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第15話 完全なる復活
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人形の赤黒い靄は魔法陣の中央でうずくまるマルギットに右手を差し出した。
『気分はどうだ?マルギット。
我の姿が見えるか?そなたの中にいた我が外へ出たのだ。
どうだ?胸の辺りが軽く感じられるであろう?
苦しみも治まったであろう?
さぁ、立ち上がれ。ここから始まるのだ。
我の黒魔術の復活の儀式が始まるのだ』
差し出された赤黒い靄の右手になんの迷いもなくマルギットは己の左手を添えた。
スッ・・・・
立ち上がると先程までの胸の苦しさと痛みが少しも感じられない。
赤黒い靄の言う様に身体が今までにない程、軽く感じられた。
「・・・・これは・・・・?身体が軽い・・・・」
感じたままを呟いた。
ハイノはマルギットが苦しみから解放され、立ち上がる姿を目にするとガタガタと椅子をゆする動きを止めた。
自身の前に見えている光景を凝視する。
赤黒い靄がハイノへ顔を向けた。
『贄としての覚悟は褒めてやろう。
この様に落ち着きのある贄は未だかつて出会った事がないぞ。
よほど・・・・ふっふふふっ・・・・まぁ、よいわ。
そのまま大人しくしておればそれでよい。
愛しいマルギットのためであれば何でもするのであろう?夫殿』
赤黒い靄は意味深な笑いを浮かべるとハイノへ向けて左手を払った。
バッ!!!!
シャンッ!!!
シャンッ!!!
赤黒い靄が剣の様にハイノへ向けて伸びると両足首の内側を切り裂いた。
つぅぅぅぅ・・・・
つっっっぅぅぅ・・・・
タラリッタラリッ・・・・
タラリッタラリッ・・・・
トクットクットクッ・・・・
トクットクットクッ・・・・
ハイノの両足首から血が滴る。だんだんと滴る血の量が増していく。
流れ出たハイノの真っ赤な血が八芒星の魔法陣の刻印に沿い流れると鮮明な赤色を象った。
「・・・・」
ハイノは自身の両足首から流れる血をじっと見つめていた。
フラフラと身体が揺れ出す。まるで八芒星の魔法陣がハイノの身体を吸い込んでいる様に見える。
マルギットはいたたまれず魔法陣の中央からハイノへ歩み寄ろうと左手を伸ばした。
「ハイノっ!・・・・」
バチッ!!
ハイノに向けて伸ばした左手は魔法陣の中央から外側へ出られない様に結界が張られていた。
『そなた・・・・本当に我の意志を継ぐマデュラのマルギットなのか?いつまでも贄を気にかけるなどマデュラの印を引継ぐ者とは思えぬな』
人形の赤黒い靄はハイノが流す血が八芒星の魔法陣へ流れ出る速度を増すほど姿が鮮明になる。もはや靄ではなく完全な人形の影となっていた。
フワリッ・・・・
ガシッ!!!!
赤黒い影はハイノへ眼を向け魔法陣の中でしゃがみ込み途方に暮れるマルギットへ近づくと顎を右手で強く握った。
「うっ・・・・」
マルギットの顔を上向きにすると左手で頬を掴み口を開けさせる。
「かはっ!!」
マルギットは声を漏らした。
『案ずるな。すぐに終る。これから我とそなたが融合するのだ。そなたの中よりそなたの魂を我の中へ一旦取り込む。我の中で一つになった魂はそなたの身体に戻るのだ。これで我とそなたは同体となる。我がそなたに我が持つ力を黒魔術の全てを授けよう。ふっ・・・・ふはっ・・・・あはっはっはっはっ!!!風の魔導士ごときが止められるものではないはっ!あっはっはっはっ』
赤黒い影は高らかに笑った。
トクットクットクッ・・・・
トクットクットクッ・・・・
ハイノから流れ出る血液を八芒星の魔法陣が吸い込む様な音に変わる。
ズッズッズッ!!!
ズッズッズッ!!!
