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第一章 レトロ喫茶のマスター、はじめます

8.スイーツは大人の味

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 とっきーと雑談しながら待ってたけど、時間がかかると言われて経営に関わる話もしながら出来上がりを待つ。
 カップラーメンじゃないんだから、そんなに早くはできないと思ってたけどそこそこ時間がかかるものなんだな。
 
 話し合いを続けているうちに、俺たちの座るテーブルにスイーツが運ばれてきた。
 見た目は茶色くてシンプルなケーキの一種に見えるけど、思い当たる名前は思い浮かばない。
 とっきーがじーっと見ながら首を傾げてる。

「見た目は派手さに欠けるけど、コイツは何者?」
「サバラン。大人向けのフランスのスイーツだ。洋菓子店で取り扱うところもある」
「この店で出したことはないな。じいちゃんは分かりやすいのしか出してなかったからな。プリンとかショートケーキみたいな定番のやつ」

 サバランの上には、たっぷりの生クリームとチェリーが乗っかってる。
 フルーツは季節によって、なんでもいいらしい。
 げんちゃんも席についたので、三人で試食する。

「お……洋酒? お子様向けじゃないけどシャレてんなコレ」
「シロップも甘いから、苦めのコーヒーと合いそう」
「洋酒の量は調節できるが、洋酒を染みこませたものが多いな。ブリオッシュ生地だからパンの一種だ」

 げんちゃんの説明でも全部は理解できないけど、要は大人の洋菓子ってことか。
 俺は嫌いじゃないけど、とっきーは首を捻ってるな。

「好き嫌いが出るかもしれないな。まあ、限定メニューなら良さそうだけど」
「でも、女子受けしそうだけどね。お子様には食べさせないでくださいって注釈入れればいいんじゃない?」
「あくまで試作だから、無理して採用する必要もない」

 人の好みに全部合わせてたら大変だ。
 定番は定番で、限定は限定で思い切ってもいいと思うけどな。
 とっきーは商売として考えてるだろうから、洋菓子店でもないのにって感じなのかもしれない。

「げんちゃんも絶対に採用してくれって意味で作った訳じゃないし。案の一つでしょ? 今は美味しく食べればいいよ。折角作ってもらったんだし」
「ホント蒼樹あおいはなんも考えてないんだよな。まあ、マスターが経営者だし俺らは従うだけですけど」
「悪い。蒼樹に喜んでもらいたくて、少し張り切りすぎた。もう少し無難な物を作れば良かったな」

 げんちゃんが少し落ち込んでる気がする。
 俺のために考えてくれたことを無にはできない。

「分かった。これともう一つ違う味で作ってもらえばいいだろ? 洋酒をあんまり使わないヤツで。それならとっきーも構わないだろ?」
「別に俺も文句つけてる訳じゃないんだけど。なーんか俺を悪者にしてないか?」

 そう言いながらちゃんと食べてるから、とっきーも嫌いって訳じゃないんだよな。
 もっと簡単なメニューで利益を出せばいいんだから、そこまで気にしなくてもいいと思う。
 
「蒼樹……蒼樹は優しいな。分かった。違う味も考えてみる」
「うん。頼んだげんちゃん。あとメインのスイーツはプリンアラモードって決まってるから」
「あー……それは分かるわ。プリンさえ作っておいてもらえれば盛り付けは何とかなるもんな」

 レトロ喫茶と言えばプリンなイメージがあるんだけど、うちの店のプラムコレクトでもプリンアラモードは外せないメニューだ。
 材料と分量が書いてあったノートは残ってるはずだから、それを参考にすれば再現できる。
 俺の舌はじいちゃんの味を覚えてるし、多少違ったとしてもじいちゃんは優しいから怒らないはずだ。
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