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第一章 レトロ喫茶のマスター、はじめます

10.いつからだっけ?

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 ずっと普通に喋ってるから気づかなかったけど、俺以外はみんな名前で呼び合ってる気がする。
 俺は癖でとっきーとげんちゃんって呼んじゃってるけど、二人は俺のこと蒼樹あおいって呼んでるもんな。

「そういえばいつから二人に名前で呼ばれるようになったんだっけ?」
「さあー? 俺は別に意識してないから、適当ー」
「俺は中学の時くらいだった気もするが、正確には覚えてないな」

 とっきーは確実にはぐらかしてるからおいといて、げんちゃんの言うことが正しいなら結構前からか。
 わざとらしく呼ばれなきゃ呼び名はなんでも構わないけど、一度気になるとなんか気になるんだよな。
 
「なんで今それ引っ張った訳? 俺があおちゃんって言って、からかったから?」
「それもあるけど、なーんか気になってさ」

 俺が二人を見ると、げんちゃんが無言でとっきーへ視線を流していく。
 とっきーは、俺? って面倒臭そうに頬杖つきながら俺の顔を眺めてきた。

「名前で呼ぶ意味はあるんだけど、蒼樹には言わない」
「はあ? あれこれ俺に内緒なことが多くないか?」
「気を悪くさせたら悪い。だが、悪いことじゃないのは俺も保証する」

 保証するって……どういうこと?
 最近、俺には内緒の流れが増えて来てるのが謎なんだよな。
 俺だけ蚊帳の外なのが、良い意味のサプライズならいいんだけどさ。

「そこまで言うなら俺も追及はしないけどさ。俺が色々頼み事したから面倒とかだったら……」
「それはない!」
「絶対ない!」

 俺が言いかけると、二人から思い切り否定された。
 ますます分からない。
 でも俺に腹を立ててるっていうなら、とっきーは我慢しなさそうだから気にしすぎか。
 
 それに、げんちゃんが悪いことじゃないって言ってるもんな。
 げんちゃんは嘘をつかないから、信用できる。
 とっきーは口が上手いから、俺じゃ太刀打ちできないことが多々あるからな。

「分かった。ならいいよ。ただ、俺は別に可愛くない。というか、誰からも言われたことない」
「それはさー。蒼樹が気づいてないだけで、昔から女子は蒼樹くん可愛いーって騒いでたんだって。大学の時もそうだった」
「そうだな。蒼樹は可愛い」
「いやいや、げんちゃんまでおかしくなってる。どうせ言われるならカッコイイとか言われたい……って。え、俺大学の時そんなこと言われてた?」

 この話は収集つかなくなりそうだから、諦めることにした。
 俺がモテてたら、今頃彼女がいるっての。
 流れを断ち切るように、二杯目のコーヒーを淹れに行こうと席を立つ。

「この話はおしまいでいいよ。訳分かんないし。とにかく、今日もありがとな」
「自分で言っておいて適当に終わらせるのかい! って、蒼樹はいつも適当か。俺らがついてるんだから好きにやってみろって。本当にダメな時は俺が止めるからさ」
「そうだな。難しいことは良く分からないが、蒼樹の店だから蒼樹がやりたいようにやってほしい」
「さすが! 俺の幼なじみは優しいよなー」

 素直に嬉しくなって笑うと、二人にそっぽ向かれた。
 俺が笑うと変なのか? まあ、気にしても仕方ないって分かったから気にせずカウンターへ向かうことにした。
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