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第五章 天の川を一緒に歩こ!
幸せの誕生日
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「よー!佑夏ー!早いなー!」
翠が笑って声をかける。
まだ、予定時刻の一時間前である。
「エヘヘ。なんかもう、待ちきれなくて。早く着いちゃった!」
時間に正確な日本人の中でも、さらに時間に正確な佑夏さん。
この人は、何でも、時間に余裕を持って行動するのは、知っている。
彼女のすぐ後に、斎藤ミユちゃんが続く。
やはり、佑夏にくっつかんばかりに密着!
一応、こちらにも「おはようございます。」と挨拶はしたものの、佑夏しか見ていない。
ミユちゃんの紅潮した頬、熱くウットリと、佑夏を見つめる瞳。
相変わらず、というより、以前にも増して、白沢先輩に、ご執心のご様子だ。
二人共、既にジャージ姿にポニーテール。
準備万端だな。
そして、中学生とおぼしき少年が下りてくる。
話に聞いていた佑夏の弟、白沢隼君だろう。
彼も、もうサッカーウェアに身を包んでいる。
さほど、姉似のイケメンというほどではないが、優しく澄んだ瞳、微笑を湛えた口元は佑夏にそっくりだ。
最後に佑夏のお父さんが。
いかにも田舎の氣のいいオジサンといった感じ、白髪一つ無く若々しい。
険しい顔をした都会のサラリーマンとは違う、穏やかな表情をしている。
「しらさわ先生ー!しらさわ先生ー!」
佑夏が構内に入って来ると、文字通り、津波のように子供達がドカドカ殺到する!
翠には悪いが、人気度が桁違いだ。
子供に揉みくちゃにされている佑夏に、僕も、ようやく声をかける。
「おはよう、佑夏ちゃん。誕生日おめでとう!」
「ありがとー!中原くん!おはよー!」
髪の白い貝殻が、初夏の爽やかな陽射しに煌めく。
節目の二十歳の誕生日、彼女は特定の恋人と過ごすのではなく、施設の子供達の想い出作りを選ん
だ。
特定の恋人?つまり特別な男?いや、ここにいるじゃないか。
この中原仁助が!
しかも、今夜は山の共同施設に、全員で宿泊するのである。
子供達も一緒とはいっても、記念の誕生日の夜に、佑夏と同じ一つ屋根の下で眠れる男は、家族を除けば僕だけである。
一言で言えば、僕は、この上なく嬉しい。
だが、彼女は、この事をどう思っているのだろう?
しばし、佑夏に「君は僕をどう思っているの?」みたいな表情で視線を送るのを、我慢できないでいる。
佑夏も、信頼と嬉しさのこもった目で、微笑みながら見つめ返してくれて。
何だか、すごくいい雰囲気だ。
が!しかし!
突如、強引に、二人の間に割って入る斎藤ミユちゃん。
「おはようございます、中原さん。今日は男子の引率、よろしくお願いします。」
「あ、ああ、そうだね。よろしくね、斎藤さん。」
僕は、苦笑しつつ、答える。
いや~、白沢先輩が好きなのは分かってるけどさ、こんな激しい目付きで、睨み付けなくても。
どうにも、参ったな。
少し離れた所で、こっちを見ながら、翠はクスクス笑っている。
佑夏のお父さんと、隼君にも簡単に挨拶を済ませた後、いよいよ子供達がバスに乗り込む。
この時。先週、ぽん太の世話をしに、佑夏が家に来た時に、二人で話したことを、僕は思い出していた。
「アランがね、礼儀は乱暴な心を鎮める体操だ、って言ってるの。合氣道もそうでしょ?」
膝の上の、デブ猫・ぽん太をブラシで撫でながら、佑夏は切り出し、僕に視線を向ける。
「そりゃ、そうだよ。武道は”礼に始まり、礼に終わる”って言うくらいだからね。」
僕も、三毛猫・楓を抱いたまま答える。
すぐ傍で、雑種犬のレオナも、寝息を立てている様子が可愛らしい。
「アランの幸福論に出てくるのよ。
礼儀正しさの中にある、柔軟性や自然さやゆとりは、調和のとれた生きた生命のイメージで、反対に不作法の硬直性や不自然さやあせり、対立的で機械的な動きは、怯えと怒りと、死と破滅のイメージなんだって。」
いつも、この人の動作が、優しく美しいのは、こういう訳なんだろう。
「だからね。来週、子供達がバスに乗る時には、お父さんに一人一人、挨拶してもらおうと思ってるの。」
翠が笑って声をかける。
まだ、予定時刻の一時間前である。
「エヘヘ。なんかもう、待ちきれなくて。早く着いちゃった!」
時間に正確な日本人の中でも、さらに時間に正確な佑夏さん。
この人は、何でも、時間に余裕を持って行動するのは、知っている。
彼女のすぐ後に、斎藤ミユちゃんが続く。
やはり、佑夏にくっつかんばかりに密着!
