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奇策と正攻法の狭間で
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ホーネット上でドーリットル中佐率いる爆撃隊がエンジンを起動した、その時。
2時方向!敵機接近!
各艦の見張り員が叫ぶ。
一式陸攻40機超だと!?
「バカな!?レーダー員は何をしていた!?」
「恐らくは海面ギリギリを這うように来たのかと!?」
ハルゼーの疑念に対し参謀達はそう答えるしかない。
「ワイルドキャット隊に排除させろ!」
しかし、完全にそのF4F戦闘機隊も逆を突かれた上、念の為の露払いとして25機しか上がっていなかった。
一直線に輪形陣を突破し、必死に追い縋るF4F戦闘機隊に犠牲を出しながらも2隻の空母に殺到する一式陸攻隊。
投下ーッ!
必殺の魚雷が8から10本づつ、エンタープライズとホーネットに向け驀進。
エンタープライズに2本、そしてホーネットには3本の魚雷が突き刺さる!
ぐおっ!
「被害状況知らせ!」
「我が艦もだがホーネットは!?」
ハルゼーの目の前に信じ難き光景。
傾斜したホーネットの甲板から、ずるずるとスタンバイしていたB25が海面に落ちていく。
ダメコン班の必死の復旧作業で、エンタープライズはなんとか航行面では可能。
しかし、ホーネットは…。
致命的な誘爆、沈没は回避したものの、機関復旧は絶望との連絡。
ハルゼーは傍の椅子を蹴りつけた。
なんてことだ…なんてことだ…。
確かにギャンブル的な敵国の首都奇襲爆撃作戦だったにせよ、復活強化に全力を上げる合衆国海軍の、今現在の手持ちの貴重なカードを失ってしまうとは!
「ぐう、半分弱は喰われたか…もう少し近けりゃ零戦の護衛も頼めたんだが…すまねえ。」
日本側臨時編成の一式陸攻決死隊、指揮官の野中五郎大尉はそうひとりごちた。
「しかし、あの情報が的確であったが故の戦果です。
どうにか報われたのが奇跡ですぜ。」
「ああ、正直博打と思ったが…。」
まさか、陸海軍の情報部から回した断片的な敵暗号通信から、本当に精確に割り出してしまうとは…。
目の前でお茶を差し出す青年に、東條英機は畏怖すら感じていた。
「…結果的に、陸攻隊の犠牲や、民間徴用した哨戒の漁船群を沈め、多くの死者を出してしまったことは無念です。」
青年…有明一郎は言葉にしてはそう発するのみであった。
今更だが、君は何者なのかね…。
いずれにせよ、陸海軍総力を挙げての情報戦に勝利し、「帝都空襲」という最悪の事態は避けられた。
だがアメリカは先手先手でこちらが各方面で進撃することを妨害し、なんなら戦力再建途上でも一大反撃戦を仕掛けてくるかもしれない。
それは、改めて警戒を促さねば。
新聞、ラジオではあえて事実を報じて、戦果を讃える一方でなりふり構わず牙を研ぎ澄ましアメリカ始め連合国が反撃の機会を伺っていると軍民問わず引き締めを促す内容とした。
「これで、インド洋、オーストラリア封鎖作戦、そしてミッドウェーを抜きハワイ攻略、が一時的とは言え同時展開が可能になったと軍令部や大本営は息巻いているが…」
呉軍港の長門艦橋で、山本五十六が嘆息する。
「いつから我が戦力は数倍に増えたのか、と心の底から問いたいですな。」
宇垣連合艦隊参謀長が苦笑混じりに言う。
「まあ、確かにホーネットを屠ったのは大きい。
