上 下
3 / 45
失格聖女編

03 部下は上司を選べないけど上司も似たようなもん

しおりを挟む




「聖女様、本日のご予定ですが」
「あれ、監禁おしまい?」
「……本日より、聖女様ともうお一人の聖女様で城外の病院を回ります」
「あ、そう」

「それに伴いまして、聖女様護衛として私共もお供いたしますので」

「えっ一緒に行くの?」

「はい」

「まだまだ監視中なんじゃん」

 不貞腐れてガックリと肩を落としながらクローゼットの中に入る。
 ウォークインクローゼットとなっていて、この数日で私のリクエスト通り動きやすそうな服をシェリルちゃんが補充してくれたのだ。

 その服の中で1番楽そうなワンピースを着て準備をして出ていけば、無表情筋肉は青筋を立て、ニコニコ魔人はきゃーと両手で顔を押さえた。
 なんだよ。

「ちょ、なんつー格好してんだコラ!外套がいとう取って来、……来てください!」

「外套?」

 無表情筋肉くんは眉間に皺を寄せているし、ニコニコ魔人は顔面を両手で隠していて口をぱくぱくさせている。
 なんとかこぼれ出てきた声は、「う、上着ですよ~! なにか羽織れそうなものあったでしょう? 取ってきてください~!」と、転げるような速度で駆け抜けていく。


「え……これ、このままじゃダメなの?」
「「ダメです」」
「……」


 仕方なく、白い大きめのポンチョのような上着を被って2人の前に立てば、一応合格ラインをもらった。どうやら生足や腕など肌を出しすぎてはいけないらしい。

 日本の感覚では駄目なんだな。
 ちろりと自分の外套の中の自分の服を覗くと、別に問題ないかと思うんだけど……。

「肌の露出は極力お控えください」
「そうそう。駄目なんですよ、聖女様。肌は見せてはいけないんです」

「聖女だからってこと?」
「……そうじゃないです。女性は、皆いけません」
 無表情筋肉は、はぁ、と嫌みたらしくため息をついて片手で額を押さえた。
 見たことあるぞ、そのポーズ。
 上司が聞き分けのない部下を当たり障りない言葉で嗜める時よくやってた。
 っておい。

「……ふぅん」

「聖女様の身を守るためですよ」

 正直スムーズには納得は行かないが、郷に入ったら郷に従わなくてはならないのは世の常である。
 そして若返ったとはいえ私も大人で常識人。それなりに海外へも行ったし、部署異動も経験した。その理屈はわかっているつもりだ。こんな事で腹を立てたりはしない。
 
 いつかこの2人の前で変態よろしく水着一丁で襲撃かましてやるという事で手を打った。
 待ってろよ。


「2人の巨人に囲まれた私……なんか犯罪者みたいよね」
「……やめてくださいよ、仮にも聖女様でしょう」
「ニコニコ魔人……」
「えっ僕名前言いましたよね? 泣いちゃいますよ!? アーチです!」

 わっと食いかかってきたニコニコ魔人、いや、アーチはその大きな体をぐてんと悲しげに崩すと、不貞腐れたように下唇をツンと突き出していた。

 そして、無表情筋肉をじっと見つめる。

「おい、まさか俺の名前も……!?」
「無表情筋肉……」
「ランティスだ……」

 青筋を立てたランティスも、無表情を貫いていたが、はぁ、とため息を吐くと「さっさと行きましょう」と本当にさっさと歩き始めた。
 

「はぁ、本当にこの人聖女様なのか?聖女様ってみんなこんな感じなのか?」
「う~ん、どうなんですかねぇ~。僕はチラッとしか会ったことないけど、先に来た聖女様の方が、うーん扱いにくいって言えば良いのかなぁ」

 アーチがうーんと顎に手を置いて首を捻る。

 ——んん?


「ちょっと待ってね。私が扱いやすいみたいに言わないでくれます?」

「いやぁ、だって僕が近くに居るってわかって急に池に飛び込んだんですよ?同郷なんですよね、なんて言ったかわかりますか?」

「さ、さぁ」

 いくら同郷といえど、人を見て突然池に飛び込む気持ちは分からないぞ。

「何も言わなかったんですよ。怖くないですか?」
「何そのホラー……夢でも見たの?」
「いやいやいやいや。ランティスも居ましたって!それで浅い池の中ジーとこっちを見て立ち尽くすんですよ。一応「大丈夫ですか?」って言いましたよ。でも」

「でも?」

「知ってる言葉じゃない! って怒られましたよ……それで先に来た聖女様の護衛達がやって来てすごく怒ってる彼女を抱えてどこかに行ったんです」

「罰として護衛にはしてやらないって言ってなかったか?」

「言ってたね~」

「うわ、それ聞いたら何も言えないわ……お疲れ… 」


 あまりにも項垂れるアーチの背をよしよしと撫でてやれば、「なので、変なのは違いないですけど、まだ聖女様の方が良いです!」

 元気よく、まるで懐き始めたワンコのように撫でてーとアピールしてくるアーチはめちゃくちゃ素直だった。

「ちょっと私にもその先に来た聖女の気持ちはわからないわ……できれば会いたくない」

「今から会いますけど」

「げ、そうだった……」

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】伯爵令嬢は悪魔を篭絡する

真守 輪
恋愛
修道士ベルゼに鍾愛され、修道院で育てられたリアは、成人すると政略結婚のため伯爵家に連れ戻される。 リアの婚約者である公爵は性病持ちで継母との不倫している。同性愛嗜好の女性家庭教師によるセクハラ。無関心な父。リアは自分の不遇をベルゼに訴えるのだが、父である伯爵は娘と修道士の関係を危惧する。 結婚式の一週間前。リアの食卓にはベルゼの身体の一部が饗応された。 ※中世のフランスで起こった事件を題材にしていますが、登場人物、場所、宗教など内容はすべて架空のものです※

ドSな師匠と指輪と私

饕餮
恋愛
都会で働いていた私は色々あってそこを辞め、再出発するつもりで地元に戻ってきた。  途中入社だけど、地元にもある業務用食品を扱う会社の倉庫に就職する事ができた。27にもなるのにバイトなのは情けないけど、社員は男性しか募集してなかったから仕方ないし、バイトでも仕事をさせてもらえるだけ有難いと思う。  アットホームな人達にホッとしたのはいいんだけど……なんか、変な人達がいませんか?! ボケまくる人達に、初日から素が出てしまった私は悪くないはず! そこで素敵な人にも出会ったけど、彼は左の薬指に指輪をしている人だった。でも、惹かれて行く気持ちは止められなくて……。すごく優しい人なのに、そんな彼は私に対してだけ鬼畜ドSな人だった! 「あ~、園部さん、ちみっちゃいもんな~」 「誰が名前と一緒で雀みたいにチビですかっ! 私より他の人が大きいんですってば!」 そんな突っ込み体質な園部 雀(27)と、鬼畜ドSな寺坂 良裕(32)のお話。 ★サブタイの後ろにある★は寺坂視点です。 ★ この物語はフィクションです。実在の人物及び団体等とは一切関係ありません。

結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ
キャラ文芸
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。 仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。 本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは? ※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。  主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。 ※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。 ※番外編を随時更新中。

愛人になってくれますか?

アキナヌカ
恋愛
私、ラントール・ヴィーゼ・ウェントゥス公爵はある日、とても可愛らしい少年ルカを手に入れた。あんまり可愛かったので私はその少年に愛人になってくれますかと何度も聞いた。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

処理中です...