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第三章 天界と食事の神編
第70話 見た目も香りも百点満点! 空腹も満腹も魅了する魔性の食べ物! 【★】
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俺たちがサイコロステーキ串焼きとロールキャベツの後に食べたのは香り立つ牛肉の赤ワイン煮、あつあつの肉豆腐、相性最高のペッパーライスとステーキ、スタミナの付きそうな豚肉丼、艶やかな鶏肉の照り焼きだった。
間にご飯やパンの他、チキンスープや食べ応え満点の豆スープも挟んでいる。
スープはお腹いっぱいと言っていたコムギも一杯だけ楽しんでいた。そうそう、デザート以外にも別腹はあるんだよな。
デザートといえばイチゴミルクも美味しかった……。
熟したイチゴと搾りたてのミルクを使うと普段の何倍も甘く感じられて、俺としては『飲むケーキ』みたいな称号を与えたくなる素晴らしいデザートだった。
ついついバケツ五杯分ほど飲んだところで、同じように飲み干していたコゲの口の周りがヒゲのように真っ白になっていて笑う。
その後すぐに「シロも同じ」と言われて口元を拭うことになった。
少し離れたところでハンモックで横になっていたフライデルは――多分、本人は気づかれていないと思っているんだろうが、何度かこちらをちらちらと見ていた。寝返りを装っていてもわざとらしすぎるぞ。
(気になるなら勝負とは関係なく何か食べればいいのに……)
あれだけ頑なになる理由を俺は知りたい。
踏み込みすぎかもしれないが、それでも今回は知っておくべきだと思えるケースだった。
しかしフライデルはなかなか素直にならない。俺たちに対しても、食べ物に対しても。
(あともう一押しな気がするんだが――そうだ!)
一般的な夕飯時と呼べる時間はとっくに過ぎ去り、現在の時刻は凡そ十一時手前くらいだろうか。
俺は許可が出れば寝ずに一日中食べてられるからまだまだ序の口だが、フライデルもそろそろ痺れを切らし……そして空腹も極まってきた頃だろう。
そしてこういった時間帯は夕飯を食べてても妙に腹が減る。
テスト勉強中はこの辺りから深夜にかけてがデッドゾーンだった。食べると食に集中しちゃって何も頭に入らないからめちゃくちゃ我慢してたんだ。
そのぶん、我慢した後の夜食は格別だった。
フライデルは夕食を食べていない様子だから、我慢に我慢を重ねている頃だろう。
食にも怠惰というのは我慢強いのとはちょっと違うと俺は思う。フライデルは食を意識から外すことで、そして忘れることで、今まで『食にも怠惰だ』という姿勢でいられたんじゃないだろうか。
あんなキッチンじゃそもそも食欲も湧かなかっただろうし。
しかし今は良い匂いが漂い、目を向ければ美味そうなものを口に運ぶ人々が見える。
そんな状況で我慢をした経験がなかったんじゃないか。
でないとあんな反応しない。
そこにダメ押しのメニューを突っ込もう、と俺はコムギに耳打ちして準備を始める。
開始した時には予定になかったメニューだけれど、今ある材料で作れるもの。そしてその調理方法もシンプルですぐに作れるもの。
それは――見た目も香りも百点満点!
空腹を訴える胃を誘惑し、時には満腹でも「一個だけなら……」と魅了する魔性の食べ物!
シンプルだがアレンジは自由自在、他の食べ物との食い合わせも良く、まさに様々な可能性を秘めた溢れるバイタリティと、昔ながらの馴染みから得られる安心感!
その名は焼きおにぎり!!
「三手に分かれて異なる作り方をしよう! コゲは醤油やみりんで作ったタレを直接おにぎりに塗って焼いてくれ、俺とコムギはご飯とタレを混ぜ合わせてから握る方法で焼く。ハンナベリーとパーシモンはツナマヨを中に入れて焼いてみてくれ」
「わぁ、美味しそうですね! 私も一個くらいなら食べれそう……」
「あはは、だろ? 早速魅了されたな!」
コムギだけでなくハンナベリーたちも「で、でしたらわたし達も一つ……!」と申し出た。
うんうんと頷きながら俺は手早くタレを作り、温かいご飯に混ぜていく。ごま油を加えたタイプも作っておこう。
握る時は焼いてる最中に瓦解しないように普段より固めに握る。
綺麗に握れないと焼いた時にムラになりやすいが……これも個性、味の濃淡が付いて俺は好きだな!
