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究極の部位鍛錬

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中は、何か懐かしい木の匂い。
学校の武道場(当然、そういった所にいい思い出などない)に構造的には似ているが、醸し出す雰囲気は明らかに異質だった。
「では高志。早速初めましょうか。」
「は…お、押忍。」
確かこういうところではそう答えるんだよな。
「ふ…別に普通にはい、でよろしい。
まっとうな日本人としての礼節ができておれば、返事の仕方にまでうるさくは言わない。
それより、取り敢えず荷物はそこに置いて、早速叩いてもらいましょうか。」
「は、はい。」
た、叩く?何を??
ふっと視線を正面に向けると、冷蔵庫位の大きさの、大きな塊が目の前に。
なんだこれは…。思わず手を伸ばす。
冷たくて…硬い。
もしかして…鉄…の塊…!?
「叩きなさい」
え!?
鉄の塊をまともに叩いたら、下手したら骨が…まして自分なんかの…
ごつん。
考えを巡らす前に、手が出ていた。右の拳が。
能動的に何かを殴るって…多分生まれて初めて…
そして左…
そう、僕が思考より身体を優先させるなんて…これも…
それだけこの老人…東郷日出夫…先生の穏やかな言葉に、有無を言わせぬ重量感があった。

当然、痛い。
でも叩けと言われたのだから叩き続けるしかない。
パンチ?正拳突き?とにかく型とかフォームとかもわかるはずがない。
高志の興味のあるジャンルは肉体を動かし鍛えるものとは程遠く、異世界ファンタジー、そうでなければ歴史や軍事にまつわることでしかない。

高志はとにかく叩く。もちろん間違っても骨など折らないように、ぎりぎりセーブした力で、左右に拳を繰り出す。
それでも痛いのは痛い。当たり前だ。拳に限らず、これまでの人生強制されない限りは、(その理不尽な強制そのものへの内心での反発もあって)自発的に自分を追い込むことからはとにかく逃げまくってきたのだ。
叩くこと数十回、流石に痛みが限界点に達しつつあった、その時。
「なにをしている?」
東郷…先生の、ドスの効いたなどという表現が安っぽくなるくらいのズシリとした声。
「は、はい、た、叩いてます。」
息を切らしつつ、高志は答えた。
…急激な運動とは別の理由で、鼓動が早くなる。
「鉄塊というのは叩くものだ」

…!
これだけ痛い思いをして、叩いていないと言うことか。

「えっ…あっ…その…」
「叩きなさい!叩け!!身体で教えねばわからんかっ!!」
高志の血肉が、全細胞がと言っても過言では無い、瞬時に奮い立つ。
いえやあああっ!
まさに全力で、高志は右を叩き込む。
異音と激痛。

折れ…

痛覚と激痛を大脳で感じる前に、左を繰り出す!
こちらも…しかし止めない。止めない。
先生の言葉が…。
僕の初めて抱いたあの殺意を更に燃え上がらせた。

そう。

あいつらを。
そしてあいつを。

僕を毎日踏み躙り。
そして僕が想いを寄せていたあの子のお姉さんを…

必ずブチ殺す!!

もうとっくに左右拳は砕けているが、もはや意識の隅。
自身でも名状しがたい狂熱。
もちろん先生の熱量と体積のある言葉もある。
しかし高志自身が虐げられているうちに溜め込みに溜め込んでいた無意識の怒りと憎悪。
それらが肉体と精神を衝き動かし、鉄塊に全てを叩きこませる。

…次は蹴りだ。

はいっ。

これまた無意識に、身体が動いていた。
とにかく蹴る。

「蹴りなさい!突きもだが、大地を、宇宙を丸ごと斬り裂き叩き潰す気魄でだ!」
は、はいいいっ!!!
あ、右脛が、折れた。多分。
いわゆる脳内麻薬が分泌されまくっているのかどうか、もはや痛みを感じない。
ただ、ひたすらに湧き上がる怒りのみ。
絶対に赦さない。
あいつら全員…特にあの野郎は!!
この拳と蹴りで、全てをぶち砕いてやる!!

どのくらい、時間が経ったであろうか。
「やめ!やめだ!聞こえないか!?」
東郷に腕を掴まれ、ようやく我に還る高志。
数日前の彼からは想像もつかぬ禍々しい光が、その瞳には宿り…。
かすかに、東郷の口元が緩む。
「ふふふ、まぁ、全くの素人で2時間半打ち続けた…ギリギリ合格点という所ですか。」
そんなに経っていたのか。
そもそもこの僕がそんなに激しい運動を…
そんな思考は脳の片隅ですぐ消える。
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