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パーシヴァルの膝で目覚めた朝は

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※体調不良のため、少々短めでお届けしております。申し訳ございません。



「んー……」
 心地よい水中からゆっくり上昇するように意識が浮きあがる。
 なんだ、いつの間に眠ちゃってたのか……? なんだか、すごくよく眠ったな。
「目が覚めたか?」
「んん……パーシヴァル?」
 上から見下ろされて、自分がパーシヴァルの腿を枕に眠っていることに気がついた。
「うわ! 俺、いつのまにか眠ってた、ごめん!」
 一体なんでこんな事に? と思って記憶をたぐれば、目が覚める前の最後の記憶はパーシヴァルとの接吻だ。あんまりにも接吻が気持ち良すぎて、そのまま眠っちゃってたのか! ありえないな俺!
 慌てて起きあがろうとしたら、パーシヴァルにやんわりと体を抑えられた。
「薬湯の効能で眠っていたんだ。急に起きないほうがいい」
「そうなの……?」
「体に入った毒物は血と共に全身を回る。だから眠ることで体の働きを鈍らせて、毒の広がりを抑えるんだ」
 なるほど、あのお茶にはそんな効果もあったのか。接吻が気持ちよかっただけじゃなかったんだな。
 それにしても、俺は結構な時間眠っちゃったようだ。窓の外が普通に夜明けに見えるんだけど?
「えーっと……もしかして、もう朝だったりする?」
「ああ、よく眠っていた」
 たいそう暖かな目で言われてしまった。
「うわっ! ごめん! 重かっただろ? それにパーシヴァルだって怪我してるんだから、俺のことなんて放っておいて休んでくれて良かったんだよ!」
 パーシヴァルはずっと俺の枕になってくれていたんだ。パーシヴァルだって疲れているはずなのに、本当に申し訳ないことをした。
「俺がサフィラスの側にいたかっただけだ。それに、こうしているだけでも十分休息になった。それよりも、腹は減っていないか?」
「そういえば……少し減ってる、かも?」
 考えてみれば、昨日の朝に食べたきり。あのお茶会で飲み食いしたものは当然数には入らない。それなのに、思ったほどはお腹は減っていない。いつもの俺なら間違いなく肉を要求している。
 これもあの薬湯の影響なのかな。
「何か軽く食べられるものを持ってくる。待っていてくれ」
「うん」
 パーシヴァルは壊れものを扱うかのように、そっと俺の体を起こすと部屋を出ていった。
 今回はだいぶ心配をかけたからなぁ……なんとなく、暫くの間、パーシヴァルの心配性は続きそうな気がする。
 当分の間は側を離れないようにしよう。
 俺は立ち上がると窓を開く。朝の澄んだ空気がさっと部屋の中に流れ込んで来た。
「それにしても、爽やかな朝だなー!」
 思い切り伸びをして深呼吸をする。
 おっと、そうだ。もうクロウラーに部屋番をしてもらう必要もないな。いつまでもあんな国に一人しておくなんてかわいそうだ。早く帰してあげないと。
「長い間頑張ってくれて、ありがとう。お疲れ様」
 お礼の魔力をたっぷり渡して、クロウラーを幻獣界に帰してあげる。幻獣を幻獣界に戻すことは離れていても可能だ。俺との魔力の繋がりを切るだけでいい。わざわざ向こうに出向いてうっかりあいつらに見つかっても嫌だし。今の所、俺たちは行方不明だ。
 調子は上々と軽く体を動かしていれば、サンドウィッチと果物が乗ったトレイを持ってパーシヴァルが戻ってきた。
 いつものようにパーシヴァルがお茶を淹れてくれて、二人でサンドウィッチを食べる。
 何が入れられているのかなんてことを心配する必要なく食べられるって、本当に幸せなことだよなぁ! 美味しいフィリングを予想するのも楽しい。
 サンドウィッチには薄く切った肉とチーズに野菜まで挟んであって、味付けのソースがとても美味しい! 俺は安心安全な、体に優しいサンドウィッチを心から楽しむ。
 一つ目を平らげて、二つ目に手を伸ばした時にふと思い出した。そういえば、お茶会の詳細を晩餐の時に報告するんじゃなかったったけ?
「……お茶会の報告はどうなったの? 昨日アデライン夫人は晩餐の時にって言っていたと思うけど」
「報告は今日になったから大丈夫だ」
「それって、もしかしなくても俺のせいだよね、ごめん」
 思い切り熟睡しちゃったからな。しかもパーシヴァルを巻き込んで。
「いや、今日にもケルサスに留まっている騎士から何かしらの報告があるだろうから、報告が届いてからの方がいいだろうと言うことになった」
「そうなんだ」
 とはいえ、やっぱり俺に気を遣ってくれたんだろうな。悪いことをした。
 
 朝食を食べ終わると、パーシヴァルは鍛錬に行ってしまった。
 昨日の今日で、もう鍛錬に励んでるんだから真面目だな。俺の枕をしていたせいで、きっと寝不足だろうに。パーシヴァルのことだから、無茶はしないとは思うけど。
 そんなことを考えながら窓の外を眺めていたら、アンナさんとクララベルさんがやってきて朝の身支度を手伝ってくれた。この城でお世話される事にもすっかり慣れた。
「あちらでもちゃんと髪の手入れを怠らず続けてくださっていたんですね、嬉しいですわ」
 クララベルさんがそう言いながら、機嫌よく髪を溶かしてくれる。
 すみません。俺じゃないです。洗った髪をろくに拭かない俺を見かねて、毎夜、手入れをしてくれたのはパーシヴァルです。とは、さすがに言えないよな。
 パーシヴァルは自分には厳しいが、俺には大変甘い。俺もたまにはパーシヴァルの髪の手入れとかしてあげた方がいいかな? それともマッサージか? なんてことを呑気に考えていたら、パーシヴァルのお迎えが来た。
「サフィラス、風隼ふうじゅんが来た。もし準備が整っていれば、一緒に来てくれないか?」
「ケルサスからの連絡ってやつだね。大丈夫、もう準備はできているよ。クララベルさん、アンナさん、ありがとう」
 俺は身支度を整えてくれた二人に礼を言うと、パーシヴァルと一緒に部屋を出た。
「父の執務室で報告をする。兄二人と母が同席するが、いいだろうか?」
「もちろん!」
 一体どんな報告が届いているんだろうな? あいつらも表立って俺たちが居なくなったとは騒げないはずだ。辺境伯家子息とその婚約者が居なくなったなんて、どの面下げたところで言えないよな。だけど、面の皮が厚そうだから勝手にいなくなった、ぐらいは言い出すかもしれない。
 俺たちに逃げられたあいつらが今頃どうしているのか気にはなるけども、それよりも気になるのがウェリタス達の言っていた大陸を支配するってことだ。大陸なんて、どう考えたってそう簡単に支配できるもんじゃない。戦争を始めるつもりだとしても、大陸全土に進軍するなら相当なお金と兵力が必要になる。
 お金も兵力もそれほど掛けずに大陸を支配する方法なんて……
 ふとある事に考えが至って、背中にぞわっと悪寒が走った。
「どうした、サフィラス?」
 ふいに足を止めた俺に、パーシヴァルが心配げな表情を浮かべた。
「あ、うん。ごめん、なんでもない」
 あの国ではいろいろありすぎたからな。きっと俺の考えすぎだろう。余計なことを言って、あまりパーシヴァルを不安にさせたくないし。
 それに、まさかの事が起きたってきっとなんとかなるさ。
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