予想以上に燃料関係も含めてアメリカが真珠湾の港湾能力の復旧を成して、さあこれからと言うその出鼻を挫いてやった。
だがやはり、俺は最短距離でアメリカ西海岸に迫って早期講和に拘りたいが…。
そうはいかないだろうな…。」
具体的な連合艦隊のアクションとしては、MO作戦(オーストラリアの北の要衝、ポートモレスビー攻略)の支援としての航空艦隊派遣が、軍令部から求められていた。
実戦部隊の連合艦隊サイドとしては、少し空母部隊、パイロットも艦隊要員も休ませたいところなのだが…。
「陸軍のみならず、第四艦隊も矢の催促ですから仕方ありますまい。
どうしてもというなら臨時の任務部隊として、五航戦に(翔鶴、瑞鶴を基幹)要員機材の再補充なった空母蒼龍を加えて援護の機動部隊としてはいかがでしょう。」
航空参謀の源田の提案に、山本は頷く。
それならベテラン勢も半分は休ませられる。
そしてアメリカ側が手持ちの総力で殴りかかって来たとしても、最悪でも質量双方で負けることは無い。
「しかし肝心なのは…、誰に指揮を執らせるかです。
本来は実戦指揮官は原少将ですが、体調がすぐれないのなんのと…」
宇垣はそう問いかける。
山本は腕組みをしつつ2秒ほど迷った様だが、口を開いた。
「なら、小沢君で行こう、むろん南遣艦隊司令の立場はあるが、誰か代行を補充して、方面にいる提督としては彼が1番航空戦に通じている。
まあ軍令部はうるさいだろうが、そこは俺がなんとかしておく。」
「小沢治三郎中将…ですか。」
宇垣は長官のお決めに成ったことなら、といい、源田実は積極的に賛意を示した。
(で、今はここに俺がいると言う訳か…)
5月1日、ポートモレスビー攻略、通称MO部隊。
将官でもうひとり、この編成の艦隊事情をしる高木武雄少将を副司令官とし、補佐を頼み、ここ旗艦翔鶴に居る小沢中将。
序列上は色々ありえない臨時人事、山本さんとは言えよく通したな、とは思うが…。
とにかく本来は虎の子の航空艦隊の半分の戦力、慎重かつ大胆に任務を遂行しなければ…。
こうして彼の指揮のもと、世に言う「珊瑚海海戦」に日本機動部隊は挑むのである。
2時方向!敵機接近!
各艦の見張り員が叫ぶ。
一式陸攻40機超だと!?
「バカな!?レーダー員は何をしていた!?」
「恐らくは海面ギリギリを這うように来たのかと!?」
ハルゼーの疑念に対し参謀達はそう答えるしかない。
「ワイルドキャット隊に排除させろ!」
しかし、完全にそのF4F戦闘機隊も逆を突かれた上、念の為の露払いとして25機しか上がっていなかった。
一直線に輪形陣を突破し、必死に追い縋るF4F戦闘機隊に犠牲を出しながらも2隻の空母に殺到する一式陸攻隊。
投下ーッ!
必殺の魚雷が8から10本づつ、エンタープライズとホーネットに向け驀進。
エンタープライズに2本、そしてホーネットには3本の魚雷が突き刺さる!
ぐおっ!
「被害状況知らせ!」
「我が艦もだがホーネットは!?」
ハルゼーの目の前に信じ難き光景。
傾斜したホーネットの甲板から、ずるずるとスタンバイしていたB25が海面に落ちていく。
ダメコン班の必死の復旧作業で、エンタープライズはなんとか航行面では可能。
しかし、ホーネットは…。
致命的な誘爆、沈没は回避したものの、機関復旧は絶望との連絡。
ハルゼーは傍の椅子を蹴りつけた。
なんてことだ…なんてことだ…。
確かにギャンブル的な敵国の首都奇襲爆撃作戦だったにせよ、復活強化に全力を上げる合衆国海軍の、今現在の手持ちの貴重なカードを失ってしまうとは!