「・・・・」
顎を掴まれたマルギットは横目でハイノの姿を見た。
「!!!!」
ハイノの身体は色が失われ、肉が削げ、骨と皮だけになっていた。もはや精気は感じられない。
「あっ!!!あぁぁ!!!」
マルギットは必死にハイノを呼ぼうとする。
『さぁ、もうすぐだ。贄の血肉を全て吸収し、我は復活する』
『ひゅぅぅぅ・・・・』
赤黒い影はマルギットの開いた口元に自身の口を合わせると勢いよく吸い込んだ。
「ぐっ!!!あぁぁぁぁぁ」
マルギットの口から銀色と黒の靄が出ると螺旋を描いて赤黒い影に吸い込まれていく。
『!!!!ぐはっ!!!』
赤黒い影は銀色と黒の靄を吸い込むと突然に咽た。
吸い込みを一旦止める。
『ぜいっぜいっ・・・・ぐはっ!!!おのれっ!風の魔導士めっ!銀の珠を仕込んだかっ!』
『がはっ!!!』
赤黒い影は何度か咽ると銀色の靄だけを吐き出した。
赤黒い影の口元からどす黒い物が滴り落ちる。
マルギットは自身の眼の前で銀色の靄を吐き出し苦しそうにしている赤黒い影を冷静に見ていた。
身体の自由は奪われ、顎と頬を掴まれた状態でいるものの頭はなぜか鮮明で、意識も意思も意志もはっきりとしている。
己の胸と額に銀色の風の珠を込めてくれた時のポルデュラの言葉を思い出した。
『どうなろうとも己の意志は貫ける、事が起きた時、私が私である事ができるとポルデュラ様は申された』
マルギットは骨だけとなった姿のハイノへ眼を向けると強く願いを込めた。
『私はハイノと共にいる。たとえこの身が滅びても魂はハイノと共にいるっ!』
『ふぅ・・・・ふっふっ・・・・風の魔導士ポルデュラめっ!何をしようとも無駄なことだ。我の復活を阻むことはできぬっ!銀の珠なぞ我の中へ取り込まねば済む話だっ!』
ブツブツとポルデュラへ怒りの言葉を発していた赤黒い影は再びマルギットの口元へ口を近づけた。
『ひゅぅぅぅぅ・・・・・』
先程よりも細く強く黒い靄だけを吸い込んでいる。
マルギットの耳元でサラサラと砂がこぼれる様な音が聞こえた。
横目で音のする方を見るとハイノの骨が綺麗に砕け魔法陣に吸い込まれていくのが見えた。
『あぁ・・・・ハイノ・・・・あなたに愛され、あなたを愛する事ができて幸せでした・・・・』
マルギットの眼尻から涙がこぼれ落ちた。
『ふっ!!!!これはいらぬっ!光はいらぬっ!』
赤黒い影はマルギットの眼尻からこぼれた涙を忌々し気に払いのける。
『ひゅぅぅぅぅぅ・・・・』
マルギットの口元から吸い込まれる黒い靄が量を増すとマルギットは瞼を開けていられなくなった。
徐々に身体の力が抜けていく。
フッ・・・・
マルギットは気を失った。
『ひゅぅぅぅぅぅ・・・・そろそろだな。さて、マルギットよ。そなたは今、我の中に取り込まれた。ここからだぞっ!我と一つになるのだっ!』
バッバッ!!!!
赤黒い影は両手を広げた。
ブワンッブワンッ!!!!
ハイノの血肉を全て吸収した八芒星の魔法陣が赤黒い光を放つと一瞬で赤黒い靄が隠し部屋全てを覆い尽くした。
ブワンッブワンッ!!!!
ブワンッブワンッ!!!!
赤黒い影と赤黒い光、赤黒い靄がぐるぐると螺旋を描いている。
徐々に一つの塊になり、八芒星の魔法陣を周回するとマルギットの口元目掛けて一気に流れ込んだ。
ビュゥゥゥゥゥ・・・・
シュンッ!
赤黒い塊は一瞬で姿を消した。
バタリッ!!!
