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本編

計画はお大事に!

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カンカン、カンカン

「ベリル、そろそろ昼食の時間にしようか」

「はい。旦那様」

 ふう、とおでこの汗を拭うと濃い泥と土の匂いがふわりと漂う。

 顔に泥がついたのかもしれない。

 今更そんなこと構いやしないので、腰に巻いたエプロンの端で拭う。

 夢中で作業していたので全く時間を気にしていなかった。
 どうやらかなり時間が過ぎてしまっていたようだ。いけないいけない。私はどうも集中すると時間を忘れてしまうところがあるようだ。

 本日精霊に許され導かれ掘り起こした宝石を、泥を落として洞窟の中心にある噴水にそっと落とした。

 ころんと落ちた宝石は水の中でゆっくり水底に転がり落ち、水に反射してキラキラと輝いている。

 この発掘作業の後に待っている工程は、磨いた宝石を種類別に分けて分類し、箱に入れていく。

「ベリルが居てくれるおかげですごくスムーズに作業が進むよ、ありがとう」

「いいえ。とんでもありません。私は店でもこうやって作業をしていたので、同じことですよ。むしろ今までが少しざっくりしすぎていたのです。これではあっという間に買い叩かれてしまいますよ」

「いや、本当に。ベリルが頭が良くて助かったよ」

 その時にどれがどのサイズか、何個あるのかを記帳して紙と宝石を一緒に袋に詰めるようにしたのだ。

 簡単な設計図と石の状態、重さやサイズを書いているだけなのだが、これを今までやっていなかったというので驚いて自分がやると申し出てしまったのだ。これではあまりにも儲けがない。まず市場に出す前に加工を施すのだが、ここでの調査費もかなり相場よりも高いし、そこから卸業者に販売するときも、かなり安く売っているようだ。

 前領主様、つまり旦那様のお父様は買い叩かれていたということだ。もしくは市場の価格が変動していることに気が付かずにいた、ということも考えられる。

 宝石の種類や、状態にも個体差もある。
 加工のしやすさや、しにくさによっても価格は変わるし、希少なものは確保して、しかるべき時に王家に売り込む事もできる。

 少し状況を聞いただけでも色々と手を入れるところがありそうだ。


「……情けない限りだよ。僕はあまりに知らない事だらけなんだな。親や祖父のやり方をそのまま引き継いできただけだったのがよくなかった……君のおかげで領地の道の整備もできる」

「はい。それはよかったです! 私も大好きな宝石を調べられて嬉しいです」 

 そう、このお屋敷にある書庫は宝石に関するレポートや図鑑、手書きの書物が大量に保管されていたのだ。しかも現物も一緒に!

 それはもう見るだけで美しく、案内された日は時間が過ぎるのも忘れて長い時間入り浸ってしまった程だ。
 
 
 私が旦那様の秘密を知ってもう1ヶ月が過ぎていた。
 旦那様というか、この屋敷の。

 この強引な婚姻の原因になったのはこの屋敷の本当の主である精霊にあった。

 ある日旦那様に教えていただいた話はこうだった。

 前領主が妻を迎えて、旦那様がお生まれになった。しかし旦那様が17歳になられた頃、旦那様と奥様は不幸な事故によりお亡くなりになられたという。

 まだ旦那様は家業については未熟で、どうやら取引も相手の言うままにやらざるを得ない状態だったそうだ。

 旦那様のお父様が「使用人を増やし過ぎてはいけない」「家業を家族以外には言ってはならない」「街に出かけることを辞めてはいけない」「夜会には行かなくてはならない」と常におっしゃていたという。

 それに習おうとしたが、旦那様は1人だったので、家業の作業だけで相当に忙殺されていたようだった。

「今思えば、精霊たちに心配されていたのだろうな……精霊が嫁を連れて来なければ宝石を出さぬと交渉を持ち出してきたんだ」

「まぁ、それで」

「失礼な話だったと反省しているよ。家業が無くなればこの領地の価値は無くなってしまう。それに……ベリルが来た事に精霊達は喜んでいたけれど、実際は君を傷つけてたから」

「いいえ、旦那様。お役に立てて嬉しいんです、私。今までそれほど必要とされたことなんて無かったから」

「そんな、しかし……いや、精霊達には感謝しなくては……結果的に、という話にはなるが、君と巡り合わせてくれたのだから」

「旦那様、私、とってもいい妻役兼、従業員になって見せます!」

「あ、いや、そ……そうだねありがとう」

「いいえ、私は大好きな仕事もできているのでとっても嬉しいのです!」

「ははは、では、夫婦というよりも友人やパートナーと言う方が良いかな?」

「友人、ですか?」

「僕もこの領地を愛しているんだ。このような神秘に満ち溢れた領地はなかなか無い。そこを守る戦友、と言ったとこだろうか……?」

「ふふ、その通りですね。私もこの場所が大好きになれそうなのです」

「きっと良き友人になれるよ」

「はい」


 旦那様が嬉しそうに微笑むので、私もなんだか嬉しくなってふふふ、と笑いが溢れた。

 良い友人。

 その良い響きに、心がまたほわりほわりと浮ついた気持ちになっていく。


 精霊様には感謝しなくては行けない。

 私はまだこのお屋敷に来てから少ししか経ってはいないが、随分とここが好きになっているようだ。



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