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第七章 限界突破のその先は?
75.信頼と親愛
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俺は椅子へ戻ると、目を瞑っているラウディの前髪へ手を伸ばして優しくハサミを入れた。
サラサラの灰緑色の前髪は、切ってしまうのは勿体ないくらいだったけど……ラウディには明るく前向きになってほしいなと思って切り進めていく。
「急な提案なのに、聞いてくれてありがとな」
「大丈夫。ハルが決めてくれたことだから、嬉しい」
前髪を切っていくと、ラウディが微笑んでいるのもよく分かる。
あまり短くしすぎずに、梳くようなイメージで切っていく。
哩夢にウィッグの前髪を切れと頼まれた時に、前髪の切り方で調べておいてよかった。
「こんな感じかな? できた」
ハサミを置いて、落ちた髪を拾い集めているとラウディがゆっくりと目を開けた。
俺は屈んでいたから、下から見上げる形になったけど……思わず息を飲みこんだ。
「ハル、どう?」
「……」
返事ができない。俺は慌てて立ち上がり、髪をそっとゴミ箱へ捨ててから無言で元の椅子へ座り直す。
そして、改めてラウディをじっと見つめてみた。
「……」
「ハル?」
「……切ったの、失敗だったかも。何だよ……精霊様って、キレイすぎるだろ……」
自分との違いを見せつけられて、恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。
自分から髪を切るって言ったくせに、今更カッコ悪いよな。
「ハル……耳まで赤くなってる。そんなに良かった?」
「じ、自分で言うか? 普通……これだからイケメンは……っ!」
悔し紛れに言ったのに、ラウディはクスクスと笑うばっかりだ。
それに俺に近づいて耳の縁をなぞってくる。
「や、やめろよ。からかうなって」
「どっちかって言うと……可愛がってる。そんなに喜んでもらえて嬉しい」
「はあ? 喜んでなんかいな……」
文句を言おうと顔をあげる。
俺の耳に触れながら、ラウディが目の前で微笑していた。
いつも何気に見惚れちゃってたけど、やっぱり……見惚れる。
「ハル、今どんな顔してるか分かる? 顔は真っ赤だし、目もうるうるしてる」
「あのなあ、恋する乙女じゃないんだから俺はそんなつもりじゃ……」
「僕にとっては、ハルが一番可愛いよ」
「だから、俺は男だから可愛いって言われても困るって……」
結局、ラウディは最後まで言わせてくれなかった。
ラウディの唇は俺の唇にピッタリと重ね合わされて、言葉ごと奪ってしまう。
吸い付くような唇の感触に、心の中で必死に抵抗してるのに抵抗しきれない。
「んむぅ! むー!」
「……ん? 嫌?」
「嫌、っていうか……キス、多くない?」
「キスはあいさつ、でしょう?」
俺の訴えにラウディは俺の言葉で返してくる。
俺の頬へ手を触れながら、しれっと言ってくる辺り……色恋沙汰は慣れてる設定?
誰だよ、そんな設定のキャラにしたヤツは!
しかも、相手が男でも抵抗なく言わせるのはおかしいだろ!
