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見敵必殺
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14:55頃、日本第一機動艦隊。
「入電!ウルシーからの2式大艇、同時にテニアンの彩雲よりも同様の報告!
敵機動部隊、サイパン西方1200キロ。
我が艦隊からは方位123、820キロの位置を南進中です!」
「諒解。我が艦隊からも彩雲を出し追い続けよ。」
山口多聞は幕僚達の方向に向き直る。
「今攻撃隊発進可能機数は?」
「赤城がまもなく甲板修理完了、440機は出せます!」
「…当然、今からですとギリギリ薄暮攻撃になりますが?」
もちろん、と山口は頷く。
「攻撃隊収容の為、我が方も全力で彼らの発艦と同時に敵機動部隊に進路を取り、距離を詰める!」
源田実航空参謀長ら、幕僚達は一瞬黙り込んだが、すぐに電流に打たれたように敬礼した。
そう、危険も厭わない。
すでにそう言う戦いなのだ。
相手は世界最強の海軍。
まともにやっても勝てない。
しかし末端の若者達だけを死地には晒さない。
全艦隊、司令部ごと突出する。
もちろん第一には彼らの帰路の為であるが…。
そして、空母瑞鶴。
「しゃあっ!」
藤浪は喝を自らに入れ、烈風のコクピットに身を収める。
「まあ、気負うな、と言っても無理だな。」
整備班長の言葉に、無言で敬礼を返す。
村上ら部下の列機には、
「なるべく俺について来い。
だけど今回ばかりは厳しいかもしれない。
その時は生き残る事だけ考えろ!
俺の悪運にあやかれよ!」
そう、わかったようなわからないような事を言っておいた。
正直、防御に専念したアメリカ艦隊がどれだけの鉄火の壁を…は誰にも見当がつかない。
つまりは俺自身が生還できる確率も…。
だが、出撃あるのみ!
前方の味方の加速に合わせ、藤浪の機体も続く。
零戦のように軽やかに、そして力強く、瑞鶴の甲板を烈風は蹴る。
「来ます、日本攻撃隊、400機強 距離520」
アメリカ旗艦インディアナポリスCIC。
「よし、落ちついて対処、排除する。」
与えたダメージ的に予想通りの機数。
第二波が来るとしても、プラス250を超えることはあるまい。
「日没まで凌いだら、そのまま夜陰に乗じサイパン強襲ですな。」
念を押すように言ったカーニー参謀長にスプルーアンス司令は、まずは目の前の脅威だとのみ答えた。
「タリホー!ターゲット!
油断なく、容赦無く、だ。」
「「ラジャー!!」」
ヘリントン少佐の空中総指揮の元、280機のF6F、F4Uが日本攻撃隊に優位から襲いかかる。
護衛の烈風隊は大まかに2手に別れ、襲いかかって来た敵戦の群れをいなし、直接引き受け交戦。
別の一隊は真っ直ぐ流星改、彗星を狙う敵に備え、ギリギリまでその味方攻撃隊を庇う位置に張り付く。
…いずれにせよ熾烈な空戦が始まった。
だが、やはり烈風の性能と日本側パイロットの熟練度が卓絶していた。
ヘリントンとしても自らは2機撃墜も、これまでの日本機の長所を引き継ぎ、欠点を補ってあまりある烈風相手に、戦場全体においては有効策を見いだせぬままだった。
クッ、墜ちていくのはこちらのマークばかり…。
そして、ざっと80%超の日本攻撃隊がアメリカ第58機動部隊に殺到する。
しかし、そこから「も」日本側にとっては地獄であった。
さらに重層な輪形陣、そして濃密な火箭の槍衾。
砲熕兵器としては最強レベルに迫る対空砲火であったろう。
僚機が火を吹き海面に叩きつけられる。
「クッ、弾幕の濃さだけでなく、一部の砲弾は測ったようにこちらの鼻先で炸裂する…。
やはり阪大や空技廠の分析していた電波信管か…。」
隊長の村田重治中佐。
部下には攻撃時までには限界まで…プロペラが海面を叩くまで低く飛べと指示するしかない。
それなら例の砲弾の作動はかなりの割合で封じられる。
だが、それができるのは超のつく真珠湾以前からのベテランのみ。
比較的作戦や機体設計の配慮、進化で一定数いるにせよ、反面今回が初陣の若手もいる。
そうした連中は、生き残るかは運任せしかない。
あるいは自分の学んだ事を鉄火場で活かす力量があるか…冷酷ではあるが。
その村田機は、ようやっと捕捉したエセックス級空母に狙いをつける。
機体が揺れるほどの濃密な砲火。
まだだ、よーそろー、よーそろー…
今…!
