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第十二章 準備をする魔塔主と寂しがる弟子

342.打って変わって穏やかな朝<テオドール・レイヴン視点>

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 レイヴンは俺が座るのを見届けてから、向かいに腰掛ける。
 真面目な弟子は小声でいただきますと呟いて両手を合わせると、カップを手に取った。

「……テオ、昨日眠れなかったんですか? いつもより眠そうな気が……」
「まぁ、久々に盛り上がったしなァ」

 ニィと笑ってレイヴンを見遣る。
 レイヴンは、かぁっと頬を赤くして分かりやすく反応を返してきた。

「人が真面目に聞いてるのにまたそういうことを……心配した俺がバカでした」
「……バカじゃねぇよ。よくそんな些細なことが分かるよなぁって思っただけだ。しっかし珈琲淹れるのもうまくなったよなぁ」
「毎日のように見てれば何となく分かりますよ。別になんでもないのならいいですけど。珈琲は誰かさんがうるさいので自然と。ほら、ちゃんと野菜も食べてくださいね?」
「あぁ? 野菜は別にいらねぇけど。ぁー、分かったよ。食べさせてくれたら食べてやるから」

 レイヴンは嫌がる俺にニコっと笑いかけると、思い切りフォークにさした葉物を俺の口に押し込んできた。
 可愛くない弟子の優しさの欠片もないやり方に、さすがの俺も少し驚いてむせた。

「おっまえなぁ!」
「はいはい、いい年なんですから好き嫌いせずに食べましょうね。可愛い弟子が作ったご飯が食べられないだなんて、そんなこと師匠は言いませんよね?」
「こういう時だけカワイコぶりっ子するんじゃねぇっての」
「テオー。俺の料理……食べてくれますよね?」

 レイヴンは机に両肘を置いて俺をじっと見つめてくる。
 きゅるんと音が鳴るような可愛らしさを込めた表情を作りやがって。
 クッソ……顔がイイってのは得だよな。

 ワザとだと分かってはいるんだが、レイヴンに可愛い顔をされると言うこと聞くしかねぇ気がしてくる。
 頭を掻きながら仕方なく野菜を噛み砕いて咀嚼した。
 
「ふふ……ほら、食べられるじゃないですか」
「可愛い弟子は師匠を脅したりしないだろうが。普段から可愛く話しかけてくれりゃあ言う事を聞いてやるのによ」
「……嘘つき。俺が頼んだって自分のやりたいことを優先するくせに」
「それは時と場合によるだろ。まぁいいや。折角作ってくれたもんは残したりしねぇよ」

 両手を上にあげて降参の意を示す。
 ここは俺が折れるしかねぇか。
 大人しくサラダにも手を付けて、静かに食べ進めていく。
 
 レイヴンは俺が素直にサラダを食べるのを見てご満悦らしい。
 楽しそうに俺へ笑いかけてから、ゆっくりとスープを飲んでいく。

 +++

 こんな穏やかな朝が毎日迎えられたらいいのに。

 テオは何も言わないけど、たぶん何かあったのだろう。
 ――そんな気がするから。

 今はまだこの小さな幸せを大事にしたいと、心の中で思いながらパンを齧る。

「ったく。お前もすぐ顔にでるよな。心配するなって。後でちゃんと説明してやるから、今はうまいメシを食っちまおうぜ」
「……はい」

 テオの言葉に素直に頷いて、今は俺も深く考えるのをやめた。
 この時間を、楽しく過ごそう。
 テオと一緒にいられることが、何より嬉しいから。

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