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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第27話:城塞の地下階段
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ラドフォール騎士団水の城塞、食堂棟で出立の挨拶を終えるとセルジオ達は厩へ向かった。
カコッ カコッ カコッ・・・・
カコッ カコッ カコッ・・・・
セルジオとエリオスを乗せた馬をバルドとオスカーがそれぞれに引き、アロイスから指示された湯殿へ向かう。
訓練場を囲む石造りの回廊を進む。蹄の乾いた音が回廊に響く。
食堂棟とセルジオ達が滞在していた騎士団団長と隊長の居住棟の間の回廊を北へ進むとザアァと湯が流れる音が聞こえる。
ザアァァァァ・・・・
ザアァァァァ・・・・
セルジオは馬上から初めて湯殿に案内された日の事を思い返していた。
青き血の真の目覚めに協力したラドフォール騎士団団長アロイスの妹、ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞を治めるカルラ・ド・ラドフォール。
火の精霊サラマンダーに仕える炎の魔導士であるカルラの襲撃に身を挺し、セルジオの盾となったエリオスが背中に矢をうけた。
エリオスの口から吐き出された大量の真っ赤な血を頭からかぶったセルジオは青き血を真に目覚めさせた。
セルジオの金色の髪はエリオスの血で所々赤く染まっていた。その状態で訪れた湯殿であった。
ゾクリッ!
セルジオはエリオスの背中に矢が刺さり、口から血を吐き出した姿を思い返すと身震いを覚える。
アロイスの魔術で何事もなかったかの様に傷が癒えたとはいえ、その時のエリオスの姿は100有余年前に初代セルジオの身代わりになり命を落とした情景と重なり、思い返す度に胸に痛みを覚えていた。
馬上で身震いするセルジオの姿にバルドが心配そうに声をかける。
「セルジオ様、お寒いですか?」
セルジオは馬上からバルドをじっと見つめて答える。
「・・・・いや、寒くはない・・・・
寒くはないのだが・・・・思い出していた。
エリオスが背中に矢を受けた姿を思い出すと身体が震える・・・・」
バルドは優しい眼をセルジオへ向ける。
「左様にございましたか。
セルジオ様、エリオス様はお元気なお姿で
セルジオ様の後ろにいらっしゃいます。
大事ございません」
「もし、また同じ様な事が起きましても
エリオス様はセルジオ様の前にお出になることはなさいません。
その行いがセルジオ様の悔恨に
繋がることを重々ご承知されてみえます。
大事ございません」
バルドは鞍の取っ手を握るセルジオの手にそっと手を添えた。
セルジオは添えられたバルドの手をぎゅっと握ると目を閉じ、静かに呼吸を整えた。
「バルド、感謝もうす。身体の震えが止まった。
初めてこの湯殿にきた時の事を思い返していた。
血まみれだったからな。もう、大事ない。感謝もうす。バルド」
バルドは愛おしそうに微笑むとセルジオの手を離した。
ザアァァァァ・・・
ザアァァァァ・・・
湯が流れる音が徐々に大きくなる。湯殿の入口が見えるとアロイスが待っていた。
アロイスの姿を目にするとバルドは馬の歩みをとめ、セルジオを抱きかかえ馬から下そうとした。
「バルド殿、そのままに。
セルジオ殿とエリオス殿はそのまま馬上にいらしてください。
このまま、麓の修道院までまいります」
アロイスがセルジオを馬から下そうとするバルドを制した。
「そのまま、馬を引き、私の後に続いて下さい」
アロイスはそう言うと湯殿の脱衣所の方へ歩みを進めた。
湯殿の八芒星を模した白い石造の壁の一角でアロイスは歩みを止めるとセルジオ達へ向き直る。こちらへと手招きをした。
カコッカコッカコッカッ
カコッカコッカコッカッ
バルドとオスカーはアロイスの指示通りに八芒星を模した白い石造の壁の前に並び、馬をとめる。
アロイスはセルジオへニコリと微笑みを向けると左掌を胸の前で天井に向け、何かを掌に乗せる仕草をする。
アロイスは一瞬眼を閉じるとふぅっと強い息吹を左掌の上に送った。
ブワッンッ!