赤黒い塊を吸い込んだマルギットは八芒星の魔法陣の中央に倒れた。
「・・・・ここは?・・・・」
マルギットは赤黒い靄に包まれた暗闇で瞼を開けた。
「あっ・・・・ここは・・・・また、私の深淵・・・・」
赤黒い靄と赤黒い光、そして赤黒い影がマルギットの身体を包んでいる。
『さぁ、マルギット、このまま我と同化するのだ。半身は我、半身はそなただ。一つの身体を我とそなたで共有するのだ』
ぐるぐると身体に巻きつく赤黒い靄と光、影が身体の中に入り込んでくる。
「うっ!!!くっ苦しい!!!」
だが、赤黒い靄と光と影は巻きつくだけで身体の中へ入り込めずもがいているように感じた。
『うっ!なぜだ?なぜ?融合できぬのだっ!』
ギリギリと強く身体が締め付けられる。
「ううっ!!!痛いっ!!!」
力任せに締め付けられるが一向に融合できずにいた。
『くそっ!あやつかっ!ポルデュラかっ!!』
深淵の中でマルギットの魂をうっすらと銀色の膜が覆っている。
『ポルデュラめっ!!銀の風の珠を防御として使ったカッ!!!』
ギリッギチッ!!!
どこかに隙間がないかと形を変えながら赤黒い靄と光と影はマルギットを締め付ける。
「うっ!!!痛いっ!!!ハイノっ!!ハイノっ!!!助けて!!!」
マルギットは大声でハイノへ助けを求めた。
「マルギット・・・・」
フワリッ・・・・
耳元で優しい声が聞えた。
薄っすらと目を開けるとハイノが手を差し伸べている。
「ハっハイノっ!!生きていたの?ハイノっ!!」
マルギットはハイノの姿へ向けて両手を伸ばした。
フワッ・・・・
赤黒い靄と光と影に締め付けられている己の身体が頭上に見える。
「・・・・あっ?私は・・・・」
己の姿を見上げていると耳元でハイノの声がした。
「マルギット、約束したであろう?この身が滅びようとも命がつきようとも私はそなたの傍にいると」
フワリッ・・・・
全身が緑色に光るハイノがマルギットをそっと抱き寄せた。
「ハイノ・・・・」
ハイノの胸に引き寄せられた己の手を見ると赤い光で覆われていた。
「ハイノ・・・・ここは私の深淵・・・・このまま深淵深く潜ると再び生まれ変わることはできなくなるわ・・・・」
ハイノはマルギットを見つめる。
「生まれ変わってもそなたと会えぬのであれば意味がないのだ。そなたのマルギットの傍と共に生きることができぬのであれば意味がないのだ」
緑色のハイノは赤色のマルギットを抱きしめる。
「ハイノ・・・・感謝するわ・・・・いえ、ハイノ、愛しているわ」
「マルギット、愛している」
緑色のハイノと赤色のマルギットは漆黒の闇の底へ静かに沈んでいった。
赤色のマルギットが緑色のハイノと共に漆黒の闇の中へ沈んでいくと赤黒い靄と光と影は巻きついていたマルギットの身体の中へすっと取り込まれた。
ブワンッブワンッ!!!!
ブワンッブワンッ!!!!
バサッ!!!
スッ!!!
八芒星の魔法陣の中央に倒れていたマルギットはすっと立ち上がる。
「ふぅぅ・・・・」
立ち上がると天井へ顔を上げて大きく息を吐いた。
「ふっふふふ・・・・まぁ、よいはっ・・・・融合は叶わなずであったが・・・・ふっふふふ・・・・完全なる復活を遂げたっ!ふっふふふ・・・・あっはっはっはっ!!!」
天井を見上げたまま大声で笑う。
「深淵に落ちた魂は二度と生まれ変わりはせぬっ!この身体は我の物だっ!!!あっはっはっはっ!!!ポルデュラめっ!!!どうだっ!我は完全なる復活を遂げたっ!!待っておれよっ!100有余年前の続きといこう!待っておれっ!!!」
スッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
マルギットの身体を乗っ取り完全に復活を遂げた黒魔女は不敵な笑いと共に隠し部屋を後にした。
ホンギャー
ホンギャー
「アレキサンドラ様、元気な女子にございます。金色に輝く髪、透き通る程の白い肌の元気な女子にございます」
「・・・・そう・・・・」
黒魔女が完全な復活を遂げた同じ時、エステール伯爵家に第二子が誕生した。
闇が生まれれば相反する光が生まれる。
かつて黒魔女マルギットが最も憎み、恐れた青き血が流れるコマンドールの再来であった。
『気分はどうだ?マルギット。
我の姿が見えるか?そなたの中にいた我が外へ出たのだ。
どうだ?胸の辺りが軽く感じられるであろう?