それぞれ出来たものをじゅうじゅうと焼いていく。
香ばしくも口に入れた時の甘じょっばさを容易に想像できる香りが立ち上った。
もぞもぞとフライデルがうつ伏せになるのが見えた。――いや、しかしよく見れば伏せた状態でハンモックの網目の隙間からこちらを睨みつけている。
それ顔にヤバい跡が付かないか……?
気になりつつも全ての焼きおにぎりを完成に導き、皿へと盛っていく。
良い出来だ、焦げたやつも魅力的な色をしてるし、焼きが足らなかったやつも慎ましやかで味覚をリセットしてくれるんだ。
リセット後は濃い味もまた新鮮に感じられて最高だぞ。
焼きおにぎりのお供としてあつあつの味噌汁も用意した。
食べながら口の中で雑炊にするようなイメージで飲むと最強のコンビネーションを発揮してくれる一品だ。
裏方ではないが決して主人公だと名乗り出ることのない、味噌汁はそんな名脇役だな。
「! そうだ、このタイプの焼きおにぎりも作っておこう!」
「わ、シロさん、それって……」
コムギが目を輝かせる。
そう、味噌汁に使った味噌とみりんを混ぜて塗った焼きおにぎりだ。
焼き味噌おにぎり、これもまた口に入れるまで終始食欲を刺激し続ける最高位の食べ物の一つだな。俺なら家宝の一つにする。しっかり食べるが。
両面をしっかりと焼き、崩れないことを確認して側面も丁寧に焼いていく。
食感に変化を持たせたいなら側面を焼いたもの、焼いてないもので分けてもいいかもしれない。
完成した焼きおにぎりたちをずらりと並べ、壮観だなと満足感に浸っていると隣からテーブルの上に影が落ちた。
視線を上げる。
そこに立っていたのは、眉根を寄せて悔しげな顔をしたフライデルだった。
パーシモンとハンナベリー(イラスト:縁代まと)
間にご飯やパンの他、チキンスープや食べ応え満点の豆スープも挟んでいる。
スープはお腹いっぱいと言っていたコムギも一杯だけ楽しんでいた。そうそう、デザート以外にも別腹はあるんだよな。
デザートといえばイチゴミルクも美味しかった……。
熟したイチゴと搾りたてのミルクを使うと普段の何倍も甘く感じられて、俺としては『飲むケーキ』みたいな称号を与えたくなる素晴らしいデザートだった。
ついついバケツ五杯分ほど飲んだところで、同じように飲み干していたコゲの口の周りがヒゲのように真っ白になっていて笑う。
その後すぐに「シロも同じ」と言われて口元を拭うことになった。
少し離れたところでハンモックで横になっていたフライデルは――多分、本人は気づかれていないと思っているんだろうが、何度かこちらをちらちらと見ていた。寝返りを装っていてもわざとらしすぎるぞ。
(気になるなら勝負とは関係なく何か食べればいいのに……)
あれだけ頑なになる理由を俺は知りたい。
踏み込みすぎかもしれないが、それでも今回は知っておくべきだと思えるケースだった。
しかしフライデルはなかなか素直にならない。俺たちに対しても、食べ物に対しても。
(あともう一押しな気がするんだが――そうだ!)