アロイスの左掌の上に水の珠が現れた。アロイスは現れた水の珠を目の前にある八芒星を模した白い石造の壁の端にはわせる。
ブウンッ!
八芒星を模した白い石造の壁の表面が音をたて、そぎ落とされた。
雪の結晶を散りばめた見事な装飾の扉が現れる。白と水色が交じり合い、扉自体がキラキラと発光している様に見える。
雪の結晶が現れるとアロイスは今一度、左掌に息吹を吹きかけた。
キィンッ!
アロイスの左掌の上に八角形の雪の結晶が現れる。その結晶を扉の中心にある結晶に重ねる。
チャキィン!
ブッブブッブッ・・・・
ガッガコンッ!
扉の中心にある結晶にアロイスが重ねた結晶が溶け込むと扉が振動を始めた。しばらくするとガコッと音を立てて扉が壁から浮き上がった。
アロイスが浮き上がった扉をそっと押す。
キィィィィ・・・・・
氷が重なる様な音を立て、扉が開いた。
ヒュオォォォォ・・・・・
扉に向かって吸い込まれる様に冷たい空気が背中の方から流れてくる。
扉の向こう側には白い石の階段が地下へ向かって続いていた。
アロイスは再びセルジオへ微笑みを向ける。
「水の城塞の地下階段です。
麓の修道院の厩まで続いています。
万が一のため、初代セルジオ様とその時代のエリオス様が造られました」
「水の城塞は鉄壁の岩城です。
城塞へ攻め込む事は不可能に思えます。
しかし、攻め込みにくいと言う事は反対に
攻められれば逃げ場がないということです」
「最悪の事態を想定し、戦闘が起こった時の備えとして造られたのです。
100有余年前はまだシュタイン王国も近隣諸国も不安定な情勢でした。
他国からの侵略や内乱が起こらないとは
言い難い状況から国を領民をいかに守るかが第一に考えられました」
「領民を水の城塞で保護すること、
また、水の城塞が攻められた折は城内の者全てを逃がすこと、
その両方が可能となる隠し扉と共に戦闘が起ころうと
侵してはならない修道院へと続く地下階段を造られたのです」
「シュピリトゥスの森から水の城塞へと続く
白い石の階段と同じ石が使われています。
そして、馬で通れる広さと高さになっています。
もしもに際して常時、開閉ができる様に
修道院から果実酒を水の城塞へ運び込む折にも使用しています」
「鍵の開閉ができる者は限定しておりますが、
白い石の階段と同様にいつでも使用できるよう常時整備をしています」
アロイスは地下階段へ向けて吸い込まれる様に吹いていた冷たい風がおさまるとバルドとオスカーへ扉の中へ入るように言う。
「さぁ、まいりましょう。
バルド殿、オスカー殿、階段の踊り場までお入り下さい。
私は扉を閉めます」
「はっ!」
カコッカコッ
カコッカコッ
バルドとオスカーはセルジオとエリオスを馬に乗せたまま扉の中へ入ると階段踊り場で足をとめた。
アロイスがバルドとオスカーの後から扉の内側へ入る。
左手でそっと扉に触れるとふぅと左手に息吹を吹き込む。
ガッガコッ!!
チャキィン!!