一応、こちらにも「おはようございます。」と挨拶はしたものの、佑夏しか見ていない。
ミユちゃんの紅潮した頬、熱くウットリと、佑夏を見つめる瞳。
相変わらず、というより、以前にも増して、白沢先輩に、ご執心のご様子だ。
二人共、既にジャージ姿にポニーテール。
準備万端だな。
そして、中学生とおぼしき少年が下りてくる。
話に聞いていた佑夏の弟、白沢隼君だろう。
彼も、もうサッカーウェアに身を包んでいる。
さほど、姉似のイケメンというほどではないが、優しく澄んだ瞳、微笑を湛えた口元は佑夏にそっくりだ。
最後に佑夏のお父さんが。
いかにも田舎の氣のいいオジサンといった感じ、白髪一つ無く若々しい。
険しい顔をした都会のサラリーマンとは違う、穏やかな表情をしている。
「しらさわ先生ー!しらさわ先生ー!」
佑夏が構内に入って来ると、文字通り、津波のように子供達がドカドカ殺到する!
翠には悪いが、人気度が桁違いだ。
子供に揉みくちゃにされている佑夏に、僕も、ようやく声をかける。
「おはよう、佑夏ちゃん。誕生日おめでとう!」
「ありがとー!中原くん!おはよー!」
髪の白い貝殻が、初夏の爽やかな陽射しに煌めく。
節目の二十歳の誕生日、彼女は特定の恋人と過ごすのではなく、施設の子供達の想い出作りを選ん
だ。
特定の恋人?つまり特別な男?いや、ここにいるじゃないか。
この中原仁助が!
しかも、今夜は山の共同施設に、全員で宿泊するのである。
子供達も一緒とはいっても、記念の誕生日の夜に、佑夏と同じ一つ屋根の下で眠れる男は、家族を除けば僕だけである。
一言で言えば、僕は、この上なく嬉しい。
だが、彼女は、この事をどう思っているのだろう?
しばし、佑夏に「君は僕をどう思っているの?」みたいな表情で視線を送るのを、我慢できないでいる。
佑夏も、信頼と嬉しさのこもった目で、微笑みながら見つめ返してくれて。
何だか、すごくいい雰囲気だ。
が!しかし!
突如、強引に、二人の間に割って入る斎藤ミユちゃん。
「おはようございます、中原さん。今日は男子の引率、よろしくお願いします。」
「あ、ああ、そうだね。よろしくね、斎藤さん。」
僕は、苦笑しつつ、答える。
いや~、白沢先輩が好きなのは分かってるけどさ、こんな激しい目付きで、睨み付けなくても。
どうにも、参ったな。
少し離れた所で、こっちを見ながら、翠はクスクス笑っている。
佑夏のお父さんと、隼君にも簡単に挨拶を済ませた後、いよいよ子供達がバスに乗り込む。
この時。先週、ぽん太の世話をしに、佑夏が家に来た時に、二人で話したことを、僕は思い出していた。
「アランがね、礼儀は乱暴な心を鎮める体操だ、って言ってるの。合氣道もそうでしょ?」
膝の上の、デブ猫・ぽん太をブラシで撫でながら、佑夏は切り出し、僕に視線を向ける。
「そりゃ、そうだよ。武道は”礼に始まり、礼に終わる”って言うくらいだからね。」
僕も、三毛猫・楓を抱いたまま答える。
すぐ傍で、雑種犬のレオナも、寝息を立てている様子が可愛らしい。
「アランの幸福論に出てくるのよ。
礼儀正しさの中にある、柔軟性や自然さやゆとりは、調和のとれた生きた生命のイメージで、反対に不作法の硬直性や不自然さやあせり、対立的で機械的な動きは、怯えと怒りと、死と破滅のイメージなんだって。」
いつも、この人の動作が、優しく美しいのは、こういう訳なんだろう。
「だからね。来週、子供達がバスに乗る時には、お父さんに一人一人、挨拶してもらおうと思ってるの。」
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