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その日の鍛錬が終わる…。
「高志よ。」
「はいっ。」
「明日…早朝6時。立ち会いましょう。」
身体に電流が走る。
「あ…は、はいっ!!」
多くを語らずとも、その言葉の意味する事は理解できた。
その後は両者無言のまま、食事をかきこみ、やがて床につく。
薄暗い中天井を見上げながら、高志は大きく息をついた。
「怖い?」
何も話していないが、さくらはそういった。
「う、うーん」
明日もたらされる状況、それに頭のみならず身体が反応し、微かな震えを自覚する高志。
「素直に吐き出していいよ」
「こわいよ…」
そう吐露した高志を、ぎゅうとさくらは抱き締めた。
夜が白み始める頃。
普段の3分の1程度の朝食にとどめ、高志は5時40分頃から特殊錬成のメニュー等を組み合わせ、考えつく限りのウォームアップに取り組む。
そして…もう姿を見る前に雰囲気で感じてしまう。
道着姿の東郷日出夫先生。
互いに一礼。
一呼吸遅れ、さくらも道着姿で…見届け人としてか。
後は言葉は無くとも分かる。
先生は、今日こそ全力で来る。
つまり、直撃は…死…。
怖れるな!それこそ死に直結…。
高志がそう言い聞かせ、腹に落とし込んだ瞬間。
「始めっ!」
凛としたさくらの声。
次の瞬間!
消えた!?
先生g…
左耳元に金属音。
壁の寸前で、先生は前蹴りを止める。
高志はまさに戦慄した。
拳足が、ではなく、全身の動きそのものが見えない…ッ反応しろすぐ来るッ!
またも金属音、たまらず高志は横っ飛びして、床を転がる。少しでも距離を取って…。
右貫手か…。
ようやく左頬と右肩上部の皮膚から出血してるのが自覚出来たが、瞬時に意識から外し立ち上がる。
「次は外さん。」
先生の声が閻魔の宣告となって響く。
圧倒的に高志の心臓を鷲掴みにする、
死。
どんなに梅沢や平瀬達に殴られても、そんなものは感じたことは無かった。
所詮僕は令和の平和ボケした世の、その中でも弱者。
もう数秒、いや1秒もしない間にそれは迫っている。
高志は自覚しようもないことであったが、この時彼は生死の極限に置かれた人間に稀に起こる、ある現象下にあった。
外側の物理現象も、内面の思考も、全てがスローモーションとなる。
考えろ!
先生は全身を前傾させ、爆速で間合いを詰める。
繰り出す技は分からない。
だが被弾までコンマ数秒とかからない、考えろ、シンプルに今一番頼れる、強力な技を!最大出力で!
…正中線…アクセル筋…完全脱力…
超運動連鎖…
これを!!
何かが高志の中で光った。
パァン!
道場のガラスが震える。
焦げ臭い。
肉の感触。めり込んでいた。
僕の拳が、東郷先生の左肩と胸の継ぎ目に…!
「迫真空手、神崎流、奥義、"紫電"」
一本!
さくらの叫びと同時に、東郷は膝を付く。
「あ、ああっ、大丈夫ですか先生!?」
我に帰り顔を覗き込む高志に、15秒のタイムラグの後、東郷先生は声を絞り出した。
「見事なり…それで良い。私が与えた断片的なヒントを頼りに、自らの拳の奥義、その入り口に辿り付いた。
よくぞこの短期間でだ。
ただの怒り憎しみ任せではない…自ら本質を見抜き、生命の危機にけして諦めず、瞬時に演算し、最適解を出す。
自身では今まで気が付かなかったであろうが、それが君の強さだ。
今後もそれを胸に研鑽しなさい。
得た力を君が何に用いるか、何のために戦うかは君次第であるがな…。」
高志は何度も、全力で頷いた。
午前7時過ぎ、荷物をまとめた高志は、東郷とさくらに深々と頭を下げた。
「本当に…本当にありがとうございました。」
「ふん、礼ならばまずはあの連中をどうにかしてからにしなさい。」
東郷先生は、高志に撃ち込まれた箇所に包帯を巻いていた。
流石にこの後は病院に行くとは言うが…少なくとも鎖骨は折れていると言うのに、この御歳で、呆れたタフネスである。
さくらの前に立つ高志。
「あの…その…なんか色々と、ありがとう…」
さくらは返事の代わりに頬にキスをくれた。
「ありがとうございました。
では。神崎高志、行って参ります!」
門の外へと出る高志。
果たして1週間前初めてここをくぐった時と、どれだけ変貌することが出来たのだろう。
「行ってしまいましたね、彼…」
手を振り終え、さくらは東郷にそう言った。
「うむ。後は全てが当人次第です。」
「才能や体格に恵まれた人は沢山見てきましたけど…。
あれほど強い気持ちで、力を求めてる子は初めてかも…」
「それもありますね。
だが、驚いたのは、あの時の最後の一撃を、私に7
割がた直撃させた事だ。
私は確かに読み切り、受け流した筈だった…」
えっ!?と、さくらは東郷に向き直る
「つまりは、彼は、あの窮地から、防御も回避も不可能な、究極の打撃。
その入り口となる一撃を放ったことになる。」
「そ、それじゃ…」
「神崎高志、彼は『竜の器』かも知れない。」
こうも楽しみが増えてはまだしばらくは死ねんなと、老人は呵呵と笑った。
「高志よ。」
「はいっ。」
「明日…早朝6時。立ち会いましょう。」
身体に電流が走る。
「あ…は、はいっ!!」
多くを語らずとも、その言葉の意味する事は理解できた。
その後は両者無言のまま、食事をかきこみ、やがて床につく。
薄暗い中天井を見上げながら、高志は大きく息をついた。
「怖い?」
何も話していないが、さくらはそういった。
「う、うーん」
明日もたらされる状況、それに頭のみならず身体が反応し、微かな震えを自覚する高志。
「素直に吐き出していいよ」
「こわいよ…」
そう吐露した高志を、ぎゅうとさくらは抱き締めた。
夜が白み始める頃。
普段の3分の1程度の朝食にとどめ、高志は5時40分頃から特殊錬成のメニュー等を組み合わせ、考えつく限りのウォームアップに取り組む。
そして…もう姿を見る前に雰囲気で感じてしまう。
道着姿の東郷日出夫先生。
互いに一礼。
一呼吸遅れ、さくらも道着姿で…見届け人としてか。
後は言葉は無くとも分かる。
先生は、今日こそ全力で来る。
つまり、直撃は…死…。
怖れるな!それこそ死に直結…。
高志がそう言い聞かせ、腹に落とし込んだ瞬間。
「始めっ!」
凛としたさくらの声。
次の瞬間!
