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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第112話 時を超えて
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「ガハッ!!!」
時の狭間に映し出された初代の悲痛な叫びと同時にセルジオは大量の吐血をした。
「セルジオ様っ!!!」
バルドはセルジオの身体を起し、吐き出した血が喉に逆流しない様に下を向かせる。
ハァハァと荒い息づかいのセルジオは既に限界がきている。
バルドとオスカーは顔を見合わせた。
セルジオは震える小さな手でバルドの腕を掴み「大事ない」と消え入りそうな声を発した。
バルドはいたたまれずアロイスの顔を見る。
アロイスはフルフルと首を左右に振った。
「ここは時の狭間です。私の治癒術は効きません。吐き出した血と同量のバラの花の茶を飲むより他、手立てはないのです」
アロイスは無理にでもセルジオにバラの花の茶を飲ませる様にバルドに促した。
もはや飲み込む力も残ってはいないのだろう。
セルジオの口元にカップを持っていくが、頬を伝いこぼれてしまう。
バルドは身を裂かれる思いだった。
バルドは不安を抱いていた。
果たして初代は目の前に映し出されている悔恨を水に流す事ができるのだろうか。
もし、できなければセルジオの命は初代と共にここで潰えるとウンディーネは言っていた。
初代を見ると映し出された姿と同様に悲痛な表情を浮かべている。
バルドの不安は胸の中で黒々とした塊に成長していった。
オスカーがセルジオごとバルドを抱きしめる。
「バルド殿、その胸に広がる不安は黒魔女の思うつぼにございますよ。黒魔女は時を超えてなお、セルジオ様を亡き者にしようとしています。初代様もろともです。二度と転生しないよう目論み不安の種を撒いているのです」
「策に乗ってはなりません。セルジオ様をお信じ下さい。セルジオ様は「大事ない」と申されました。我らは青き血が流れるコマンドールの守護の騎士ではございませんか。我らがセルジオ様を信じずして役目を果たせましょうか?セルジオ様は「大事ない」と申されたのです。大事ございません」
バルドの左耳にオスカーの言葉が優しい鼓動と共に響いた。
バルドは目を閉じ呼吸を整える。
セルジオは薄っすらと目を開け、再びバルドの左腕を握った。
声にならない声を発している。
「バルド、大事ない」
バルドの深い紫色の瞳を深く青い瞳で揺るぎなく見つめる。
「・・・・はっ!セルジオ様っ!」
バルドは涙を堪えセルジオを抱きしめた。
バルドの胸に広がった黒々とした塊が薄れていく。
バルドが落ち着きを取り戻すとオスカーはバルドから離れた。
アロイスはバルドの様子を見計らい、バラの花の茶が入ったカップを手に取った。
「バルド殿、治癒術は使えませんが、バラの花の茶をセルジオ殿に飲ませる事はできます。セルジオ殿に触れます事、お許し下さい」
一言告げるとアロイスはカップの茶を口に含んだ。
バルドの腕に抱えられているセルジオの頬にそっと触れる。
顎を上げると口に含んだバラの茶をセルジオの口に流し込んだ。
コクリッ・・・・
コクリッ・・・・
少しづつ、少しづつセルジオの飲み込む速さに合わせ口移しでバラの花の茶を飲ませていく。
アロイスは二度三度とカップの茶を口に含みセルジオに与えていった。
この時、初代は自身の悔恨の浄化が始まってから初めてセルジオへ目を向けた。
バルドの腕に抱えられ、ぐったりとしている。
辺りはセルジオが吐き出した血で赤く染まっていた。
初代が目を向けたその時、アロイスが口移しでセルジオにバラの花の茶を飲ませていた。
オーロラと姿が生き写しのアロイスがセルジオに口を寄せている。
ワンッ!!!
火刑の場面とは別の情景が浮かんだ。
初代がラドフォール水の城塞でオーロラから手当てを受けている場面だった。
アロイスがセルジオに施しているのと同じようにベッドに横たわる初代にオーロラは口移しで薬湯を飲ませていた。
『毒などで死なせはしないわ。生きるの。セルジオ。何としても生きるの。この先、何があろうとあなたは生きるの。戦いのない世を創ると約束したでしょう。戦いを終わらせるために戦ってきたのでしょう。まだよ、まだ約束は果たせてはいないわ。だから、生きるのセルジオ』
繰り返し、繰り返し、金色の光を当て、薬湯を飲ませている。
『生きるのよ、セルジオ』
その情景を目にした初代の目からポロポロと涙が零れ落ちた。
「そうで・・・・あった。オーロラは我に生きよと申した。何があろうと生きよと。だが、我は目の前で灰となったオーロラに己を失った。生きよと申したオーロラの言葉を戦いの終わりを願い戦い続けたオーロラとの約束を我は無にした。エリオスもそうであった。我に生きよと申した。我は、我は・・・・我の悔恨はエリオス、オーロラを守れなかった事ではない。生きる事を諦めた己の弱さだ」
ウワンッ!!!