苦しみも治まったであろう?
さぁ、立ち上がれ。ここから始まるのだ。
我の黒魔術の復活の儀式が始まるのだ』
差し出された赤黒い靄の右手になんの迷いもなくマルギットは己の左手を添えた。
スッ・・・・
立ち上がると先程までの胸の苦しさと痛みが少しも感じられない。
赤黒い靄の言う様に身体が今までにない程、軽く感じられた。
「・・・・これは・・・・?身体が軽い・・・・」
感じたままを呟いた。
ハイノはマルギットが苦しみから解放され、立ち上がる姿を目にするとガタガタと椅子をゆする動きを止めた。
自身の前に見えている光景を凝視する。
赤黒い靄がハイノへ顔を向けた。
『贄としての覚悟は褒めてやろう。
この様に落ち着きのある贄は未だかつて出会った事がないぞ。
よほど・・・・ふっふふふっ・・・・まぁ、よいわ。
そのまま大人しくしておればそれでよい。
愛しいマルギットのためであれば何でもするのであろう?夫殿』
赤黒い靄は意味深な笑いを浮かべるとハイノへ向けて左手を払った。
バッ!!!!
シャンッ!!!
シャンッ!!!
赤黒い靄が剣の様にハイノへ向けて伸びると両足首の内側を切り裂いた。
つぅぅぅぅ・・・・
つっっっぅぅぅ・・・・
タラリッタラリッ・・・・
タラリッタラリッ・・・・
トクットクットクッ・・・・
トクットクットクッ・・・・
ハイノの両足首から血が滴る。だんだんと滴る血の量が増していく。
流れ出たハイノの真っ赤な血が八芒星の魔法陣の刻印に沿い流れると鮮明な赤色を象った。
「・・・・」
ハイノは自身の両足首から流れる血をじっと見つめていた。
フラフラと身体が揺れ出す。まるで八芒星の魔法陣がハイノの身体を吸い込んでいる様に見える。
マルギットはいたたまれず魔法陣の中央からハイノへ歩み寄ろうと左手を伸ばした。
「ハイノっ!・・・・」
バチッ!!
ハイノに向けて伸ばした左手は魔法陣の中央から外側へ出られない様に結界が張られていた。
『そなた・・・・本当に我の意志を継ぐマデュラのマルギットなのか?いつまでも贄を気にかけるなどマデュラの印を引継ぐ者とは思えぬな』
人形の赤黒い靄はハイノが流す血が八芒星の魔法陣へ流れ出る速度を増すほど姿が鮮明になる。もはや靄ではなく完全な人形の影となっていた。
フワリッ・・・・
ガシッ!!!!
赤黒い影はハイノへ眼を向け魔法陣の中でしゃがみ込み途方に暮れるマルギットへ近づくと顎を右手で強く握った。
「うっ・・・・」
マルギットの顔を上向きにすると左手で頬を掴み口を開けさせる。
「かはっ!!」
マルギットは声を漏らした。
『案ずるな。すぐに終る。これから我とそなたが融合するのだ。そなたの中よりそなたの魂を我の中へ一旦取り込む。我の中で一つになった魂はそなたの身体に戻るのだ。これで我とそなたは同体となる。我がそなたに我が持つ力を黒魔術の全てを授けよう。ふっ・・・・ふはっ・・・・あはっはっはっはっ!!!風の魔導士ごときが止められるものではないはっ!あっはっはっはっ』
赤黒い影は高らかに笑った。
トクットクットクッ・・・・
トクットクットクッ・・・・
ハイノから流れ出る血液を八芒星の魔法陣が吸い込む様な音に変わる。
ズッズッズッ!!!
ズッズッズッ!!!
