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13)戻ったエレノアと友人

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教室に入ると、クラリスとブランシュがわっと寄ってきてくれた。


「エレノアさま! 今日はフィンリーさまとご一緒にいらしたのではないのですか?」

「おはようございます、毎朝エレノアさまに話しかけてよいものかドキドキしておりましたわ」

「今日は、帰りに一緒に帰ろうと……フィンリーさまが誘ってくださいました」

「まあ! お帰りデートですか……素敵ですね。この頃フィンリーさまの雰囲気がどこか変わられたような気がするのです。エレノアさま、お幸せそうですわ」

「そうでしょうか、ありがとう。幸せというかとても楽しいです。わたくしのことばかりではなく、クラリスさまとブランシュさまだってお幸せですよね? クラリスさまのお誕生日のドレスの話をまだ聞いていませんし、ブランシュさまの手作りクッキーのお話も聞かなくては!」

「まあ、エレノアさまもなんとなく雰囲気が違いますわ。でも今のほうがエレノアさまもフィンリーさまもとても素敵です」

クラリスとブランシュにお幸せそうと言われて、恥ずかしいけれどとても嬉しい。
実際、入れ替わりが戻った後のフィンリーさまは、フィンリーさまだけまた誰かと入れ替わってしまっているのではと思うほどに、優しくて少し恥ずかしくなるようなお気持ちを言葉にしてくれる。
思い切ってそう口にしたら、
『誰かとの入れ替わりではなく、素直ではない自分が転がり出て行ったのだ』と、
笑いながら答えてくださった。
私の中から出て行って欲しい弱い自分は、まだ私の中に居て時々こちらをちらっと見る。


これまでのように席に着いた。
フィンリーさまは痛む手足でどうしているだろう。
二人が入れ替わっていたときに、その痛みを自分の痛みとして私は知っている。

フィンリーさまは学園には杖を使わずに行くと言っていた。
馬車を降りてからそんなに距離はないし、学園内ではあまり移動しないようにするからと。
その気持ちは少し分かるような気がした。
たくさんの友人たちの手前、あまり弱弱しいところを見せたくないのかもしれない。
門まで迎えに行ったほうがいいだろうかと思案していたら、廊下が少し騒がしくなり、
フィンリーさまが杖をついて歩いてやってきた。

フィンリーさまは、ありのままの姿のほうをお選びになったのだ。
杖をつく弱弱しい自分を見せるほうを。
そんなフィンリーさまは、とてもお強くて素敵だわ。

「まあ、杖をついて登園だなんて、そんなに大袈裟なお怪我でしたのね」

そのときメイジー嬢が私に聞こえるようにそう言った。
聞こえるようにではなく、わざと聞かせているのが分かった。

その声に何が含まれているのか、これまでの私ならその答えが自分なりにみつかるまでは無反応でいることにしていたが、自分もフィンリーさまのようにありのままでいたい。


「そうなのです、大袈裟ではなく足と手の骨を折る大きな怪我でした。最初は熱もあって眠ることもままならず、痛みも相当だったようですわ。
手と足の両方を折っているということは、うまくかばえないということですから、学園に来るだけでも相当大変なのだと思います」

メイジー嬢は驚いた顔で私を見て、すぐに目を逸らした。
そんなメイジー嬢に背中を向けて廊下に出る。
言い返してもすっきりすることもないし、メイジー嬢も特に私の言葉など気にもかけないだろう。
ただ自分の中に何も溜め込まず、その都度外に出していくことをこれからは心がけていこうと思った。


「フィンリーさま、杖でいらしたのですね!」

「ああ、やっぱり杖があったほうがバランスが取りやすいと思ってね。授業が全部終わったら、門のところで待っている。ローレンス家の馬車は来なくていいと伝えてくれたよね」

「はい、今日の帰りはフィンリーさまに送っていただきますと伝えました」

「それならよかった。あ、君のクラスの先生が教室に入ったようだよ、戻ったほうがいい。では帰りに」


フィンリーさまに促され教室に入った。
席に座り、少し落ち着かない気持ちでいる。
自意識過剰かもしれないが、みんなの視線が身体中に刺さるようだ。
恥ずかしさでいっぱいになりながらも、フィンリーさまが杖でやってきたことを嬉しく思っていた。
あの日、体裁を気にして大事なことから目を逸らすのは止めると言ったように、
周囲からどう思われようとも杖をついてきた姿に温かい気持ちになった。

フィンリーさまは言葉だけでなく、きちんと行動にしている。
そして自分もメイジー嬢の言葉に返すことができた。

今まではすべて聞こえないふりをしていた。
近い距離で言われているのだから聞こえていないわけがないのに、そうすることしかできなかった。
でもこれからは明らかに自分のことを言われていたら、それにどんどん応えていこう。
そうしていつか、まだ時々こちらを見ている弱い自分を追い出したい。

もしかしたら、自分たちは入れ替わってに戻ったのではなく、
どこか新たに生まれ変わったのかもしれないと思い始めていた。
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