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第四節 〜ギルド〜

045 日々その手で獲続ける事に他ならない

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前半おふざけ、後半ちょっとシリアス。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――

  ◇

 その後に士官用の食堂に案内され、食事を与えられた。見た目は手の込んだ豪華絢爛な流石士官用食堂と感嘆するところだが食材は全てやっぱりの魔物クサレ肉オンリー、既定路線ってやつですね。

 “うつり”であるこの時期の自然食材は一般市民の避難時に全て持たせてしまう為に在庫分がなく、仕方ないらしい。食欲をそそる料理を施してくれる料理人も通年では既に避難するのでこれ程に美味そうな見た目は貴重だとも言われた。
 でもさ、それでもさ、だって見た目だけじゃん。味はそのままシン・クサレなゲロのまんまだった。サチ一族の“秘伝のタレ”がどれほど優秀であったか改めて再確認させられた。あれ程にデスってゴメンねサチ。君の一族はとても優秀だ。
 因みに見た目重視な料理人は昼間見た『魔物解体の人達』だった。多才で働き者ですね。

 代わりに食後のデザートとして出された謎のカップゼリーに食らいついて何杯もお代わりを繰り返した。追加エンドレスで何度も作らせ続けさせて料理人を呆れさせる程に。わがまま言ってごめんなさい。
 でもさ、甘いんだよ。甘味最高! 寒天状のゼリーで砂糖大量投入し、若干の、ほんの僅かな果汁を加えた超簡素なものだったが、僕らは泣いた。これだけは言える。甘いは正義! ありがとう!

 最初、食堂に入ってきた僕らを見やるギルドの兵隊さんの視線は猜疑心が最上位MAXでソレハそれはキツいものだった。
 そりゃそうだ、いきなりギルドに現れ、ひと騒動を起こし(言っておくけど起こしたのは僕ではありません。巻き込まれです)。
 何だか、いつの間にか士官用食堂で太太ふてぶてしくメシを食っているし(これ、魔物クサレですよね)。

 何だアノふざけた格好は(それこそ僕のせいではありません)。
 小僧の分際で、コッチを高い所から|(僕って背、低いですけど)傲岸不遜に睨んできて何様のつもりだ。
『生意気な殺しとくか』
 って、なってたっぽい。

(ああハム君って、ちょっと“そんな”感じあるよね。とはハナ談)

 ちょっと待て。傲岸云々は置いといて、どうして僕一人だけなんだ? ハナは? サチは? ああ、女の子はイイんですか。可愛いからイイんだ。
 僕への避難に美女・美少女を侍らせやがって、ってのがあったらしいく、Badボタン連打だったらしい。なるほど。でも二人とも俎板だぞ。って、そんな角度からのフリッカー撃ってくんじゃねーハナ! あぶねえな。

 ともかく、そんな超攻撃的な視線が突然和らいだ。その理由が魔物クサレ肉な砂糖菓子モドキに咽び泣く僕ら、改メ僕かわいそうな人と分類して同類として認めてくれた、かららしい。まあ、何より。
 カースト最下位だけど。



 その夜、ハナとサチに与えられた女性士官用個室の隅の床の上、その暗がりで壁に背を預け並んで体育座りのサチと僕。僕はハナの手を握っている。その冷たい掌を。

「やっぱり眠れない?」

「大丈夫。頭では分かってるの。ここは安全だって。だから気持ちもビクビクしてないよ」
 と、言いながらも“火縄銃モドキV・R”にしがみつく様に腕の中に抱え込み、片時も離さない。今も。

「……でもちょっと、まだ……ね」

「焦る必要はないさ、まだ森を抜けたばかりだ。それに僕は平気だ。昼寝してればイイし」

「ふふ、嘘ばっかり。ハム君とサッちゃんには迷惑かけるね。ありがとねサッっちゃん」

 ちょっと離れた場所のベットの上で丸まって背中をこちらに向け、眠っているはずのサチの体が一度、ビクンと震えた。窓から差し込む月明かりに照らされたサチの綺麗な背中。ハナに無理やり寝るよう、体を休めるようにベットに追われたサチ。だからって眠れるはずないよな。
 
 「昼間ね、この街に留まって“うつり”? 魔物が大量に襲ってくるのを撃退するのを手伝うってハム君決めたでしょ?」

「大丈夫だ。危なくなったら逃げ出す。開戦前に逃げてもイイ。僕らにこの街への義理はない」

「違うの」とハナ。
 僕の手をキュッと握り返す。
「違うの、私その時、うん、やってやるぜ! ってちょっと思っちゃったの。不遜だと思われるけどちょっとワクワクしてきたの。
 …… 乗り切れば、生き残れば私も、もう一度って、そう思ったの」

「そうか……。ならちょっと、やってやんよって、言っちゃってみるか」

「うん、やってやんよ」

「でも危なくなったら逃げるからな。これはマスト」

「うん、たのんます」


 夜が明ける。しらじらと。ほんのりと明るさを取り戻す。もうすぐ日は昇るだろう。
 ハナは僕の肩に頭を持たれさせ、束の間の微睡まどろみに身を委ねている。
 そうか。ちょっとワクワクしてるか。まいったな。
 早々に練りに練った逃走計画はあえなく終了か。

