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有須先輩は怠惰で甘い<ケーキバース>

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 今日は放課後の生徒会室に呼び出されたはずなのに、有須先輩は人を呼び出しておいて机に突っ伏して眠っている。
 生徒会長なのにやたらと昼寝ばかりしているのは何故なのだろうか。
 やる時はやるのかと思いきや、いつもやろうとするだけで結局周りに助けられている。
 結局、有栖先輩は何もしていないと思う。

「有須先輩、このまま眠ってると夜になって朝になりますよ。早く起きてください」
「もう少し寝かせて……」
「先輩が起きないなら、俺、先輩のこと食べますけど。いいですか?」
「……起きる。起きるから、食べないでぇー……」

 相変わらず年上な気がしない。それでも先輩なのだろうか?
 俺にとってはもう、先輩しかいないのだから不安で堪らないけれど。

 俺は所謂『フォーク』という人種で、五年前くらいから味覚がなくなってしまった。
 何を食べても美味しくないし、楽しくもない。
 だから勉強をして気を紛らわせていた結果、この進学校に来ることができた。
 フォークであることを除けば普通の生活を送れる。
 食が全く進まないことを隠し、地味な真面目君を演じながら進学の点数稼ぎで生徒会に立候補して入ったのだが――

 +++

「新入生? 初めまして、会長の有須 凌ありす りょうです」
「あ……」

 俺は会長の有須先輩に出会い、気づいてしまった。
 有須先輩こそが俺にとっての『ケーキ』なのだと。
 先輩を見ていると全てを食べてしまいたくなる衝動に駆られるが、処方薬のおかげでその衝動は大分抑えられていた。
 じゃなかったら、この場でなりふり構わず問答無用で食べようとしたかもしれない。
 それくらい、先輩は魅力的に見えた。

「初めまして。那波 颯人ななみ はやとです」
「那波君か。よろしくね、じゃあ他のみんなの紹介を……」

 +++

「先輩が起きないから、生徒会に入った頃のことを思い出しました。その後も先輩、俺に容赦なく色々と押し付けて。ご褒美がなかったら、もう何もしないところですからね」
「ん、そうだった? そんなつもりはなかったけど……ごめん」

 窓から差し込む日が先輩の髪の毛に反射して、キラキラと光って俺の目に映る。
 先輩は漸く少しだけ身体を起こした。
 先輩の側によると、可愛くもなんともない大欠伸をする。

「ふわぁ~……ごめん、そろそろ帰ろうか」

 欠伸をしたせいで、先輩の目尻には涙が溜まっているのが見える。
 俺は堪らなくなって、先輩に顔を近づけた。
 そのまま舌を伸ばして、目尻の涙を舐め取る。

「ん。先輩、今日は綿あめみたいな味がします」
「綿あめかー。それはまた甘そうだね」
「先輩、もっと食べさせて欲しいので。欠伸をあと十回してもらっていいですか?」
「えぇーどうしようかな。君に食べさせるために十回も欠伸をしなきゃいけないのか。でも那波君になら、いいかなぁ」

 先輩は言葉まで甘いせいで、俺に自制心がなかったら言葉ごと全て食べてしまいたくなる。
 その気持ちを心の奥に閉じ込めて、俺は先輩にキスをした。
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