「あいさつだとしても、多いって! それに、俺は男で可愛いって言われてもほら……」
「ん? ハルはハル。ハルだから、キスしてる。ハルは……無理強いしなかった。僕の態度を見ても、普通に接してくれた」
「ラウディ……」
「距離感を詰める訳でもなく、僕自身に選択肢をくれた。だから……嬉しかった。優しさだけじゃなくって、僕に勇気をくれた人だから……」
ラウディにぎゅっと抱きしめられる。
抱きしめられたのはもう何度目か分からないけど、ラウディの気持ちは温もりを通してじんわりと俺の心へ伝わってくる。
大した事もしてないし、俺はただ単に距離を取っただけだっていうのに……勘違いでここまで好意を寄せられるなんて思わなかった。
「ハル、ありがとう。僕に向き合ってくれて。だから、ハルも……自分の気持ちを大切にしてほしい」
「俺の……?」
「そう。僕も……急がない。でも、僕の気持ちは伝えたかった」
「そっか……。こちらこそ、ありがとうなラウディ」
ラウディは俺の額へキスを落とし、続いてまぶたへキスをする。
これはモグの教えてくれた、あなたを信頼していますという意味だ。
抱きしめる行為も親愛の一つだって言っていたけど、ラウディは最近特にしてくれるようになったよな。
サラサラの灰緑色の前髪は、切ってしまうのは勿体ないくらいだったけど……ラウディには明るく前向きになってほしいなと思って切り進めていく。
「急な提案なのに、聞いてくれてありがとな」
「大丈夫。ハルが決めてくれたことだから、嬉しい」
前髪を切っていくと、ラウディが微笑んでいるのもよく分かる。
あまり短くしすぎずに、梳くようなイメージで切っていく。
哩夢にウィッグの前髪を切れと頼まれた時に、前髪の切り方で調べておいてよかった。
「こんな感じかな? できた」
ハサミを置いて、落ちた髪を拾い集めているとラウディがゆっくりと目を開けた。
俺は屈んでいたから、下から見上げる形になったけど……思わず息を飲みこんだ。
「ハル、どう?」
「……」
返事ができない。俺は慌てて立ち上がり、髪をそっとゴミ箱へ捨ててから無言で元の椅子へ座り直す。
そして、改めてラウディをじっと見つめてみた。
「……」
「ハル?」
「……切ったの、失敗だったかも。何だよ……精霊様って、キレイすぎるだろ……」
自分との違いを見せつけられて、恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。
自分から髪を切るって言ったくせに、今更カッコ悪いよな。
「ハル……耳まで赤くなってる。そんなに良かった?」
「じ、自分で言うか? 普通……これだからイケメンは……っ!」
悔し紛れに言ったのに、ラウディはクスクスと笑うばっかりだ。
それに俺に近づいて耳の縁をなぞってくる。
「や、やめろよ。からかうなって」
「どっちかって言うと……可愛がってる。そんなに喜んでもらえて嬉しい」
「はあ? 喜んでなんかいな……」
文句を言おうと顔をあげる。
俺の耳に触れながら、ラウディが目の前で微笑していた。
いつも何気に見惚れちゃってたけど、やっぱり……見惚れる。
「ハル、今どんな顔してるか分かる? 顔は真っ赤だし、目もうるうるしてる」
「あのなあ、恋する乙女じゃないんだから俺はそんなつもりじゃ……」
「僕にとっては、ハルが一番可愛いよ」
「だから、俺は男だから可愛いって言われても困るって……」
結局、ラウディは最後まで言わせてくれなかった。
ラウディの唇は俺の唇にピッタリと重ね合わされて、言葉ごと奪ってしまう。
吸い付くような唇の感触に、心の中で必死に抵抗してるのに抵抗しきれない。
「んむぅ! むー!」
「……ん? 嫌?」
「嫌、っていうか……キス、多くない?」
「キスはあいさつ、でしょう?」
俺の訴えにラウディは俺の言葉で返してくる。
俺の頬へ手を触れながら、しれっと言ってくる辺り……色恋沙汰は慣れてる設定?
誰だよ、そんな設定のキャラにしたヤツは!
しかも、相手が男でも抵抗なく言わせるのはおかしいだろ!
「あいさつだとしても、多いって! それに、俺は男で可愛いって言われてもほら……」
「ん? ハルはハル。ハルだから、キスしてる。ハルは……無理強いしなかった。僕の態度を見ても、普通に接してくれた」
「ラウディ……」
「距離感を詰める訳でもなく、僕自身に選択肢をくれた。だから……嬉しかった。優しさだけじゃなくって、僕に勇気をくれた人だから……」
ラウディにぎゅっと抱きしめられる。
抱きしめられたのはもう何度目か分からないけど、ラウディの気持ちは温もりを通してじんわりと俺の心へ伝わってくる。
大した事もしてないし、俺はただ単に距離を取っただけだっていうのに……勘違いでここまで好意を寄せられるなんて思わなかった。
「ハル、ありがとう。僕に向き合ってくれて。だから、ハルも……自分の気持ちを大切にしてほしい」
「俺の……?」
「そう。僕も……急がない。でも、僕の気持ちは伝えたかった」
「そっか……。こちらこそ、ありがとうなラウディ」
ラウディは俺の額へキスを落とし、続いてまぶたへキスをする。
これはモグの教えてくれた、あなたを信頼していますという意味だ。
抱きしめる行為も親愛の一つだって言っていたけど、ラウディは最近特にしてくれるようになったよな。
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