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フィリピン攻防、そして…
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1944年6月6日早朝、サイパン沖。
「全作戦機は発進準備!
一気に味方地上軍の占領支援を前に進める!」
第5艦隊、および第38任務部隊司令長官スプルーアンス大将は号令をかけた。
これより8時間先立って、遠くヨーロッパ西岸、フランスのノルマンディーにも上陸作戦が敢行されていると機密文が届いていた。
その後の進捗は不明だが、我が合衆国、連合軍は負けはしない。
とうぜんここ、マリアナ、サイパン攻略もこの大規模空襲をきっかけにケリをつけねばならない。
大丈夫だ。
普通のことを手堅くやって勝つのみ。
スプルーアンスは自身に言い聞かせた。
あの大海戦の中奇跡的に一命を取り留めたがいまだ意識が戻らぬハルゼーのためにも、やり遂げねばならん!
次々と発艦していく攻撃隊。
6割強は実戦経験的には新人…とは言え内地で十二分に訓練は積んでいる。素人ではない。
ほぼ確実に敵戦闘機の妨害はない。
慎重は期すが臆病にはなるなかれ。
実際、彼らはよく任務を遂行してくれる事となる。
地上部隊の要請通りの敵陣地の要衝に爆弾を叩き込む。
そして再建なった戦艦部隊計6隻がもう砲撃を加える。
午後となり万全を期して、飛行場を目の前に停滞していたアメリカ地上軍が攻勢に出る。
激しい抵抗はあったが、その日の20時まで波状的に攻め続けたアメリカ軍が飛行場奪取に成功する。
その、翌朝である。
艦砲射撃、砲爆撃が山岳部中心に再開されようとした時。
「閣下、妙な通信が平文の英語にて入っております。」
「…!日本軍…からだと!?」
米地上部隊指揮官、スミス中将は訝しむ。
「…読み上げろ」
「はっ。
我が方には、条件次第で投降の用意あり…
と。」
「なん…だと?」
罠…?にしてはお粗末過ぎる。
その後の「条件」を聞いたスミスは、当然、海上のスプルーアンス提督に連絡を取る。
結局は、ハワイのニミッツ長官が判断する事となろう。
その間も、陸も海も砲撃は止めることはない。
だが艦載機は発進させず、地上部隊自体も動かさず、どこか様子見という形になる。
「馬鹿な、白旗…だと。」
困惑するのは本戦線を担当するニミッツ長官も一緒であった。
条件は民間人に人道的な支援。
捕虜となる我々にも国際法を遵守した扱いをする事。
そして日本軍は捕虜でなく壮烈な玉砕をしたと報道し、当座の名誉を守る事。
こちらにマイナスは何もない。
もちろんそれをガン無視して大攻勢を続けても、2週間程度で正攻法で陥ちるだろう。
だが、引き続き敵となる日本軍はどんなに低く見積もっても2万5千以上。
数的優勢と圧倒的火力を持ってなお、完全制圧には数千人の戦死傷者を出さねばならないだろう。
これまで別の戦場、局地戦で不利になっても頑強に抵抗した日本軍の戦いぶりからもそれは容易に予想できる。
それが、今回の日本側の投降を受け入れればこちらはこれ以上一兵も傷つける事なく、サイパン、マリアナ諸島という戦略的要衝を手に入れる事が出来るのだ。
…ホワイトハウス、大統領には事後報告で差し支えなかろう。
攻めあぐね撤退するという話ならばともかく、懸案が一気に解決しますという事ならば。
幕僚達からも当惑はあったが、反対の意見はなかった。
敵ながら善戦していたとは言え、日本軍もはや補給面でも兵士の心身の面でも消耗し切っているのは事実である。
現場指揮官の判断でそういう決断に至っても珍しくはあってもあり得ない事ではない。
具体的交渉に移るよう、スプルーアンス、スミスら前線指揮官に、ニミッツは命令を下した。
「申し上げたように、特に現地民、日本人民間人が飢えたりはしないようお願いしたい。」
日本側守備隊司令官斉藤中将は、通訳を介しそうアメリカの司令部に出頭し口上を述べた。
一部、降伏を是としない将校達が自決していたという事実は戦後明らかとなるが、とにかくその後の武装解除、民間人保護はそれなりにスムーズに進んだ。
「ニミッツが独断で…ですか。」
「しかし、実際投降したものを受け入れず戮殺するわけにもいくまい。
ニミッツは私が与えた権限を逸脱した訳でもなく。
これ以上の流血と時間の浪費を抑え戦略要衝を制したのは紛れもない事実だ。」
ホワイトハウス。
スティムソン陸軍長官らの言を制し、ニミッツの判断を追認したルーズベルト大統領。
違和感を感じないではないが、トロイの木馬を仕組まれた訳でもなかろう。
我々連合軍の指揮官なら、とっくに同じ判断をしていておかしくない。
ただ理解し難い頑迷さで常に抗戦してくる日本人がそうしたから違和感があるだけだ。
何も問題は、ない。
サイパン、テニアン、グアムに戦略爆撃機B29の基地を最速で築き、並行してマッカーサー主導でのフィリピン攻略戦を発動する。
欧州戦線、ノルマンディー上陸戦の戦死傷者7万は誤算ではあったが、上陸という目的は果たしている。
そう、順調なのだ…全ては…。
1944年8月。
ついにアメリカ合衆国は過去最大級の機動部隊と上陸部隊を繰り出し、フィリピンへ来寇することとなる。
「全作戦機は発進準備!