消えた!?
先生g…
左耳元に金属音。
壁の寸前で、先生は前蹴りを止める。
高志はまさに戦慄した。
拳足が、ではなく、全身の動きそのものが見えない…ッ反応しろすぐ来るッ!
またも金属音、たまらず高志は横っ飛びして、床を転がる。少しでも距離を取って…。
右貫手か…。
ようやく左頬と右肩上部の皮膚から出血してるのが自覚出来たが、瞬時に意識から外し立ち上がる。
「次は外さん。」
先生の声が閻魔の宣告となって響く。
圧倒的に高志の心臓を鷲掴みにする、
死。
どんなに梅沢や平瀬達に殴られても、そんなものは感じたことは無かった。
所詮僕は令和の平和ボケした世の、その中でも弱者。
もう数秒、いや1秒もしない間にそれは迫っている。
高志は自覚しようもないことであったが、この時彼は生死の極限に置かれた人間に稀に起こる、ある現象下にあった。
外側の物理現象も、内面の思考も、全てがスローモーションとなる。
考えろ!
先生は全身を前傾させ、爆速で間合いを詰める。
繰り出す技は分からない。
だが被弾までコンマ数秒とかからない、考えろ、シンプルに今一番頼れる、強力な技を!最大出力で!
…正中線…アクセル筋…完全脱力…
超運動連鎖…
これを!!
何かが高志の中で光った。
パァン!
道場のガラスが震える。
焦げ臭い。
肉の感触。めり込んでいた。
僕の拳が、東郷先生の左肩と胸の継ぎ目に…!
「迫真空手、神崎流、奥義、"紫電"」
一本!
さくらの叫びと同時に、東郷は膝を付く。
「あ、ああっ、大丈夫ですか先生!?」
我に帰り顔を覗き込む高志に、15秒のタイムラグの後、東郷先生は声を絞り出した。
「見事なり…それで良い。私が与えた断片的なヒントを頼りに、自らの拳の奥義、その入り口に辿り付いた。
よくぞこの短期間でだ。
ただの怒り憎しみ任せではない…自ら本質を見抜き、生命の危機にけして諦めず、瞬時に演算し、最適解を出す。
自身では今まで気が付かなかったであろうが、それが君の強さだ。
今後もそれを胸に研鑽しなさい。
得た力を君が何に用いるか、何のために戦うかは君次第であるがな…。」
高志は何度も、全力で頷いた。
午前7時過ぎ、荷物をまとめた高志は、東郷とさくらに深々と頭を下げた。
「本当に…本当にありがとうございました。」
「ふん、礼ならばまずはあの連中をどうにかしてからにしなさい。」
東郷先生は、高志に撃ち込まれた箇所に包帯を巻いていた。
流石にこの後は病院に行くとは言うが…少なくとも鎖骨は折れていると言うのに、この御歳で、呆れたタフネスである。
さくらの前に立つ高志。
「あの…その…なんか色々と、ありがとう…」
さくらは返事の代わりに頬にキスをくれた。
「ありがとうございました。
では。神崎高志、行って参ります!」
門の外へと出る高志。
果たして1週間前初めてここをくぐった時と、どれだけ変貌することが出来たのだろう。
「行ってしまいましたね、彼…」
手を振り終え、さくらは東郷にそう言った。
「うむ。後は全てが当人次第です。」
「才能や体格に恵まれた人は沢山見てきましたけど…。
あれほど強い気持ちで、力を求めてる子は初めてかも…」
「それもありますね。
だが、驚いたのは、あの時の最後の一撃を、私に7
割がた直撃させた事だ。
私は確かに読み切り、受け流した筈だった…」
えっ!?と、さくらは東郷に向き直る
「つまりは、彼は、あの窮地から、防御も回避も不可能な、究極の打撃。
その入り口となる一撃を放ったことになる。」
「そ、それじゃ…」
「神崎高志、彼は『竜の器』かも知れない。」
こうも楽しみが増えてはまだしばらくは死ねんなと、老人は呵呵と笑った。
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