投下後機体を引き起こし目標空母を飛び越し、再び海面に。
「当たった!命中です!」
後席の山川飛曹長が歓喜の叫び。
よし!
戦果報告をする。
と同時に、次席指揮官に攻撃指揮を引き継ぐ旨、隊内電話と長距離無電双方で伝える。
翼端が…いや左翼の3分の1が持っていかれたか…。
母艦まで持つ確率は…よそう。まずは攻撃圏外に逃れてからだ…。
生死が運任せなのは、我々ベテランも同じ…
一方、相手のスプルーアンス司令部は混乱スレスレのところで情報の整理、輪形陣の再構築に追われていた。
「空母フランクリン、被雷に続き爆弾最低4発被弾、火災止まりません!」
「戦艦ニュージャージーに爆弾3!」
「重巡ボストン被雷2!」
「空母タイコンデロガに魚雷4、傾斜止まらず!」
「駆逐艦も大破、沈没が最低5!」
血の気は引きながらも、姿勢と表情は崩さぬスプルーアンス。
正直インディアナポリスにも至近弾があり、旗艦が重巡ではと参謀達は不安な表情を浮かべたのだが…。
勇敢で優秀な日本海軍パイロット達がこれだけの機体の質と量で殴りかかってくるとどういう惨劇をもたらすか。
まざまざと我が艦隊の全将兵は思い知ったのである。
しかし、それでも最後は…。
2波695機の日本側攻撃隊は、364機を喪う引き換えとして、
空母フランクリン、タイコンデロガ撃沈。
エンタープライズ、シャングリラ大破。
他4隻にも中破以上のダメージ。
戦艦ニュージャージー、ミズーリ中破。
重巡ボストン撃沈
以下損傷艦多数。
現状望みうる最大の戦果を挙げてみせたのであった…。
だが、両軍にとっての試練は、まだ終わらない。
「入電!ウルシーからの2式大艇、同時にテニアンの彩雲よりも同様の報告!
敵機動部隊、サイパン西方1200キロ。
我が艦隊からは方位123、820キロの位置を南進中です!」
「諒解。我が艦隊からも彩雲を出し追い続けよ。」
山口多聞は幕僚達の方向に向き直る。
「今攻撃隊発進可能機数は?」
「赤城がまもなく甲板修理完了、440機は出せます!」
「…当然、今からですとギリギリ薄暮攻撃になりますが?」
もちろん、と山口は頷く。
「攻撃隊収容の為、我が方も全力で彼らの発艦と同時に敵機動部隊に進路を取り、距離を詰める!」
源田実航空参謀長ら、幕僚達は一瞬黙り込んだが、すぐに電流に打たれたように敬礼した。
そう、危険も厭わない。
すでにそう言う戦いなのだ。
相手は世界最強の海軍。
まともにやっても勝てない。
しかし末端の若者達だけを死地には晒さない。
全艦隊、司令部ごと突出する。
もちろん第一には彼らの帰路の為であるが…。
そして、空母瑞鶴。
「しゃあっ!」
藤浪は喝を自らに入れ、烈風のコクピットに身を収める。
「まあ、気負うな、と言っても無理だな。」
整備班長の言葉に、無言で敬礼を返す。
村上ら部下の列機には、
「なるべく俺について来い。
だけど今回ばかりは厳しいかもしれない。
その時は生き残る事だけ考えろ!
俺の悪運にあやかれよ!」
そう、わかったようなわからないような事を言っておいた。
正直、防御に専念したアメリカ艦隊がどれだけの鉄火の壁を…は誰にも見当がつかない。
つまりは俺自身が生還できる確率も…。
だが、出撃あるのみ!
