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追及の手

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あの「暴走死亡事故」の「上級国民」元被告、惨殺される!!
一時間経たないうちに、その衝撃はネットと地上波を席巻した。

「してやられましたね。」
豊橋署内 警視庁副捜査本部。
管理官馬場は苦虫を噛み潰した。
「もちろん本庁の方では、都内潜伏を第一の想定として動いています。
こちらはこちらで、被疑者少年Aこと神崎高志の、学校を中心とした背後関係等に関し、再度洗い直します。
それから…後から合流してまだ見ていない捜査官達の為に…。」
馬場はスクリーンを切り替えた。
メール文章のスクリーンショットである。
「今朝、本庁に送られて来たものです。ご丁寧に自分自身のフリーメールアカウントから…」

『警察関係者各位様。
私が神崎高志です。
すでにお気付きとは思いますが、福井隆之を殺害したのは私です。
これは私自身が恐喝され、暴行も受け、大金を要求され実際家を荒らされ家族の大切な定期預金を奪われたことに関する個人的な怒りによるものです。
福井が以前から性的なものも含む様々な犯罪行為を行なっていた件は確かに噂で知っていましたが、それらはあくまで無関係。
私は個人的怒りで福井を殺害しました。

それと、職務上私を皆様が全力で捕まえようとなさることは致し方ありませんが、私個人は特に現場で危険を冒し市民を守ろうとする警察官の皆様を、なるべく傷つけたくない。 
と言う考えでおります。
いずれ「正義」「この国を守る」と言う共通項によって、警察の皆様とは共闘したいのが私の本音です。』

なんだよ正義のヒーロー気取りかよ、と言う失笑混じりの声が聞こえる。
「しかし、みすみすあの、井伊氏殺害を許してしまったことは事実です」
言外に、東京の総本部のせいだと明らかに伝わる形で馬場は言った。
「ネットでは案の定、被疑者少年がヒーロー扱い、いわゆる祭り状態ですな。」
「そんなことは関係ない。」
馬場はぴしゃりと言った。
「こちらは粛々と捜査網を張り巡らし、被疑者確保するまでです。
ネット世論など無責任に暴走してなんぼの世界。
そんなものは法律の前では無意味無力と知らしめるのが我々の仕事です。
取り急ぎここでやるべきことは、繰り返しての通り、少年のバックグラウンドの洗い直しです。
進捗は。」
一人の捜査官が発言。
「まず被疑者少年ですが…担任や2.3名の生徒に聞いたところ、そもそも少年は運動部経験などなく、体育の成績も2かお情けで3。
とても喧嘩で相手を叩きのめすと言う人物でもなく、故に執拗なイジメに遭っていたようですね」
「だが、状況証拠的には、19歳少年もその取り巻きも、井伊氏を害したのも被疑者少年です。
ひ弱だ、そんなこと出来るわけない。そう言う先入観は捨てることです。
田島君…。」
「はっ。近辺の武道、格闘技ジム、道場を洗いましたが、被疑者が所属した形跡はありませんでした。
そして被疑者も両親も、17年間豊橋住まいであることは確定しています。
ただ…。」
??
「5年前まで空手道場、"だった"ところなら1箇所…」
「それです!」
馬場は愛用の万年筆を突き出す。
「現在はNPO法人、いわゆるDVシェルターを運営しています。
ただ、先刻聴取した際、ここに居た女性メンバー3人は、全く以前の道場とは無関係とはっきりしております。」
「なるほど…念の為、そこのNPO法人を今少し精査して見て下さい。」
「かしこまりました。」

その時、廊下から耳障りな騒音。
「やめてください、いくら福井様でもこれ以上は!」
「うるさいっ!私を誰だと思っている!」
捜査本部にスーツ姿の、50歳前後の男性がずかずかと入って来た。
警視庁のキャリア組を前にしても尊大な態度を崩さない。
「…福井様、現在、息子さんを殺害した被疑者は鋭意捜索中でありますので。」
眉一つ動かさず、馬場は応じたが、福井は引かなかった。
「黙れ黙れ、お前らが使えないから来てるんだろうが!
何が被疑者だ、少年だ。私の息子の命の価値は…どれほど…そいつを100回殺しても償えんわ!
少年法など知るか!奴の実名と顔写真晒して公開捜査させろ!
奴が東京の人波に紛れ込んで、それさえやらずに捕まえられると思っとるのかヴァーカ!!」
確かに一理あるな。
所轄の山下警部は苦笑した。

一方…
確かに「そいつ」神崎高志は東京に居た。
ただし、町田駅周辺である。
(都心部遠く離れても…やっぱ豊橋なんかとはそりゃ違うよな)
喧騒ぶりに高志は内心苦笑した。
さて今夜の泊まりは…その前になにか…
!?

「ねーねー今暇ぁ?」
スカートの丈をこれでもかと短くした女子高生?が、そこに立っていた。
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