上 下
16 / 40

燕、天を裂く。そして新たなるDデイ

しおりを挟む
同日5時40分
フランス リール空軍基地

「ドーバー方面より敵爆撃機隊、多数接近中。」
「敵上陸部隊の支援空爆と推察さる!」
「JV777、邀撃せよ!」
「ブラウ1からゲルプ4、発進準備よろし!」
「ガーランド、了解!JV777全機発進せよ、繰り返す、全機発進せよ‼」
「了解!」
「血祭りに上げるぞ!出撃!」
メッサーシュミットMe262シュワルベの群れ、220機が、轟音とともに次々と地を蹴り天空へと舞い上がる。
空中総指揮を執るのは戦闘機総監と兼任でJV777司令を務めるアドルフ・ガーランドである.

「1時方向、敵ランカスター爆撃機群!周辺には護衛戦闘機P―51も認む!」
「敵戦闘機は今は無視だ!でかぶつ優先でやるぞ!全機ローラーコースター戦法だ!」
Me262の編隊は緩降下から一気に加速し、猛スピードで上昇しつつランカスターの下腹を突きあげる!
30㎜機関砲が吠え、ランカスターの翼をへし折り、あるいは胴体を砕いた。
「今度は急降下だ。スピードを落とすと食われるぞ。全機一気にターン!」
再度ランカスター群に食らいつく燕たち。
面白いように敵が墜ちていく。
「喰らえ!」
カティア・フォン・グリューネワルト少尉のMe262も、この日すでに3機撃墜をマークしていた。
「墜ちろ!」
さらに4機目のランカスターに、30㎜が叩き込まれる。
その直後。

異音とともに、左エンジンが黒煙を噴き始めた。
しまった…。
機速が一気に落ちる。
2機の敵P―51Dマスタングが、それに気づいて襲い掛かってきた。
復帰戦で…よりによって…エンジンがいかれるなんて…。
脱出の選択肢が頭をよぎった時、一機のマスタングが火を噴いた。もう一機も翼を撃ち抜かれぐらつく。
2機のFw190D―9(試作量産型)が援護に回ってくれたのだ。
「大丈夫か⁉基地まで護衛していく。」
「グラーフ大尉⁉ありがとうございます!」
「とっととエンジン直してまた上がってこい。敵はいくらでも押し寄せてくるぞ。」

上陸準備空爆に来襲したランカスター、B―17、1500機は、この日が本格デビュー戦となったMe262、Fw190D―9の迎撃を受け、850機以上を撃墜されることとなる。

そしてノルマンディー沿岸でも激闘が展開されようとしていた。

午前7時15分
どうにか艦砲射撃、空爆による支援体制を確立した連合軍は、海岸線を5つの管区に分け、それぞれに上陸を開始させた。
破壊し損ねた沿岸砲台等の砲撃により無視できぬ損害を出しながらも、上陸用舟艇の群れは海岸線に肉薄し、一斉に上陸部隊を吐き出す。
「ひるむな!」
「GO!GO‼GO‼」
「敵の火点を潰せ!」
「水陸両用戦車をまず前に出せ!橋頭堡を確保するッ!」
艦砲射撃にも、空爆にも潰されなかったドイツ側の火点から、猛烈な銃砲撃が加えられる。
まだ海水の中にいるうちから、バタバタと米英軍兵士が斃されていく。
ようやく水の中を脱した兵士や車両に、無数の地雷が牙を向く。
それでも突破した上陸軍兵士たちに、なんとドイツ軍Ⅳ号、Ⅴ号戦車の群れが襲い掛かる。
ロンメルが増設した掩体壕に艦砲射撃等を避けて、隠し持っていたのだ。
猛砲撃に水陸両用戦車が吹き飛ばされ、歩兵も薙ぎ払われていく。
沖合から艦砲を撃とうにも敵味方が入り乱れた状況ではどうにもならない。
さらには連合国側が制空権を握っているはずの空からHs129、Ju87等のドイツ軍爆撃機が大挙襲来し上陸部隊に猛空爆を加える。むろん連合軍側戦闘機に撃墜されるものも多かったが。

連合国上陸予想地点をノルマンディー一点に絞り、防御リソースを集中させた我が方の戦略が、見事的中してくれた。

「オマハビーチ、損害甚大!」
「ユタビーチ、水陸両用戦車全滅、援護を求む!」
「ゴールドビーチ、第47コマンド損耗7割…。」

…正午を過ぎても、どこの管区でも橋頭堡を確保できていない。連合国側にとって由々しき事態が現出しつつあった。
「司令官閣下、一度全面撤退し態勢を立て直された方が…味方の人的被害が増えすぎます。」
参謀の言葉にも、モントゴメリーは首を縦に振らなかった。
「この作戦は…単なる限られた地域、局面の一作戦とは訳が違う。我が国チャーチル首相、米国大統領、そしてスターリンがこの作戦の行く末に注視しておる。この戦争全体を揺るがすものであると…。