前方の味方の加速に合わせ、藤浪の機体も続く。
零戦のように軽やかに、そして力強く、瑞鶴の甲板を烈風は蹴る。
「来ます、日本攻撃隊、400機強 距離520」
アメリカ旗艦インディアナポリスCIC。
「よし、落ちついて対処、排除する。」
与えたダメージ的に予想通りの機数。
第二波が来るとしても、プラス250を超えることはあるまい。
「日没まで凌いだら、そのまま夜陰に乗じサイパン強襲ですな。」
念を押すように言ったカーニー参謀長にスプルーアンス司令は、まずは目の前の脅威だとのみ答えた。
「タリホー!ターゲット!
油断なく、容赦無く、だ。」
「「ラジャー!!」」
ヘリントン少佐の空中総指揮の元、280機のF6F、F4Uが日本攻撃隊に優位から襲いかかる。
護衛の烈風隊は大まかに2手に別れ、襲いかかって来た敵戦の群れをいなし、直接引き受け交戦。
別の一隊は真っ直ぐ流星改、彗星を狙う敵に備え、ギリギリまでその味方攻撃隊を庇う位置に張り付く。
…いずれにせよ熾烈な空戦が始まった。
だが、やはり烈風の性能と日本側パイロットの熟練度が卓絶していた。
ヘリントンとしても自らは2機撃墜も、これまでの日本機の長所を引き継ぎ、欠点を補ってあまりある烈風相手に、戦場全体においては有効策を見いだせぬままだった。
クッ、墜ちていくのはこちらのマークばかり…。
そして、ざっと80%超の日本攻撃隊がアメリカ第58機動部隊に殺到する。
しかし、そこから「も」日本側にとっては地獄であった。
さらに重層な輪形陣、そして濃密な火箭の槍衾。
砲熕兵器としては最強レベルに迫る対空砲火であったろう。
僚機が火を吹き海面に叩きつけられる。
「クッ、弾幕の濃さだけでなく、一部の砲弾は測ったようにこちらの鼻先で炸裂する…。
やはり阪大や空技廠の分析していた電波信管か…。」
隊長の村田重治中佐。
部下には攻撃時までには限界まで…プロペラが海面を叩くまで低く飛べと指示するしかない。
それなら例の砲弾の作動はかなりの割合で封じられる。
だが、それができるのは超のつく真珠湾以前からのベテランのみ。
比較的作戦や機体設計の配慮、進化で一定数いるにせよ、反面今回が初陣の若手もいる。
そうした連中は、生き残るかは運任せしかない。
あるいは自分の学んだ事を鉄火場で活かす力量があるか…冷酷ではあるが。
その村田機は、ようやっと捕捉したエセックス級空母に狙いをつける。
機体が揺れるほどの濃密な砲火。
まだだ、よーそろー、よーそろー…
今…!
投下後機体を引き起こし目標空母を飛び越し、再び海面に。
「当たった!命中です!」
後席の山川飛曹長が歓喜の叫び。
よし!
戦果報告をする。
と同時に、次席指揮官に攻撃指揮を引き継ぐ旨、隊内電話と長距離無電双方で伝える。
翼端が…いや左翼の3分の1が持っていかれたか…。
母艦まで持つ確率は…よそう。まずは攻撃圏外に逃れてからだ…。
生死が運任せなのは、我々ベテランも同じ…
一方、相手のスプルーアンス司令部は混乱スレスレのところで情報の整理、輪形陣の再構築に追われていた。
「空母フランクリン、被雷に続き爆弾最低4発被弾、火災止まりません!」
「戦艦ニュージャージーに爆弾3!」
「重巡ボストン被雷2!」
「空母タイコンデロガに魚雷4、傾斜止まらず!」
「駆逐艦も大破、沈没が最低5!」
血の気は引きながらも、姿勢と表情は崩さぬスプルーアンス。
正直インディアナポリスにも至近弾があり、旗艦が重巡ではと参謀達は不安な表情を浮かべたのだが…。
勇敢で優秀な日本海軍パイロット達がこれだけの機体の質と量で殴りかかってくるとどういう惨劇をもたらすか。
まざまざと我が艦隊の全将兵は思い知ったのである。
しかし、それでも最後は…。
2波695機の日本側攻撃隊は、364機を喪う引き換えとして、
空母フランクリン、タイコンデロガ撃沈。
エンタープライズ、シャングリラ大破。
他4隻にも中破以上のダメージ。
戦艦ニュージャージー、ミズーリ中破。
重巡ボストン撃沈
以下損傷艦多数。
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