扉を開いた時と同し氷が重なる様な音を立てて鍵が閉まった。
扉が閉まると一瞬、暗闇に包まれる。
アロイスが踊り場で地下階段の方へ向き直る。
左掌を広げるとふぅっと息吹で何かを飛ばした。
パアァァァ・・・・
薄い水色の氷の結晶の様な煌めきが地下階段の天井を駆け下りていく。
白い石の階段に天井を駆け抜けた薄い水色の氷の結晶の様な煌めきが反射し、瞬く間に地下階段が明るく照らされた。
アロイスが失礼と言いながらセルジオとエリオスが乗る馬の手綱を引くバルドとオスカーの横を通り、先頭に立った。
「これで、麓の修道院まで明かりがなくとも進めます」
アロイスはニコリと少し悪戯っぽく笑った。その表情がアロイスの叔母であるポルデュラを思い出させる。
「では、まいりましょう。途中、何度か角があります。
この角も万が一の備えです。
一直線であればた易く造れますが、身を隠すことができません」
「戦闘を知り尽くしていればこそ、
どの様に運用するかが考えられると私は思っています。
初代セルジオ様が何よりも大切に想われていた我が
先祖オーロラが大切にしていたことを守るために
様々な工夫がなされたのだと感じ入るばかりです」
先を行くアロイスの声が震えている。
アロイスは初代セルジオの時代の先祖オーロラと姿が生き写しだった。
そのためか初代セルジオへの思い入れは人一倍強い。100有余年前からラドフォール公爵家に伝えられてきた逸話と自身が幼い頃から眼にしてきた水の城塞でのかつての情景が重なるとまるで自分自身の記憶の様に感じていたのだ。
セルジオは微かに震えるアロイスの後ろ姿を馬上から見下す。
ズキリッ・・・・・
胸に痛みが走った。そっと左手拳を胸にあてる。バルドがセルジオの様子に微笑みを向けた。
「セルジオ様、
初代セルジオ様はご自身のお心に非常に素直でいらしたのです。
愛しみも憎しみも怒りも楽しさも・・・・
全てを受け入れお傍近くにいらっしゃるオーロラ様と
エリオス様と共に過ごされた」
「セルジオ様、
湧き出でた思いは抑えずともよいのです。
今は、抑えずともよいのです。
全てを感じることができて初めて制御が可能となるのですよ」
バルドは優しく微笑んだ。
カコッカコッ・・・・・
カコッカコッ・・・・・
蹄の音が地下階段に響く。
何も思い出しはしないが、先程の胸の痛みは自身の中に封印されている初代セルジオの痛みであったようにセルジオは感じるのだった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
愛する人が大切に想うことを守るために造られた水の城塞の数々の仕掛でした。
思わず涙がホロリと溢れだしながら書いておりました。
セルジオの青き血の目覚めの回は
第18話ラドフォール騎士団6:青き血の目覚め
となります。
水の城塞を出て、次はラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞へ向かいます。
明日もよろしくお願い致します。
カコッ カコッ カコッ・・・・
カコッ カコッ カコッ・・・・
セルジオとエリオスを乗せた馬をバルドとオスカーがそれぞれに引き、アロイスから指示された湯殿へ向かう。
訓練場を囲む石造りの回廊を進む。蹄の乾いた音が回廊に響く。
食堂棟とセルジオ達が滞在していた騎士団団長と隊長の居住棟の間の回廊を北へ進むとザアァと湯が流れる音が聞こえる。
ザアァァァァ・・・・
ザアァァァァ・・・・
セルジオは馬上から初めて湯殿に案内された日の事を思い返していた。
青き血の真の目覚めに協力したラドフォール騎士団団長アロイスの妹、ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞を治めるカルラ・ド・ラドフォール。
火の精霊サラマンダーに仕える炎の魔導士であるカルラの襲撃に身を挺し、セルジオの盾となったエリオスが背中に矢をうけた。
エリオスの口から吐き出された大量の真っ赤な血を頭からかぶったセルジオは青き血を真に目覚めさせた。
セルジオの金色の髪はエリオスの血で所々赤く染まっていた。その状態で訪れた湯殿であった。
ゾクリッ!