「ぐう、半分弱は喰われたか…もう少し近けりゃ零戦の護衛も頼めたんだが…すまねえ。」
日本側臨時編成の一式陸攻決死隊、指揮官の野中五郎大尉はそうひとりごちた。
「しかし、あの情報が的確であったが故の戦果です。
どうにか報われたのが奇跡ですぜ。」
「ああ、正直博打と思ったが…。」
まさか、陸海軍の情報部から回した断片的な敵暗号通信から、本当に精確に割り出してしまうとは…。
目の前でお茶を差し出す青年に、東條英機は畏怖すら感じていた。
「…結果的に、陸攻隊の犠牲や、民間徴用した哨戒の漁船群を沈め、多くの死者を出してしまったことは無念です。」
青年…有明一郎は言葉にしてはそう発するのみであった。
今更だが、君は何者なのかね…。
いずれにせよ、陸海軍総力を挙げての情報戦に勝利し、「帝都空襲」という最悪の事態は避けられた。
だがアメリカは先手先手でこちらが各方面で進撃することを妨害し、なんなら戦力再建途上でも一大反撃戦を仕掛けてくるかもしれない。
それは、改めて警戒を促さねば。
新聞、ラジオではあえて事実を報じて、戦果を讃える一方でなりふり構わず牙を研ぎ澄ましアメリカ始め連合国が反撃の機会を伺っていると軍民問わず引き締めを促す内容とした。
「これで、インド洋、オーストラリア封鎖作戦、そしてミッドウェーを抜きハワイ攻略、が一時的とは言え同時展開が可能になったと軍令部や大本営は息巻いているが…」
呉軍港の長門艦橋で、山本五十六が嘆息する。
「いつから我が戦力は数倍に増えたのか、と心の底から問いたいですな。」
宇垣連合艦隊参謀長が苦笑混じりに言う。
「まあ、確かにホーネットを屠ったのは大きい。
予想以上に燃料関係も含めてアメリカが真珠湾の港湾能力の復旧を成して、さあこれからと言うその出鼻を挫いてやった。
だがやはり、俺は最短距離でアメリカ西海岸に迫って早期講和に拘りたいが…。
そうはいかないだろうな…。」
具体的な連合艦隊のアクションとしては、MO作戦(オーストラリアの北の要衝、ポートモレスビー攻略)の支援としての航空艦隊派遣が、軍令部から求められていた。
実戦部隊の連合艦隊サイドとしては、少し空母部隊、パイロットも艦隊要員も休ませたいところなのだが…。
「陸軍のみならず、第四艦隊も矢の催促ですから仕方ありますまい。
どうしてもというなら臨時の任務部隊として、五航戦に(翔鶴、瑞鶴を基幹)要員機材の再補充なった空母蒼龍を加えて援護の機動部隊としてはいかがでしょう。」
航空参謀の源田の提案に、山本は頷く。
それならベテラン勢も半分は休ませられる。
そしてアメリカ側が手持ちの総力で殴りかかって来たとしても、最悪でも質量双方で負けることは無い。
「しかし肝心なのは…、誰に指揮を執らせるかです。
本来は実戦指揮官は原少将ですが、体調がすぐれないのなんのと…」
宇垣はそう問いかける。
山本は腕組みをしつつ2秒ほど迷った様だが、口を開いた。
「なら、小沢君で行こう、むろん南遣艦隊司令の立場はあるが、誰か代行を補充して、方面にいる提督としては彼が1番航空戦に通じている。
まあ軍令部はうるさいだろうが、そこは俺がなんとかしておく。」
「小沢治三郎中将…ですか。」
宇垣は長官のお決めに成ったことなら、といい、源田実は積極的に賛意を示した。
(で、今はここに俺がいると言う訳か…)
5月1日、ポートモレスビー攻略、通称MO部隊。
将官でもうひとり、この編成の艦隊事情をしる高木武雄少将を副司令官とし、補佐を頼み、ここ旗艦翔鶴に居る小沢中将。
序列上は色々ありえない臨時人事、山本さんとは言えよく通したな、とは思うが…。
とにかく本来は虎の子の航空艦隊の半分の戦力、慎重かつ大胆に任務を遂行しなければ…。
こうして彼の指揮のもと、世に言う「珊瑚海海戦」に日本機動部隊は挑むのである。
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