「・・・・」
顎を掴まれたマルギットは横目でハイノの姿を見た。
「!!!!」
ハイノの身体は色が失われ、肉が削げ、骨と皮だけになっていた。もはや精気は感じられない。
「あっ!!!あぁぁ!!!」
マルギットは必死にハイノを呼ぼうとする。
『さぁ、もうすぐだ。贄の血肉を全て吸収し、我は復活する』
『ひゅぅぅぅ・・・・』
赤黒い影はマルギットの開いた口元に自身の口を合わせると勢いよく吸い込んだ。
「ぐっ!!!あぁぁぁぁぁ」
マルギットの口から銀色と黒の靄が出ると螺旋を描いて赤黒い影に吸い込まれていく。
『!!!!ぐはっ!!!』
赤黒い影は銀色と黒の靄を吸い込むと突然に咽た。
吸い込みを一旦止める。
『ぜいっぜいっ・・・・ぐはっ!!!おのれっ!風の魔導士めっ!銀の珠を仕込んだかっ!』
『がはっ!!!』
赤黒い影は何度か咽ると銀色の靄だけを吐き出した。
赤黒い影の口元からどす黒い物が滴り落ちる。
マルギットは自身の眼の前で銀色の靄を吐き出し苦しそうにしている赤黒い影を冷静に見ていた。
身体の自由は奪われ、顎と頬を掴まれた状態でいるものの頭はなぜか鮮明で、意識も意思も意志もはっきりとしている。
己の胸と額に銀色の風の珠を込めてくれた時のポルデュラの言葉を思い出した。
『どうなろうとも己の意志は貫ける、事が起きた時、私が私である事ができるとポルデュラ様は申された』
マルギットは骨だけとなった姿のハイノへ眼を向けると強く願いを込めた。
『私はハイノと共にいる。たとえこの身が滅びても魂はハイノと共にいるっ!』
『ふぅ・・・・ふっふっ・・・・風の魔導士ポルデュラめっ!何をしようとも無駄なことだ。我の復活を阻むことはできぬっ!銀の珠なぞ我の中へ取り込まねば済む話だっ!』
ブツブツとポルデュラへ怒りの言葉を発していた赤黒い影は再びマルギットの口元へ口を近づけた。
『ひゅぅぅぅぅ・・・・・』
先程よりも細く強く黒い靄だけを吸い込んでいる。
マルギットの耳元でサラサラと砂がこぼれる様な音が聞こえた。
横目で音のする方を見るとハイノの骨が綺麗に砕け魔法陣に吸い込まれていくのが見えた。
『あぁ・・・・ハイノ・・・・あなたに愛され、あなたを愛する事ができて幸せでした・・・・』
マルギットの眼尻から涙がこぼれ落ちた。
『ふっ!!!!これはいらぬっ!光はいらぬっ!』
赤黒い影はマルギットの眼尻からこぼれた涙を忌々し気に払いのける。
『ひゅぅぅぅぅぅ・・・・』
マルギットの口元から吸い込まれる黒い靄が量を増すとマルギットは瞼を開けていられなくなった。
徐々に身体の力が抜けていく。
フッ・・・・
マルギットは気を失った。
『ひゅぅぅぅぅぅ・・・・そろそろだな。さて、マルギットよ。そなたは今、我の中に取り込まれた。ここからだぞっ!我と一つになるのだっ!』
バッバッ!!!!
赤黒い影は両手を広げた。
ブワンッブワンッ!!!!
ハイノの血肉を全て吸収した八芒星の魔法陣が赤黒い光を放つと一瞬で赤黒い靄が隠し部屋全てを覆い尽くした。
ブワンッブワンッ!!!!
ブワンッブワンッ!!!!
赤黒い影と赤黒い光、赤黒い靄がぐるぐると螺旋を描いている。
徐々に一つの塊になり、八芒星の魔法陣を周回するとマルギットの口元目掛けて一気に流れ込んだ。
ビュゥゥゥゥゥ・・・・
シュンッ!
赤黒い塊は一瞬で姿を消した。
バタリッ!!!
