re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ

俊也

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魔女の釜

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これで20機目…
「こっ酷くやられましたな…」
樋端参謀が呟く。
19:55頃から、日本第一機動艦隊はボロボロになって帰ってきた味方攻撃隊の収容に追われていた。
「敵の目は気にするな!探照灯を全開で照らせ!
海面もだ!」
山口多聞は再度命令を徹底させる。
どうにか空母甲板に胴体着陸でもなんでも、パイロットが生命拾いする形で滑り込めたのは幸運だったのかもしれない。
飛龍では手前で力尽きるのみならず、艦首に激突四散してしまう悲惨な例もあった。
あとは不時着水した味方パイロットを引き揚げるべく駆逐艦が奔走する。
…敵の攻撃だが90キロ北方のスプルーアンス艦隊も似たり寄ったりの状況。
付近に10数隻は居たアメリカ潜水艦群も、予想外のわが機動艦隊の高速移動に振り切られ、位置を掴めずにいた。

つまりは両陣営、23:00頃までは、傷ついた味方艦隊と艦載機の収容救助、再編成に追われていたということだ。
そして…
ほぼ同時刻、日付が変わる頃には両艦隊は動く。
アメリカ第58機動部隊はマリアナ諸島サイパン島へ直進。
後方には計5万人の精鋭海兵師団を載せた大輸送船団が合流していた。

そして日本艦隊。
空母を護衛駆逐艦15隻と共に分離。
戦艦大和、陸奥、金剛、霧島、日向、伊勢。
重巡利根、摩耶以下7隻
軽巡6
駆逐艦20

長門は呉軍港にて連合艦隊司令部と共に居残り。
他の主力艦はインド洋方面に出張っていた。
(建前上はインド独立軍の育成の為の派遣として…)

とにかく、第一機動艦隊は、今度は同じ大和を旗艦とした第二艦隊…近藤中将麾下の水上部隊としてマリアナ諸島方面に舵を切ったのである。

02:00を回った頃。
「敵基地航空隊の攻撃圏内に入ります。」
スプルーアンスは頷く。
日本側は現状夜間戦闘の装備を持った航空機は保有していない。
一方こちらは、残った正規空母からF6F戦闘機のレーダー搭載夜戦型がすでに上空直掩に上がっている。
向こうの手練れのパイロットが決死の総攻撃をかけてきても、こちらの一連の上陸作戦を完全阻止することは不可能である。
(予想外すぎる艦載機の犠牲により、空からの仕掛けは200機強の規模となってしまったが、水上部隊の艦砲射撃によるものに呼応し、明け方に行う手筈である)
無論、こちらにも少なからず犠牲は出ないにせよ。
この戦争を前に進めて終結に持っていくには不可欠な作戦…私は軍人として粛々と進めていくのみだ…。

あと1時間で状況開始、03:00を回った頃。
「!水上レーダーに反応!距離50000(m)」
複数のレーダーに同じ反応。
輝点の数からして明らかに日本艦隊。
当然、ハワイで苦渋を舐めさせられた「奴」も居る。
軽く戦慄を覚えつつも、その時に向けて準備を進めるアメリカ艦隊司令部。

アイオワ級戦艦。
ニュージャージー
ミズーリ
ウィスコンシン
同級の新規配備で
ルイジアナ
ケンタッキー

ノースカロライナ 
その同型艦アラバマ
都合7隻に重巡6、駆逐艦25

もう少し万全の体制といきたかったが、輸送船団の護衛、上陸艦砲射撃にせめて巡洋艦クラスはつけて欲しいというターナー海兵隊少将の要望を却下する訳にもいかなかった。
どの道、上記の戦力で質と量双方で倍以上の優位を築いているのだ。
実質、敵は例の怪物一隻。
それをアイオワ級4隻当たらせ確実に葬る。
それさえすれば70%はこちらの勝ちが決まる。
しかしこちらは優位な戦力を押し出して、充分に各部隊の力を発揮させ、王道の戦術で勝つ事に努めるのみ。
あとは油断せず全力を尽くすのみだ。

一方、日本第二艦隊。
「敵艦隊の動きは!?」
「島風の逆探にかかりましたので、おそらく水上部隊の主力は向かってきているかと思われます!」
「こちらも距離を詰める。見張員達の目に賭けるしかないが…」
近藤提督は顎をしごく。

おそらくは戦艦だけで10隻弱。
「仕込み」はあるにせよ、過度の期待は禁物だ。
我々だけで殴り勝つしかない。
この大和
陸奥、比叡、霧島、伊勢、日向
大和だけで総合力の不利を覆せるかはわからぬが、やるしかない。

「敵艦隊見ゆ!距離34000を切ります!」
先行する田中中将の水雷戦隊からだ。
いよいよか。
その3分後であった。
闇の中、大気を切り裂く複数の音。
なにっ。
次の瞬間、周囲に巨大な水柱と震動。
「この距離でか!」
新たな大和艦長森下大佐が叫ぶ。
「電探射撃を改良してきたか。
だがこちらは艦列崩さず、進路そのまま、2分後にT字回頭で砲撃開始する。」
近藤司令は努めて冷静を保つ。
その後、じわじわと敵の砲撃の精度が上がり、大和に2発、陸奥に1発の至近弾。
だが、実質的にはダメージはない。
距離が30000を切る。
「よし全艦!急速回頭!」
があんと、回頭終了直後に大和3番砲塔に直撃弾!
が、爆発することもなく悠々と弾かれる。
角度的に浅かったか…
しかし当然、敵さんはこの大和に砲撃を集中させてくる。
その前に…
「各艦、合戦準備、うちーかたーはじめ!」
「うちーかたーはじめ!」
46センチ砲9門が轟然と吠える。
陸奥以下も続く。

「このまま手数を重ねてゆけ。射撃継続!」
戦艦ニュージャージーで水上部隊の指揮を執るリー提督。
だが。
敵の第二射の水柱。
例の奴か!しかし直撃は…。
「ミズーリ右舷に至近弾!し、浸水との事…」
ま、またか!
戦艦部隊たる第18任務部隊司令部は愕然とした。
化け者め!








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