一気に味方地上軍の占領支援を前に進める!」
第5艦隊、および第38任務部隊司令長官スプルーアンス大将は号令をかけた。
これより8時間先立って、遠くヨーロッパ西岸、フランスのノルマンディーにも上陸作戦が敢行されていると機密文が届いていた。
その後の進捗は不明だが、我が合衆国、連合軍は負けはしない。
とうぜんここ、マリアナ、サイパン攻略もこの大規模空襲をきっかけにケリをつけねばならない。
大丈夫だ。
普通のことを手堅くやって勝つのみ。
スプルーアンスは自身に言い聞かせた。
あの大海戦の中奇跡的に一命を取り留めたがいまだ意識が戻らぬハルゼーのためにも、やり遂げねばならん!
次々と発艦していく攻撃隊。
6割強は実戦経験的には新人…とは言え内地で十二分に訓練は積んでいる。素人ではない。
ほぼ確実に敵戦闘機の妨害はない。
慎重は期すが臆病にはなるなかれ。
実際、彼らはよく任務を遂行してくれる事となる。
地上部隊の要請通りの敵陣地の要衝に爆弾を叩き込む。
そして再建なった戦艦部隊計6隻がもう砲撃を加える。
午後となり万全を期して、飛行場を目の前に停滞していたアメリカ地上軍が攻勢に出る。
激しい抵抗はあったが、その日の20時まで波状的に攻め続けたアメリカ軍が飛行場奪取に成功する。
その、翌朝である。
艦砲射撃、砲爆撃が山岳部中心に再開されようとした時。
「閣下、妙な通信が平文の英語にて入っております。」
「…!日本軍…からだと!?」
米地上部隊指揮官、スミス中将は訝しむ。
「…読み上げろ」
「はっ。
我が方には、条件次第で投降の用意あり…
と。」
「なん…だと?」
罠…?にしてはお粗末過ぎる。
その後の「条件」を聞いたスミスは、当然、海上のスプルーアンス提督に連絡を取る。
結局は、ハワイのニミッツ長官が判断する事となろう。
その間も、陸も海も砲撃は止めることはない。
だが艦載機は発進させず、地上部隊自体も動かさず、どこか様子見という形になる。
「馬鹿な、白旗…だと。」
困惑するのは本戦線を担当するニミッツ長官も一緒であった。
条件は民間人に人道的な支援。
捕虜となる我々にも国際法を遵守した扱いをする事。
そして日本軍は捕虜でなく壮烈な玉砕をしたと報道し、当座の名誉を守る事。
こちらにマイナスは何もない。
もちろんそれをガン無視して大攻勢を続けても、2週間程度で正攻法で陥ちるだろう。
だが、引き続き敵となる日本軍はどんなに低く見積もっても2万5千以上。
数的優勢と圧倒的火力を持ってなお、完全制圧には数千人の戦死傷者を出さねばならないだろう。
これまで別の戦場、局地戦で不利になっても頑強に抵抗した日本軍の戦いぶりからもそれは容易に予想できる。
それが、今回の日本側の投降を受け入れればこちらはこれ以上一兵も傷つける事なく、サイパン、マリアナ諸島という戦略的要衝を手に入れる事が出来るのだ。
…ホワイトハウス、大統領には事後報告で差し支えなかろう。
攻めあぐね撤退するという話ならばともかく、懸案が一気に解決しますという事ならば。
幕僚達からも当惑はあったが、反対の意見はなかった。
敵ながら善戦していたとは言え、日本軍もはや補給面でも兵士の心身の面でも消耗し切っているのは事実である。
現場指揮官の判断でそういう決断に至っても珍しくはあってもあり得ない事ではない。
具体的交渉に移るよう、スプルーアンス、スミスら前線指揮官に、ニミッツは命令を下した。
「申し上げたように、特に現地民、日本人民間人が飢えたりはしないようお願いしたい。」
日本側守備隊司令官斉藤中将は、通訳を介しそうアメリカの司令部に出頭し口上を述べた。
一部、降伏を是としない将校達が自決していたという事実は戦後明らかとなるが、とにかくその後の武装解除、民間人保護はそれなりにスムーズに進んだ。
「ニミッツが独断で…ですか。」
「しかし、実際投降したものを受け入れず戮殺するわけにもいくまい。
ニミッツは私が与えた権限を逸脱した訳でもなく。
これ以上の流血と時間の浪費を抑え戦略要衝を制したのは紛れもない事実だ。」
ホワイトハウス。
スティムソン陸軍長官らの言を制し、ニミッツの判断を追認したルーズベルト大統領。
違和感を感じないではないが、トロイの木馬を仕組まれた訳でもなかろう。
我々連合軍の指揮官なら、とっくに同じ判断をしていておかしくない。
ただ理解し難い頑迷さで常に抗戦してくる日本人がそうしたから違和感があるだけだ。
何も問題は、ない。
サイパン、テニアン、グアムに戦略爆撃機B29の基地を最速で築き、並行してマッカーサー主導でのフィリピン攻略戦を発動する。
欧州戦線、ノルマンディー上陸戦の戦死傷者7万は誤算ではあったが、上陸という目的は果たしている。
そう、順調なのだ…全ては…。
1944年8月。
ついにアメリカ合衆国は過去最大級の機動部隊と上陸部隊を繰り出し、フィリピンへ来寇することとなる。
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