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番外短編 不可思議な廃城
1.聖女様からのご指名
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穏やかな午後の執務室。
椅子にだらしなく腰かけ、いかにも不遜な態度で足を組み煙草をふかしている人。
魔法使いたちが住まう魔塔でも一番てっぺんに部屋を持つことが許されている魔塔主、テオドール・バダンテール。
この人が残念ながら俺の師匠だ。
「……で、ですね。今月の予算が……」
「その報告、いつまで続くんだァ? って。あー、分かった分かった。黙ってるって」
適当に革紐で括られたブロンドの髪、力強い光を放つ赤い瞳。
そして自然と溢れる魔力の圧力が半端ない威圧感で、初めて見かけた人は避けて通る。
職業としては立派な人のはずなんだけど、周りに言われることと言えば……オーガキングやら歩けば街を吹き飛ばすとか、不名誉な二つ名も数知れず。
ここアレーシュ王国随一の魔法使いだと陛下から認められている存在だというのに、自分勝手な性格だしお酒とギャンブルと煙草好きという……典型的自堕落人間だと皆が噂するような人物だ。
その魔塔主の弟子で魔塔の補佐官を勤めているのが、俺、レイヴン・アトランテだ。
師匠には子どもの頃に拾われて以来、十九まで育ててもらった恩もある。
だけど、師匠は人を振り回すのが得意中の得意な人だ。
俺の身にもなって欲しいと何度言っても、煙草も酒もギャンブルもひっくるめてやめてくれる気配はない。
「……ここまではしっかり理解できましたか?」
「理解できたっての。だから、睨むなって」
師匠曰く。俺は違いつやつやとした黒髪で色は地味だが丸くて綺麗な焦げ茶の瞳、全体的に中性的な顔つきで若く見目も整っているらしい。
自分ではそこまでいいとは思っていないんだけど、街の人たちはいつも見目を褒めてくれるからたまに冗談半分で師匠に見た目自慢をふっかける時もある。
師匠には毎日振り回されているけど、誰よりも可愛がってもらっているのも事実で……魔塔主唯一の弟子なのは自分でも誇らしいことだと思ってる。
……絶対に、口に出して言わないけど。
師匠の前で今までのことを少し思い出しながら、俺はいつもの通り魔塔主執務室で淡々と業務報告をしていた。
「――以上です。何か質問はありますか?」
「特にないな。それよりレイヴン、コッチに来て座れ」
「……テオ、聞いてないでしょう? 俺の話。毎回、毎回、何度言えば分かる……っ」
俺の訴えなんていつも無視して、師匠であるテオは強引に俺の腕を引く。
膝の上に無理矢理乗せられて逃げ出そうとするのに、余裕の表情で煙草を揉み消し俺を抱きしめてくる。
俺も振り払えばいいのに……力強く抱きしめられてしまうと安心してしまう。
俺と師匠であるテオは、これでも恋人同士だったりするわけで。
テオのことをなかなか引きはがせない。
テオは俺の黒髪に顔を埋めてご機嫌なようで、鼻歌を歌い始める始末だ。
「ちょっと! 毎回、毎回……この状態で誰かが来たらどうするつも……」
俺の必死の注意も虚しく無視されたと思った時に、執務室の扉が軽く叩かれた。
来客に舌打ちするテオを押しのけて何とか扉の前へ行き、はいと返事をして扉を開く。
「あ、レイヴンちゃんも一緒だったのね。良かったわ。二人にお願いがあったから」
扉の前にいたのは、このアレーシュ王国で唯一の聖女クローディアンヌ・オブ・ミネルファ様だった。
聖女様は普段神殿にお住まいで、外に出ることなど滅多にない。俺は珍しい来客に驚きを隠せなかった。
聖女様の金糸のように美しいブロンドの長い髪と、優しい紫色の瞳はいつも優しい光をたたえている。
身に着けている白く美しいシンプルなドレスが色白い手足と相まって良くお似合いで、思わず見惚れてしまうくらい美しい方だ。
美しい聖女様だが、性別はれっきとした男性で聖女はあくまで役職名。
クローディアンヌ様の本当の名はクロード・オブ・ミネルファ。
双子だったお姉さまが亡くなり、お姉さまの代わりに聖女として使命を果たされているのが今のクロード様だ。
「そんなに驚かれると思ってなかったけれど」
「なんだよ……ババアが魔塔に何の用だ? お前が直接来るとか、嫌な予感しかしねぇんだが」
テオはいつも聖女様に向かって酷いことを言う。俺が何度も注意しているけど全く改めない。
俺はテオをひと睨みしてから、聖女様を室内へ案内する。
聖女様は煙草臭い室内だと感じ取ってしまったらしい。恥ずかしいことだ。
