上 下
19 / 46
本編

さかなはとのさまにやかせよってやつ

しおりを挟む
 


 まるで天気がどんどん悪くなっていくような、気分の悪さ、重さを感じる。

 身体にあるのはただの痣であるのに、目が離せない。

 魔女、魔女。

 魔女の呪い。

 
 この単語が引っかかっているのに、その先が出てこない。思考が止まり、空回りする。
 この状況はなんだったか。
 まるでアルコールが入った時。
 
 何か魔法にかかってしまった様な、錯乱状態に入った様な、そんな感覚。

 トンと肩に手がかかり、ハッとした。
 視線を上げると、ディオがにこりと微笑んでいる顔が目の前にあった。思っていたよりも近づいていた事に驚いて即座に距離を取った。

 青くなっているのか赤くなっているのかわからないが、普段こんなに男性と近づくなんて事はしない。父親とももうこの歳になってハグもしなければ体が触れそうなほど近付くなんて事は無くなっている。
 思い出そうとしても鮮明には思い出せず、朧げな幼少期、そう、4歳や5歳の頃の記憶くらいでしかこんなに近寄った記憶はない。
 近所の友達とふざけ合ってもみくちゃに転げ回り遊んでいた頃の記憶がおそらく最後だ。それもまた、確かそんな事もあった様ななかった様な……くらいなものである。

 心臓が急激にバクバクと働いたので、多分私の顔は今両方の色をしている事だろう。混ざって紫にでもなっているかもしれない。

 そんな私を尻目に、ディオは涼しい顔である。
 こう言った戯れは日常茶飯事なのかもしれない。最初こそ機嫌も態度も悪かったが、ニコニコしていれば相当モテそうだ。


「はい! という事で、一発よろしく!」
「言い方! 言い方!」

 両手を広げたディオが満面の笑みでそう言ったので、うっかり動揺して目潰しの魔法を放ってしまった。


「ぶはっ」
「あっ! ご、ごめん」

 ディオの顔面に降りかかったのは、正式な魔法だと人体にさほど影響の出ない小麦粉の様なものがブワリと顔に向かって降りかかるというものだが、私が使うと、それはもうとても危ないものになる。

 そう。
 毒霧だ。

 うっかりで発動させる様な魔法じゃない事はわかっている。反省している。
 咄嗟に目潰しの魔法を発動させるなんて事今までないので、前科はないです。

「…………」

「ディ、ディオ……?」

 顔の周りに紫の汁をくっつけたまま、まるで石にでもなったかの様に立ち尽くし固まるディオを心配して、顔の前で手を一、二度振ってみるも以前様子は変わらない。
 一点を見つめたまま固まっていたディオの視線はようやく動き始めたと思うと、ディオ自身のお腹に視線が泳いでいく。そして忙しなくお腹、胸へと視線が動いた。
 私もそんな彼の様子に釣られて黒く、渦巻く胸元に目がいく。
 魔女の呪いがおどろおどろしくそこにある。
 
「お! お?」

 突如声を発したディオに驚き、思わずディオの顔を見れば、目を大きく瞬かせ、ぱぁ、と輝くような笑顔を見せた。

 とても毒霧を顔面に浴びせられてする様な笑顔ではない。

「見た?」

「んん? 見た……って何を……?」

「呪いだよ。魔女の呪い。ほら、よく見て」

「ええ……」

 ここだよここ、と指さされた場所を見れば、魔女の呪いだという黒い痣、胸の真ん中で渦を巻いていた場所が、ズルズル、ズズズと音を立てて広がっていた。

黒い痣の真ん中に、健康的な肌色がポカンと現れたのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

処理中です...