グワンッ!!!
初代から青白い炎が勢いよく湧きたった。
初代は両掌に目を落とした。
「我はエリオスを死に追いやり、オーロラをまき沿いにした事への己の過信と愚かさに悔恨を残したのだと思っていた」
初代の両手はフルフルと震えている。
「だが、そうではない。生きる事を諦めた弱さと我のために命を賭してくれた者への弔いすらできなかった不甲斐なさに悔恨を残した」
初代は大きく息を吸った。
ザンッッ!!!
初代の言葉に人型の水の精霊ウンディーネが姿を現した。
「やっと、たどり着いたな。月の雫よ」
先ほどの辛辣な言葉を浴びせたウンディーネとは別の精霊の様に静かな微笑みを向けている。
「そなたが自らを省みる事ができねば、今世のセルジオ共々水泡に消えていた。恨みや妬み、過信や愚行は黒魔女の糧にしかならぬ。己の弱さを認め、生ある事への感謝は天が光を授かる。そうして初めて悔恨の根源が何かを知り、水に流すことができる。ようやくたどり着いたな。青き血が流れるコマンドール、我が愛しむ月の雫よ」
ウンディーネの水泡が初代を包みこんだ。
「さぁ、ここからは一気に行くぞ。今世のセルジオの身体も限界に近い。余すところなく、今ここで全てを水に流すのだ」
ザンンッッ!!!
初代を包む水泡は大きく膨らんだ。
「光と炎の魔導士は時を超え、そなたらに手を差し伸べた。その想い今度こそ踏みにじるでないぞ」
情景は火刑の熱が感じられる程、鮮明に映し出された。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
自分自身の行いを真正面から受け止め、受け入れ、省みる。
とても難しいことだと思っています。
ついつい、『だって・・・・』と言い訳をしてしまいがちですから。
さて、自分の悔恨の『根源』を受け止めた初代セルジオ。
次回は全ての悔恨を水に流していきます。
次回もよろしくお願い致します。
時の狭間に映し出された初代の悲痛な叫びと同時にセルジオは大量の吐血をした。
「セルジオ様っ!!!」
バルドはセルジオの身体を起し、吐き出した血が喉に逆流しない様に下を向かせる。
ハァハァと荒い息づかいのセルジオは既に限界がきている。
バルドとオスカーは顔を見合わせた。
セルジオは震える小さな手でバルドの腕を掴み「大事ない」と消え入りそうな声を発した。
バルドはいたたまれずアロイスの顔を見る。
アロイスはフルフルと首を左右に振った。
「ここは時の狭間です。私の治癒術は効きません。吐き出した血と同量のバラの花の茶を飲むより他、手立てはないのです」
アロイスは無理にでもセルジオにバラの花の茶を飲ませる様にバルドに促した。
もはや飲み込む力も残ってはいないのだろう。
セルジオの口元にカップを持っていくが、頬を伝いこぼれてしまう。
バルドは身を裂かれる思いだった。
バルドは不安を抱いていた。
果たして初代は目の前に映し出されている悔恨を水に流す事ができるのだろうか。
もし、できなければセルジオの命は初代と共にここで潰えるとウンディーネは言っていた。
初代を見ると映し出された姿と同様に悲痛な表情を浮かべている。
バルドの不安は胸の中で黒々とした塊に成長していった。
オスカーがセルジオごとバルドを抱きしめる。
「バルド殿、その胸に広がる不安は黒魔女の思うつぼにございますよ。黒魔女は時を超えてなお、セルジオ様を亡き者にしようとしています。初代様もろともです。二度と転生しないよう目論み不安の種を撒いているのです」
「策に乗ってはなりません。セルジオ様をお信じ下さい。セルジオ様は「大事ない」と申されました。我らは青き血が流れるコマンドールの守護の騎士ではございませんか。我らがセルジオ様を信じずして役目を果たせましょうか?セルジオ様は「大事ない」と申されたのです。大事ございません」
バルドの左耳にオスカーの言葉が優しい鼓動と共に響いた。
バルドは目を閉じ呼吸を整える。
セルジオは薄っすらと目を開け、再びバルドの左腕を握った。
声にならない声を発している。
「バルド、大事ない」
バルドの深い紫色の瞳を深く青い瞳で揺るぎなく見つめる。
「・・・・はっ!セルジオ様っ!」
バルドは涙を堪えセルジオを抱きしめた。
バルドの胸に広がった黒々とした塊が薄れていく。
バルドが落ち着きを取り戻すとオスカーはバルドから離れた。