手のひらで辺りに漂う煙をパタパタと仰ぎながら、聖女様は俺が勧めた来客用のソファーへゆったりと腰掛けた。
椅子にだらしなく腰かけ、いかにも不遜な態度で足を組み煙草をふかしている人。
魔法使いたちが住まう魔塔でも一番てっぺんに部屋を持つことが許されている魔塔主、テオドール・バダンテール。
この人が残念ながら俺の師匠だ。
「……で、ですね。今月の予算が……」
「その報告、いつまで続くんだァ? って。あー、分かった分かった。黙ってるって」
適当に革紐で括られたブロンドの髪、力強い光を放つ赤い瞳。
そして自然と溢れる魔力の圧力が半端ない威圧感で、初めて見かけた人は避けて通る。
職業としては立派な人のはずなんだけど、周りに言われることと言えば……オーガキングやら歩けば街を吹き飛ばすとか、不名誉な二つ名も数知れず。
ここアレーシュ王国随一の魔法使いだと陛下から認められている存在だというのに、自分勝手な性格だしお酒とギャンブルと煙草好きという……典型的自堕落人間だと皆が噂するような人物だ。
その魔塔主の弟子で魔塔の補佐官を勤めているのが、俺、レイヴン・アトランテだ。
師匠には子どもの頃に拾われて以来、十九まで育ててもらった恩もある。
だけど、師匠は人を振り回すのが得意中の得意な人だ。
俺の身にもなって欲しいと何度言っても、煙草も酒もギャンブルもひっくるめてやめてくれる気配はない。
「……ここまではしっかり理解できましたか?」
「理解できたっての。だから、睨むなって」
師匠曰く。俺は違いつやつやとした黒髪で色は地味だが丸くて綺麗な焦げ茶の瞳、全体的に中性的な顔つきで若く見目も整っているらしい。
自分ではそこまでいいとは思っていないんだけど、街の人たちはいつも見目を褒めてくれるからたまに冗談半分で師匠に見た目自慢をふっかける時もある。
師匠には毎日振り回されているけど、誰よりも可愛がってもらっているのも事実で……魔塔主唯一の弟子なのは自分でも誇らしいことだと思ってる。
……絶対に、口に出して言わないけど。
師匠の前で今までのことを少し思い出しながら、俺はいつもの通り魔塔主執務室で淡々と業務報告をしていた。
「――以上です。何か質問はありますか?」
「特にないな。それよりレイヴン、コッチに来て座れ」
「……テオ、聞いてないでしょう? 俺の話。毎回、毎回、何度言えば分かる……っ」
俺の訴えなんていつも無視して、師匠であるテオは強引に俺の腕を引く。
膝の上に無理矢理乗せられて逃げ出そうとするのに、余裕の表情で煙草を揉み消し俺を抱きしめてくる。
俺も振り払えばいいのに……力強く抱きしめられてしまうと安心してしまう。
俺と師匠であるテオは、これでも恋人同士だったりするわけで。
テオのことをなかなか引きはがせない。
テオは俺の黒髪に顔を埋めてご機嫌なようで、鼻歌を歌い始める始末だ。
「ちょっと! 毎回、毎回……この状態で誰かが来たらどうするつも……」
俺の必死の注意も虚しく無視されたと思った時に、執務室の扉が軽く叩かれた。
来客に舌打ちするテオを押しのけて何とか扉の前へ行き、はいと返事をして扉を開く。
「あ、レイヴンちゃんも一緒だったのね。良かったわ。二人にお願いがあったから」
扉の前にいたのは、このアレーシュ王国で唯一の聖女クローディアンヌ・オブ・ミネルファ様だった。
聖女様は普段神殿にお住まいで、外に出ることなど滅多にない。俺は珍しい来客に驚きを隠せなかった。
聖女様の金糸のように美しいブロンドの長い髪と、優しい紫色の瞳はいつも優しい光をたたえている。
身に着けている白く美しいシンプルなドレスが色白い手足と相まって良くお似合いで、思わず見惚れてしまうくらい美しい方だ。
美しい聖女様だが、性別はれっきとした男性で聖女はあくまで役職名。
クローディアンヌ様の本当の名はクロード・オブ・ミネルファ。
双子だったお姉さまが亡くなり、お姉さまの代わりに聖女として使命を果たされているのが今のクロード様だ。
「そんなに驚かれると思ってなかったけれど」
「なんだよ……ババアが魔塔に何の用だ? お前が直接来るとか、嫌な予感しかしねぇんだが」
テオはいつも聖女様に向かって酷いことを言う。俺が何度も注意しているけど全く改めない。
俺はテオをひと睨みしてから、聖女様を室内へ案内する。
聖女様は煙草臭い室内だと感じ取ってしまったらしい。恥ずかしいことだ。
手のひらで辺りに漂う煙をパタパタと仰ぎながら、聖女様は俺が勧めた来客用のソファーへゆったりと腰掛けた。
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