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第十章 たまには真面目な魔塔主といつも真面目な弟子

275.召喚されたのは<ウルガー視点>

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 剣と固いものがぶつかり合う音に気付き、身体が反射的に動く。
 駆け寄った俺を認識した騎士が、助けを乞うように声をあげる。

「副団長っ!」
「コイツが目撃されたヤツってか? 今度は熊さんかよ!」

 大人よりも一回り大きな黒い熊が、騎士を潰そうと吠えながら腕を振り下ろした後だった。
 熊に襲われた騎士は鋭い爪を剣で防いだが、力が強いせいで足が地へとめり込んで動けない。
 
 もう一人の騎士は、どう攻撃したものかと攻めあぐねて様子見しているのが分かる。
 一旦下がらせて、別の場所から魔物が現れた時にも対処できるように距離を取らせた。
 
 しょうもない冗談でも言ってないと、真面目にやってられないんだよコッチは!
 熊との距離を一気に詰めて、右目に向かって斬りかかる。

「ガァァッッッ!!」

 熊は騎士に振り下ろそうとした腕を俺へと切り替えて、虫でも払うかのように腕を横薙ぎに振るう。
 瞬時に防御態勢へ切り替えて、剣を構え直す。
 刃部分を手のひらで支え、何とか風圧と熊の腕をいなして一旦後方へと飛び退いた。
 剣で切り裂いた風圧が嫌な音を立てて辺りの木々に傷を付け、雑草を吹き飛ばしていく。

「あっぶな! コイツ、知能が高いのか?」
「ウルガー! アレは……ジャイアントベア?」

 後からレイヴンが駆けつけて、俺と側にいる騎士に強化ブースト防御プロテクションを連続詠唱で順次かけていく。
 詠唱の速さはテオドール様にも勝るとも劣らずで、俺たちの周りは暖かな光に包まれた。
 レイヴンは真面目で優秀な魔法使いだから、側にいてくれると安心するんだよな。

「テオドール様は?」
「先にあの魔法陣を何とかするって。今回仕込みをするって言ってたから、何か細工をするつもりなのかもしれない」
「壊すだけじゃなくて利用するつもりなのか。じゃあ、コイツはとりあえず静かにさせる目標でいいか。倒さなくても」
「倒せるのなら倒した方がいいと思うけど……」

 騎士も爪を弾き返すと、一旦下がって熊との間合いをとる。
 よく熊さんの一撃を防げたな。
 後で団長に報告しておくか。
 
 涎を垂らして狙いを定めようとしている熊の様子を見ながら、レイヴンに目配せする。
 レイヴンはすぐに頷いて、次の詠唱を始めた。

「……氷の棘アイスソーン

 レイヴンが熊を指差すように指先を差し向けると、無数の氷の棘が熊に向かって飛んでいく。
 熊は無数の棘に反応して腕を振り回す。
 見た感じ威力は低そうだが、目眩ましとしては効果がありそうだ。

 さっすがレイヴン。
 これなら攻撃が当てやすい。
 
 作ってもらった隙を生かして、熊が怯んだ一瞬を見計らい、自分の間合いへと距離を詰める。
 
 先程切りそこねた目を狙った攻撃を仕掛け、勢いよく剣を振るった。
 思い切り横に薙ぎ払うと、今度は熊の顔に傷を負わせることに成功する。

「グゥゥゥガァァーーーッッ」

 怒り狂う熊は両手を振り回す。
 俺の攻撃で両目が潰れ、狙いは定まらない。
 やたらめったら腕を振り回して、辺りの木にぶつけては吠え狂っている。

「団長、第二撃はどうしますか?」
「テオドール様のお考えもあるからな。どうするか……」

 熊の攻撃が当たらない適度な距離を取りながら、こちらに飛んでくる攻撃をいなす。
 追撃を加えるか否かで、レイヴンに視線を投げる。

「……っ! ウルガー、こっちへ!」

 何かを感じ取ったレイヴンが俺に呼びかける。
 俺も、一旦騎士に下がる指示を出す。
 熊に対峙していた騎士と俺は、暴れる熊を置き去りにしてレイヴンの元まで戻ってくる。
 熊への警戒と、剣の構えは解かずに、レイヴンの横で声だけ発して問う。

「どうした?」
魔力マナの流れが変わった! 師匠が仕込みを終えたはず!」

 レイヴンが伝えるのと同時に暴れていた熊が黒い光に覆われていき、その光が全身を包み込むと唸り声だけを残してその姿は掻き消えてしまった。
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