赤黒い塊を吸い込んだマルギットは八芒星の魔法陣の中央に倒れた。
「・・・・ここは?・・・・」
マルギットは赤黒い靄に包まれた暗闇で瞼を開けた。
「あっ・・・・ここは・・・・また、私の深淵・・・・」
赤黒い靄と赤黒い光、そして赤黒い影がマルギットの身体を包んでいる。
『さぁ、マルギット、このまま我と同化するのだ。半身は我、半身はそなただ。一つの身体を我とそなたで共有するのだ』
ぐるぐると身体に巻きつく赤黒い靄と光、影が身体の中に入り込んでくる。
「うっ!!!くっ苦しい!!!」
だが、赤黒い靄と光と影は巻きつくだけで身体の中へ入り込めずもがいているように感じた。
『うっ!なぜだ?なぜ?融合できぬのだっ!』
ギリギリと強く身体が締め付けられる。
「ううっ!!!痛いっ!!!」
力任せに締め付けられるが一向に融合できずにいた。
『くそっ!あやつかっ!ポルデュラかっ!!』
深淵の中でマルギットの魂をうっすらと銀色の膜が覆っている。
『ポルデュラめっ!!銀の風の珠を防御として使ったカッ!!!』
ギリッギチッ!!!
どこかに隙間がないかと形を変えながら赤黒い靄と光と影はマルギットを締め付ける。
「うっ!!!痛いっ!!!ハイノっ!!ハイノっ!!!助けて!!!」
マルギットは大声でハイノへ助けを求めた。
「マルギット・・・・」
フワリッ・・・・
耳元で優しい声が聞えた。
薄っすらと目を開けるとハイノが手を差し伸べている。
「ハっハイノっ!!生きていたの?ハイノっ!!」
マルギットはハイノの姿へ向けて両手を伸ばした。
フワッ・・・・
赤黒い靄と光と影に締め付けられている己の身体が頭上に見える。
「・・・・あっ?私は・・・・」
己の姿を見上げていると耳元でハイノの声がした。
「マルギット、約束したであろう?この身が滅びようとも命がつきようとも私はそなたの傍にいると」
フワリッ・・・・
全身が緑色に光るハイノがマルギットをそっと抱き寄せた。
「ハイノ・・・・」
ハイノの胸に引き寄せられた己の手を見ると赤い光で覆われていた。
「ハイノ・・・・ここは私の深淵・・・・このまま深淵深く潜ると再び生まれ変わることはできなくなるわ・・・・」
ハイノはマルギットを見つめる。
「生まれ変わってもそなたと会えぬのであれば意味がないのだ。そなたのマルギットの傍と共に生きることができぬのであれば意味がないのだ」
緑色のハイノは赤色のマルギットを抱きしめる。
「ハイノ・・・・感謝するわ・・・・いえ、ハイノ、愛しているわ」
「マルギット、愛している」
緑色のハイノと赤色のマルギットは漆黒の闇の底へ静かに沈んでいった。
赤色のマルギットが緑色のハイノと共に漆黒の闇の中へ沈んでいくと赤黒い靄と光と影は巻きついていたマルギットの身体の中へすっと取り込まれた。
ブワンッブワンッ!!!!
ブワンッブワンッ!!!!
バサッ!!!
スッ!!!
八芒星の魔法陣の中央に倒れていたマルギットはすっと立ち上がる。
「ふぅぅ・・・・」
立ち上がると天井へ顔を上げて大きく息を吐いた。
「ふっふふふ・・・・まぁ、よいはっ・・・・融合は叶わなずであったが・・・・ふっふふふ・・・・完全なる復活を遂げたっ!ふっふふふ・・・・あっはっはっはっ!!!」
天井を見上げたまま大声で笑う。
「深淵に落ちた魂は二度と生まれ変わりはせぬっ!この身体は我の物だっ!!!あっはっはっはっ!!!ポルデュラめっ!!!どうだっ!我は完全なる復活を遂げたっ!!待っておれよっ!100有余年前の続きといこう!待っておれっ!!!」
スッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
マルギットの身体を乗っ取り完全に復活を遂げた黒魔女は不敵な笑いと共に隠し部屋を後にした。
ホンギャー
ホンギャー
「アレキサンドラ様、元気な女子にございます。金色に輝く髪、透き通る程の白い肌の元気な女子にございます」
「・・・・そう・・・・」
黒魔女が完全な復活を遂げた同じ時、エステール伯爵家に第二子が誕生した。
闇が生まれれば相反する光が生まれる。
かつて黒魔女マルギットが最も憎み、恐れた青き血が流れるコマンドールの再来であった。
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