだと。そしてお前は此処ここにいる。なら中途半端は許さない。最善をつくせ」

「お前は、やっぱり残酷だな」

「そうだ。そして俺はお前に期待もしていない。ただ、今の、お前の制限した力でも、ハナは認めている。それだけだ」
 僕は黙って部屋を出るためにドアに向かい歩く。

「何処に行く」

 壁の掛け時計に目をやり「アラクネの娘たちが起きて来るまであと五時間あるんだよな。面倒くさいけど、その間に仕事を造っておかないと貞操の危機を迎えそうなんだ。そんなことになったらハナが許してくれないだろ。

 ……ああそうだ、ハナが起きたら初めて会った時に着ていた“一見町娘風だけどバッチリ高位お貴族様ご令嬢の服”を着させておいてくれ。睡眠量バッチリの久々のバチバチ悪役令嬢を降臨してもらう。お前にも同行してもらうぞ」

「誰に会うんだ」

「この街に入る際に最初に会った怖い怖いおっさんだ。カチコミを掛ける」
 


 地下最下層“武器倉庫兼整備ルーム室”に戻る。

ひっそりと、魔法のランプの数個が落とされ、今は等間隔を開けて心もとないく灯るだけ。
 左隅の人型のハンガーに掛かる三領のゴテゴテしい見た目の“擬神兵装神の如”なんて御大層な名の重装甲式全身鎧フルアーマーに歩み寄る。

 コンコンと手の甲で叩いてみる。光沢を放つメタルで重厚な見た目からは思い掛け無い、硬化製樹脂系から発すであろう柔い音が僕の手の甲に伝い返った。

委員長系ギル長が僕に執拗に修理を依頼したのが“飛竜落し”と、この“神の如”だった。前ギルド長も注目し修復を目指していたと言う。二人とも防護に注目する事は正しい。だって人間なんて魔物の前では脆弱過ぎるから。
 だから僕はこの鎧の修理は行わない。



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お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

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