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最後の六隻

救われるは運命 (1)

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「こちらレッドリーダー、各機散開してケンタウルスⅡを目指せ」

 セシリアの声に、六機まで数を減らした『ケイローン』の編隊が、空になったブースターを切り離し、燃料が許す限り敵艦隊から離れたコースでケンタウルスⅡを目指す。

了解ラージャ、各機、敵艦隊からはなるべく離れろ。また会おう」

 ケントはそう言ってから通信を切り、コンソールに手を伸ばした。ディスプレイには随伴する駆逐艦が一隻、少し離れた位置から『ヴァンガード』の救助に当たっているのが映し出されている。

 ――セシリアの隊は、敵艦から一番はなれた航路か……いいぞ。

「テッド、情報リンクを解除」
「警告、味方機ヘノ衝突ノ危険ガ……」

 言いかけるテッドを無視して、ケントは手動で航路を入力する。

「待ってろよアンデルセン、もう一発、あいつに叩き込んでやる」

 入力したのはエンジンブロックが半壊した戦艦『ヴァンアード』への衝突航路コリジョンコースだ。

「テッド、対艦戦闘用意、目標、敵旗艦『ヴァンガード』」
了解ラージャ

 戦術スクリーンに使用可能な武器が点灯する、装甲の厚い無人機を倒すために開発された、熱核弾頭ニュークを搭載した短距離ミサイルが四発。
 あの大きく開いた敵艦の傷口に叩き込めさえすれば、一矢報いることができるだろう。

「すまんな、セシリア」

 つぶやいてから、操縦桿を握りしめケントはぐいと前をにらみつける。

「こちら、グリーン・スリーよりブルーリーダー」

 その時、アンデルセンの隊で唯一生き残った三番機から通信が入った。

「まだ居たのか」
「アンデルセン隊長の敵討ちなら、お供しますよ」
「バカ野郎が」

 言いながら、ケントはニヤリと笑う。

「こちらブルー・ツー、一人でカッコつけるのはやめましょうや隊長」
「お前もかよ」
「レッドチームのお嬢ちゃんたちに、いいところ見せたいんでさ」

 敵艦隊の後ろを大回りしてゆくセシリアの編隊は、もうレーザー通信の圏外だ。こちらの航路情報も届いていないだろう。

「何番機だ?」
「俺がぞっこんなのは三番機のベアトリスなんで、隊長の彼女じゃねえですよ」
「大バカ野郎が」

 戦艦の様子はわからないが、空域がアレだけデブリまみれなら護衛の駆逐艦から見えていない可能性はある。
 うまく行けばもう一撃くれてやることができるかもしれない。
 それになにより、ケントたちが攻撃に出れば、セシリアの編隊が敵に見逃される可能性が高くなる。

「わかった、死ぬなよ。馬鹿野郎ども」
「どうですかね」
「ベアトリスとデートの約束したのに、死んでたまるかってんですよ」

 死地に飛び込もうというのに、やたらと陽気なバカどもを率いてケントは即席の編隊を組む。

「行くぞ」

 敵艦隊目指して、三機の『ケイローン』が加速を開始した。

「通信限界まで散開しろ、許可はいらん各個の判断で撃て」

 気休めにプラズマステルスを展開、ケントたちは敵艦隊に迫る。
 ここまでくればもう神様の振るサイコロの出目が全てだ。
 持ってる奴がいれば当たる、そういうことだ。

「テッド、射点算出」
了解ラージャ

 光学センサーが捉えた艦影から、対空砲火の密度が低い場所をテッドが算出して表示する。

「上等だ、よくやった相棒」

 爆発した際の安全マージンを取っているのだろう、『ヴァンガード』の後部から少し離れた位置で乗員を救助している駆逐艦。
 テッドがこいつをを盾にするコースを選んだことに、ケントは声を上げて笑った。なるほど、だんだん俺ににてきやがるものだ。

「アリガトウゴザイマス」

 平坦なテッドの声も少し楽しそうに聞こえる。

「グリーン・スリー、エンゲージ」

 戦闘開始の通信が入った、グリーン・スリーが四発のミサイルを一斉射。
 それに呼応するように敵駆逐艦の火器が一斉に火を吹いた。
 少し遅れて『ヴァンガード』の火器が一斉に起動、主砲の光にディスプレイが一瞬ホワイトアウトした。

「あのデカブツ、まだ生きてるじゃねえか、おっかねえな」

 言いながらもケントは笑っていた。
 テッドの奴が駆逐艦を盾にしたおかげで『ヴァンガード』は全力を出せていない、それは確かだ。

 味方の撃った四発の対空ミサイルが駆逐艦に伸びてゆく。
 先行する二発が中間あたりで撃ち落とされる。

「グリーン・スリー離脱、後は頼みます」

 音声通信が入ると同時に、後続のミサイル二発が自爆した。
 核爆発を受けて、あたり一面をノイズが覆い尽くす。

「いい判断だ」

 まるで火球に飛び込むように、ケントは機体を微調整する。
 索敵システムがリブートしたときには、周囲に味方機の姿はなかった。
 落とされたのか、どこかに紛れてしまったのかはもうわからない。

「テッド、手を出すなよ」

 目前に駆逐艦が迫る、後部砲塔が吹き飛んでいるのはブルー・ツーの手柄だろう。

 ――アレを飛び越せば『ヴァンガード』は目の前だ、見てろよアンデルセン。

 鳴り響く衝突警報コリジョン・アラートを無視して、ケントはギリギリまで粘る。
 五〇〇〇ミリ秒、四〇〇〇ミリ秒、カウントダウンがスローモーションで見える。
 回避のリミットを示すカウンターが、二〇〇〇ミリ秒を指した瞬間、ケントはペダルを踏み込んだ。
 スラスターが吹き上がり、機体を敵駆逐艦の甲板スレスレに浮かびあがらせる。

 ――もらった!

 勝利の確信とともに、発射ボタンを押し込んだその時!
 ガンッ! と激しい金属音が機体を揺さぶり機体がスピンした。
 直後にもう一度激しい衝撃。

「テッド!」

 制御できない、そう思ったケントは最後にそう叫んだ。いや、正確なところ叫んだ気がする。
 気がする……というのは、その衝撃でケントは気を失ったからだ。
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