 “溜まりの深森”に入った当初の僕らは弱すぎて逃げ惑うのが精一杯な惨めな地を這うナメクジだった。悲惨で憐れな逃走で、最初にハナがやられた。
 確かに異世界こっちに流れてきて再会した当初のハナはイキイキしていた。元気に“フワ金”さんに対抗していた。それがいつの間にか口数が少なくなり、生き残る事だけに精一杯となっていた。でも、森の後半、抜け出す間際はそれなりに戦えていた。

 僕らは“逃げ”一択だった、でも上手くやれていた。危ない事は一度や二度じゃなく日常だったが、大切な事は、僕らはその日を生き残っていた。なんとか。そして僕らは森を抜けた。

 でも、それだけじゃダメなのかもしれない。本当の意味での森を抜け出る為に望むもの。
 生き続けるって事は、難儀な事に小さく下らない“何か”を、日々その手で続ける事に他ならないのかもしれない。傲慢に、あつかましく。
 
 それでも、次の僕らは上手くやれるだろうか。
 たぶん、ハナが思うよりこの魔物の襲来スタンピートはヤバい。なぜそう思うのか? だって委員長系ギル長も赤鬼も……それでもやっぱり諦めているから。

 でも、ハナはワクワクしてるのか。肩は震え、すごく無理をしているけど。ハナは自分を取り戻そうとしている。
 凄いよなハナは。
 じゃあ、しょうがないよな。
 
 そんな訳で、僕は異世界こっちに流れてきて初めてやる気になっていた。でもちょっとだけだよ。ほんのちょっと。だって状況は最悪だし、重要なのはやっぱり安全。ほんと命大事。危なくなったら躊躇なく即撤退。
 生きてさえいれば、次があるかもしれない。かもだけど。


 ◆ (『サチ』の視点です)

 夜が明ける。しらじらと。ほんのりと明るさを取り戻す。もうすぐ日が昇るだろう。私はベットに横になりながらも一睡も出来なかった。
 エリエル様が決断し、ハム殿は覚悟した。
 なら私は? もう二度と戦わないと決心した私はどうすればイイ。

 私が戦えば、私が戦いに没頭すれば、またが起こる。また周りの人が死ぬかもしれない。それでもしエリエル様が死んだら? ハム殿が死んだら。ハムはいいか。でもそれでもエリエル様は悲しまれるだろう。

……私は、どうすればイイ。
 この街に留まり“うつり”に対抗する。スタンピード撃退戦に参戦すると、エリエル様が望まれ、ハム殿が決断した今、私は……。

 “溜まりの深森”に入った当初の私達は弱すぎて逃げ惑うのが精一杯な惨めな地を這うナメクジだった。悲惨で憐れな逃走で最初にハナ様がお倒れに成った。

 こうべを垂れ、俯くエリエル様。笑わないハナ様。
 身が引き裂かれる痛みを感じた。どうして、どうして守れない。また私は。
 それを紙一重で持ち堪えさせていたのは小僧ハムだった。ギリギリだったけど、それでも確実に身を削って必ずハナ様をお守りしていた。ハナ様だけじゃなく私までも……なんでよ。

 森の後半、それでも変化が表れ始めた。私たちが、それなりに戦え始められた頃から。
 相変わらず逃げ一択だったけど、上手くやれていた。危ない事は一度や二度じゃなく日常だったけど、 全ては小僧ハムのお陰だったけど。ああ、このまま続けられれば、生きて出られる。ありがたい。
 なにより、出口に近づけば近づく程にハナ様も出会った頃の闊達さを取り戻してくれるだろう。そう思った。

 それなのに私は、その好転に苛立っていた。最初は僅かだったれが、少しずつ、少しずつ蓄積され、私の苛立ちは何故か小僧ハムを怨むようにさえなっていった。凄く。ハムだけではなくハナ様も、エリエル様さえも怨むようになっていた。正直、あのまま続いていたら、と思う。たぶん取り返しのつかない事になっていた。

 私の怨みが弾ける前に、ハナ様に笑顔が戻る前に、唐突に私達は森を抜けた。
 
 正直ホッとした。助かったと思った。そして私の二人に対する怨みは霧散し、代わりに、その何倍もの怨みを自分自身に向けた。
 蔑みと言う形で、安堵している自分に。何より、また何も出来なかった自分に。

 そして今、エリエル様は戦うことを選んだ。自分を取り戻す為に自ら決断した。そして小僧ハムは当然の如くエリエル様をお守りするだろう。忌々しい。
 ……何が“それなりに戦え始められた”だ! 私は戦ってなんかない!

「サチ、起きてるんだろう。だから言っておく。お前はどうする。どっちを選んでも俺はお前を助けないぞ。そんな余裕はないからな。そして敵対するなら容赦しない。まあ、容赦しないのはお前だけじゃないけどな。自由にしろ」

 ハム、お前は最低だな。自由にしろか……。自由ってこんなに重いものだったのか……。
 おまえは知っていたのだな。私が怨んでいることを。
 おまえを。私を。

 生き続けるって事は、難儀な事に小さく下らない“何か”を、日々その手で続ける事に他ならないのかもしれない。悲観にくれ、絶えず自分をさげすみ続けながらも。

 もうすぐ夜が明ける。今日が始まる。それだけが確定事項だった。

うつり”まで、あと9日。



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お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
次話は明日、17 時ちょっと過ぎに投稿します。
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