上 下
45 / 65

王者と野獣

しおりを挟む
こいつ…
どうにか体勢を立て直す雅治。
そこへ、この絶対王者をして反応し損ねるほどの超突進。
大気を割く音。
右フックでも、鉤突きでもない。
ただ腕力任せに振り回しただけ。
それがガードがやっとの超スピード!?
「ぐおお!?」
全身に伝わる衝撃!!
こいつは…。
「神崎高志」はそれを起点に猛ラッシュに移る。
その動作は、空手でもキックでもない、メチャクチャに手足を叩きつけるだけ。
出所不明の身体能力でのゴリ押し。
まるで獣…野獣…。

リング脇ではさくらが青ざめる。
「凄い…凄いんだけど…」
「ああ、あれは…高志であって高志じゃねえ。」
だいいちあれは、人間の目じゃねえ。
ヒデ…芦屋が横を見ると、ウィリーが何やら祈りを捧げていた。

『何が起こってるぅー!?神崎高志ここに来て謎の猛ラッシュ!!動きが見えない程のスピード!!あのHALが防戦一方!』
「おいおいおいマジかよ。」
「は、HALー!しっかりー!」
「初めてじゃないかこんなの!」
「だ、大丈夫だ、あの神崎の、ローソクが消える前の何とやら(震え声)」
しかし実際には、野獣のラッシュはますます加速していく。
断続的にそれが雅治の顔に、ボディに、芯は外れるものの当たる頻度が上がってくる。
しかも掠める程度でも衝撃や出血…。
「ハルさん手を出して!」
「脚でかき回して!」
セコンドの後輩達の悲鳴にも近い声。
心配をかけるな。お前ら。
だが、俺は「これ」を知っている。
なにしろ。
俺も「あの時」こうなったのだから!
奴が再び、フック擬き。
そこにカウンターのマッハ蹴り!!
神崎はぐらつ…かない!?
再びの突進を、一旦前蹴りでストッピング。
そこへ!速度キレ威力十二分の右フック!!
『うおおお!やはり王者HAL!神崎、謎の暴走状態をして尚!攻撃が届かなくなった!』
「そのままいけえー!!」
「イッちゃってえ!」
「ざまあクソガキが、何してもHALには勝てねえんだよ!」

グオアアアアアアア!!!
俊敏な肉食獣の様に、雅治に飛びかかる神崎高志。
高志本来の、と言うより下手すると人間の跳躍能力をすら上回って…。
だが雅治は、上空からの急降下爆撃にも沈着であった。
マッハ蹴り…かと思いきや、単純に右脚を最速で、自らの顔面に密着するまで蹴り上げる。
そしてその脚を切り返し、蹴り落とす。

ネリチャギ…

誰かが呟いた。
リングに叩きつけられた高志…いや、「神崎高志の肉体に憑いた何か。」は断続的に血を吐きつつのたうちまわる。
「何という男だHAL…有明雅治は。獣化暴走でヒトを超えた力をも寄せ付けないとは。」
ウィリーが呻く。
「このままじゃ高志さんが…」
半ば涙声となる、牧野さくら。

『おおお、それでも立ち上がった神崎!
絶対王者HALを必ず斃すという執念かぁ!!!』
「そいつ」は既に崩壊しかけている神崎高志の五体に、より一層の赤黒い殺意を送り込む。
「もうやめろ!」
意識の片隅に残った高志本来の自我が、必死にそいつを抑え込みにかかる。
(何故止める!?勝ちたいのだろう、あの男を殺したいのだろう。
あと少し波動で肉体を加速すればそれに至る。
勝てば成功も栄光も思いのまま…)
「違う!
それでは意味がない!
お前に『お前達に』そんなものを与えられても、俺に託してくれた日本の皆さんの為にはならない。」
そう内奥で、争っている間にも、肉体としての神崎高志は、凶猛さを増し、再び雅治へ向けラッシュ。だが雅治も撃ち返す事をやめない。
観客のボルテージは更に増す。

「お前に、お前達に、俺の自我も、日本国も渡さない!!!
いい加減にしやがれえ!!!」
高志は脳内における「奴」に全力の拳を浴びせる。
ぷつん、と何かが切れる音…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの
ファンタジー
毎日更新! 葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。 職業 : 引きこもりニート。 親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。 異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。 しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。 だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。 そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い―― 果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。 サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

処理中です...