一般的な夕飯時と呼べる時間はとっくに過ぎ去り、現在の時刻は凡そ十一時手前くらいだろうか。
俺は許可が出れば寝ずに一日中食べてられるからまだまだ序の口だが、フライデルもそろそろ痺れを切らし……そして空腹も極まってきた頃だろう。
そしてこういった時間帯は夕飯を食べてても妙に腹が減る。
テスト勉強中はこの辺りから深夜にかけてがデッドゾーンだった。食べると食に集中しちゃって何も頭に入らないからめちゃくちゃ我慢してたんだ。
そのぶん、我慢した後の夜食は格別だった。
フライデルは夕食を食べていない様子だから、我慢に我慢を重ねている頃だろう。
食にも怠惰というのは我慢強いのとはちょっと違うと俺は思う。フライデルは食を意識から外すことで、そして忘れることで、今まで『食にも怠惰だ』という姿勢でいられたんじゃないだろうか。
あんなキッチンじゃそもそも食欲も湧かなかっただろうし。
しかし今は良い匂いが漂い、目を向ければ美味そうなものを口に運ぶ人々が見える。
そんな状況で我慢をした経験がなかったんじゃないか。
でないとあんな反応しない。
そこにダメ押しのメニューを突っ込もう、と俺はコムギに耳打ちして準備を始める。
開始した時には予定になかったメニューだけれど、今ある材料で作れるもの。そしてその調理方法もシンプルですぐに作れるもの。
それは――見た目も香りも百点満点!
空腹を訴える胃を誘惑し、時には満腹でも「一個だけなら……」と魅了する魔性の食べ物!
シンプルだがアレンジは自由自在、他の食べ物との食い合わせも良く、まさに様々な可能性を秘めた溢れるバイタリティと、昔ながらの馴染みから得られる安心感!
その名は焼きおにぎり!!
「三手に分かれて異なる作り方をしよう! コゲは醤油やみりんで作ったタレを直接おにぎりに塗って焼いてくれ、俺とコムギはご飯とタレを混ぜ合わせてから握る方法で焼く。ハンナベリーとパーシモンはツナマヨを中に入れて焼いてみてくれ」
「わぁ、美味しそうですね! 私も一個くらいなら食べれそう……」
「あはは、だろ? 早速魅了されたな!」
コムギだけでなくハンナベリーたちも「で、でしたらわたし達も一つ……!」と申し出た。
うんうんと頷きながら俺は手早くタレを作り、温かいご飯に混ぜていく。ごま油を加えたタイプも作っておこう。
握る時は焼いてる最中に瓦解しないように普段より固めに握る。
綺麗に握れないと焼いた時にムラになりやすいが……これも個性、味の濃淡が付いて俺は好きだな!
それぞれ出来たものをじゅうじゅうと焼いていく。
香ばしくも口に入れた時の甘じょっばさを容易に想像できる香りが立ち上った。
もぞもぞとフライデルがうつ伏せになるのが見えた。――いや、しかしよく見れば伏せた状態でハンモックの網目の隙間からこちらを睨みつけている。
それ顔にヤバい跡が付かないか……?
気になりつつも全ての焼きおにぎりを完成に導き、皿へと盛っていく。
良い出来だ、焦げたやつも魅力的な色をしてるし、焼きが足らなかったやつも慎ましやかで味覚をリセットしてくれるんだ。
リセット後は濃い味もまた新鮮に感じられて最高だぞ。
焼きおにぎりのお供としてあつあつの味噌汁も用意した。
食べながら口の中で雑炊にするようなイメージで飲むと最強のコンビネーションを発揮してくれる一品だ。
裏方ではないが決して主人公だと名乗り出ることのない、味噌汁はそんな名脇役だな。
「! そうだ、このタイプの焼きおにぎりも作っておこう!」
「わ、シロさん、それって……」
コムギが目を輝かせる。
そう、味噌汁に使った味噌とみりんを混ぜて塗った焼きおにぎりだ。
焼き味噌おにぎり、これもまた口に入れるまで終始食欲を刺激し続ける最高位の食べ物の一つだな。俺なら家宝の一つにする。しっかり食べるが。
両面をしっかりと焼き、崩れないことを確認して側面も丁寧に焼いていく。
食感に変化を持たせたいなら側面を焼いたもの、焼いてないもので分けてもいいかもしれない。
完成した焼きおにぎりたちをずらりと並べ、壮観だなと満足感に浸っていると隣からテーブルの上に影が落ちた。
視線を上げる。
そこに立っていたのは、眉根を寄せて悔しげな顔をしたフライデルだった。
パーシモンとハンナベリー(イラスト:縁代まと)
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