今更…。
敵の守りが固いから、被害が増えたからと引けるものではないッ…!
もし一時的にでも引いてしまったらば…。
私のクビ程度では済まない。
連合国の威信が地に墜ちることになるのだ…ッ。
控置してある後続の英第8~15師団、米11~22師団を投入する!
無論引き続き艦砲と空爆による支援は続ける!」

連合軍側呼称、ソードビーチ管区。

「糞っ、まだ来やがるのか…。」
守備陣地にいたドイツ兵の一人、シュターデンが呟く。
夕方5時を過ぎても、眼前の海を埋め尽くす上陸用舟艇の群れが途切れることが無い。
殺到してくる上陸軍兵士の群れも…。撃っても撃っても押し寄せてくる。
「ぐあああ!」
3つ隣の沿岸砲台が砲撃で吹き飛ばされた。
そろそろ限界か…!?
シュターデンの脳裏をそんな考えがよぎった時。
「ここは持たん!撤退する!殿は第2装甲師団が務める!」
自分より若い中尉が、裏返りかけた声でそう言った。
Ⅴ号戦車数両が、猛然と海岸線に向け突進し、砲を撃ちまくる。
「急げ急げ急げ!」
近くで響いた轟音に振り向くと、味方の戦車が吹き飛ばされていた。
「やばいやばいやばい!」
今度は艦砲か、さらに至近で爆音が響き、シュターデンは転びかける。
目の前を兵員輸送車が発進しようとしていた。
「待って、乗せてくれえ!」シュターデンが開きかけた後部扉に掴まる。
足がタラップにかかる。助かった…。
次の瞬間。
「どけえ一兵卒が!」
名前も知らない少尉?に押しのけられ、シュターデンは地べたに叩きつけられた。
走り去る輸送車。
「糞ッ、なにしやがる…同じドイツ人じゃねえか…。」
身体のそこかしこの打撲の痛みに耐え、シュターデンが身を起こしたとき、後頭部に冷たい銃口が突きつけられた。
瞬時にすべてを察し、両手を上げる。

捕虜…か…。

15日午後7時を過ぎ、連合国軍はようやく各管区で橋頭堡を築くことに成功する。
人的損害は、すでに戦死傷20万を超えていた。
途方もない犠牲に連合軍司令部は言葉を失ったが、それでも内陸部への侵攻作戦をやめるわけにはいかない。
ドイツ側の激しい抵抗を受けつつも、連合軍は最初の要衝カーンを目指して前進し続けた。

5月19日 カーンへの中継地ヴィレル・ボカージュへ差し掛かったイギリス第7機甲師団を、ドイツSS第101重戦車大隊第2中隊が迎撃することとなる。
それを率いるのは柏葉騎士鉄十字章の持ち主、ミハエル・ヴィットマンSS中尉である。
「連中、勝った気でいやがる」
相棒ヴォル軍曹の言葉にヴィットマンは獰猛な笑みで応えた。
「よろしい、ならば教育してやるか。」
…完全にこちら側の奇襲であった。
ティーガーⅠの8、8cm砲の咆哮に、英クロムウェル戦車が次々と撃破される。
わずか6両のティーガーⅠの襲撃に200両近い装甲車両を有していた英軍は大混乱に陥った。
後退しようと方向転換し、仲間の戦車の行く手を塞いでしまい、もろともに撃破される者。
勇敢に砲を撃つがティーガーの装甲は破れず、あえなく返り討ちに遭う者。
まさに阿鼻叫喚であった。
途中から第101重戦車大隊の第一中隊も加わり、ますます激化する殴り合い。

ついに英軍はカーンの確保を断念することになった。

ヴィットマンはこの戦いで戦車12両、その他戦闘車両15両を撃破し、剣付柏葉騎士鉄十字章を授与されることとなる。

上陸から一週間余り。他の戦線でもドイツ装甲師団は、米英軍に痛撃を与え続けることとなる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

G〜超怪獣王黙示録 ヒトを超えし者

俊也
SF
本気で人類、滅ぼしてみませんか!? 人生を悲観した日本の弱者男性 山根俊樹 自分の人生を終わらせるか迷っていた時期に…。 ある朝、目覚めると身長130メートル、体重10万トンの大怪獣になっていた。 自分にも制御できない破壊衝動。 超大国の軍隊ですら問題にもならず薙ぎ払われていく…。 そのあまりの力に、人類そのものが存亡の危機に晒され、やがて…。 (例のレジェンド特撮怪獣とは無関係です。 オマージュ要素は否定しませんが。 つか、『彼』よりも強いです) 「抗え、人間ども」

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

鬼嫁物語

楠乃小玉
歴史・時代
織田信長家臣筆頭である佐久間信盛の弟、佐久間左京亮(さきょうのすけ)。 自由奔放な兄に加え、きっつい嫁に振り回され、 フラフラになりながらも必死に生き延びようとする彼にはたして 未来はあるのか?

処理中です...