アロイスはバルドの様子を見計らい、バラの花の茶が入ったカップを手に取った。
「バルド殿、治癒術は使えませんが、バラの花の茶をセルジオ殿に飲ませる事はできます。セルジオ殿に触れます事、お許し下さい」
一言告げるとアロイスはカップの茶を口に含んだ。
バルドの腕に抱えられているセルジオの頬にそっと触れる。
顎を上げると口に含んだバラの茶をセルジオの口に流し込んだ。
コクリッ・・・・
コクリッ・・・・
少しづつ、少しづつセルジオの飲み込む速さに合わせ口移しでバラの花の茶を飲ませていく。
アロイスは二度三度とカップの茶を口に含みセルジオに与えていった。
この時、初代は自身の悔恨の浄化が始まってから初めてセルジオへ目を向けた。
バルドの腕に抱えられ、ぐったりとしている。
辺りはセルジオが吐き出した血で赤く染まっていた。
初代が目を向けたその時、アロイスが口移しでセルジオにバラの花の茶を飲ませていた。
オーロラと姿が生き写しのアロイスがセルジオに口を寄せている。
ワンッ!!!
火刑の場面とは別の情景が浮かんだ。
初代がラドフォール水の城塞でオーロラから手当てを受けている場面だった。
アロイスがセルジオに施しているのと同じようにベッドに横たわる初代にオーロラは口移しで薬湯を飲ませていた。
『毒などで死なせはしないわ。生きるの。セルジオ。何としても生きるの。この先、何があろうとあなたは生きるの。戦いのない世を創ると約束したでしょう。戦いを終わらせるために戦ってきたのでしょう。まだよ、まだ約束は果たせてはいないわ。だから、生きるのセルジオ』
繰り返し、繰り返し、金色の光を当て、薬湯を飲ませている。
『生きるのよ、セルジオ』
その情景を目にした初代の目からポロポロと涙が零れ落ちた。
「そうで・・・・あった。オーロラは我に生きよと申した。何があろうと生きよと。だが、我は目の前で灰となったオーロラに己を失った。生きよと申したオーロラの言葉を戦いの終わりを願い戦い続けたオーロラとの約束を我は無にした。エリオスもそうであった。我に生きよと申した。我は、我は・・・・我の悔恨はエリオス、オーロラを守れなかった事ではない。生きる事を諦めた己の弱さだ」
ウワンッ!!!
グワンッ!!!
初代から青白い炎が勢いよく湧きたった。
初代は両掌に目を落とした。
「我はエリオスを死に追いやり、オーロラをまき沿いにした事への己の過信と愚かさに悔恨を残したのだと思っていた」
初代の両手はフルフルと震えている。
「だが、そうではない。生きる事を諦めた弱さと我のために命を賭してくれた者への弔いすらできなかった不甲斐なさに悔恨を残した」
初代は大きく息を吸った。
ザンッッ!!!
初代の言葉に人型の水の精霊ウンディーネが姿を現した。
「やっと、たどり着いたな。月の雫よ」
先ほどの辛辣な言葉を浴びせたウンディーネとは別の精霊の様に静かな微笑みを向けている。
「そなたが自らを省みる事ができねば、今世のセルジオ共々水泡に消えていた。恨みや妬み、過信や愚行は黒魔女の糧にしかならぬ。己の弱さを認め、生ある事への感謝は天が光を授かる。そうして初めて悔恨の根源が何かを知り、水に流すことができる。ようやくたどり着いたな。青き血が流れるコマンドール、我が愛しむ月の雫よ」
ウンディーネの水泡が初代を包みこんだ。
「さぁ、ここからは一気に行くぞ。今世のセルジオの身体も限界に近い。余すところなく、今ここで全てを水に流すのだ」
ザンンッッ!!!
初代を包む水泡は大きく膨らんだ。
「光と炎の魔導士は時を超え、そなたらに手を差し伸べた。その想い今度こそ踏みにじるでないぞ」
情景は火刑の熱が感じられる程、鮮明に映し出された。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
自分自身の行いを真正面から受け止め、受け入れ、省みる。
とても難しいことだと思っています。
ついつい、『だって・・・・』と言い訳をしてしまいがちですから。
さて、自分の悔恨の『根源』を受け止めた初代セルジオ。
次回は全ての悔恨を水に流していきます。
次回もよろしくお願い致します。
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