セルジオはエリオスの背中に矢が刺さり、口から血を吐き出した姿を思い返すと身震いを覚える。
アロイスの魔術で何事もなかったかの様に傷が癒えたとはいえ、その時のエリオスの姿は100有余年前に初代セルジオの身代わりになり命を落とした情景と重なり、思い返す度に胸に痛みを覚えていた。
馬上で身震いするセルジオの姿にバルドが心配そうに声をかける。
「セルジオ様、お寒いですか?」
セルジオは馬上からバルドをじっと見つめて答える。
「・・・・いや、寒くはない・・・・
寒くはないのだが・・・・思い出していた。
エリオスが背中に矢を受けた姿を思い出すと身体が震える・・・・」
バルドは優しい眼をセルジオへ向ける。
「左様にございましたか。
セルジオ様、エリオス様はお元気なお姿で
セルジオ様の後ろにいらっしゃいます。
大事ございません」
「もし、また同じ様な事が起きましても
エリオス様はセルジオ様の前にお出になることはなさいません。
その行いがセルジオ様の悔恨に
繋がることを重々ご承知されてみえます。
大事ございません」
バルドは鞍の取っ手を握るセルジオの手にそっと手を添えた。
セルジオは添えられたバルドの手をぎゅっと握ると目を閉じ、静かに呼吸を整えた。
「バルド、感謝もうす。身体の震えが止まった。
初めてこの湯殿にきた時の事を思い返していた。
血まみれだったからな。もう、大事ない。感謝もうす。バルド」
バルドは愛おしそうに微笑むとセルジオの手を離した。
ザアァァァァ・・・
ザアァァァァ・・・
湯が流れる音が徐々に大きくなる。湯殿の入口が見えるとアロイスが待っていた。
アロイスの姿を目にするとバルドは馬の歩みをとめ、セルジオを抱きかかえ馬から下そうとした。
「バルド殿、そのままに。
セルジオ殿とエリオス殿はそのまま馬上にいらしてください。
このまま、麓の修道院までまいります」
アロイスがセルジオを馬から下そうとするバルドを制した。
「そのまま、馬を引き、私の後に続いて下さい」
アロイスはそう言うと湯殿の脱衣所の方へ歩みを進めた。
湯殿の八芒星を模した白い石造の壁の一角でアロイスは歩みを止めるとセルジオ達へ向き直る。こちらへと手招きをした。
カコッカコッカコッカッ
カコッカコッカコッカッ
バルドとオスカーはアロイスの指示通りに八芒星を模した白い石造の壁の前に並び、馬をとめる。
アロイスはセルジオへニコリと微笑みを向けると左掌を胸の前で天井に向け、何かを掌に乗せる仕草をする。
アロイスは一瞬眼を閉じるとふぅっと強い息吹を左掌の上に送った。
ブワッンッ!
アロイスの左掌の上に水の珠が現れた。アロイスは現れた水の珠を目の前にある八芒星を模した白い石造の壁の端にはわせる。
ブウンッ!
八芒星を模した白い石造の壁の表面が音をたて、そぎ落とされた。
雪の結晶を散りばめた見事な装飾の扉が現れる。白と水色が交じり合い、扉自体がキラキラと発光している様に見える。
雪の結晶が現れるとアロイスは今一度、左掌に息吹を吹きかけた。
キィンッ!
アロイスの左掌の上に八角形の雪の結晶が現れる。その結晶を扉の中心にある結晶に重ねる。
チャキィン!
ブッブブッブッ・・・・
ガッガコンッ!
扉の中心にある結晶にアロイスが重ねた結晶が溶け込むと扉が振動を始めた。しばらくするとガコッと音を立てて扉が壁から浮き上がった。
アロイスが浮き上がった扉をそっと押す。
キィィィィ・・・・・
氷が重なる様な音を立て、扉が開いた。
ヒュオォォォォ・・・・・
扉に向かって吸い込まれる様に冷たい空気が背中の方から流れてくる。
扉の向こう側には白い石の階段が地下へ向かって続いていた。
アロイスは再びセルジオへ微笑みを向ける。
「水の城塞の地下階段です。
麓の修道院の厩まで続いています。
万が一のため、初代セルジオ様とその時代のエリオス様が造られました」
「水の城塞は鉄壁の岩城です。
城塞へ攻め込む事は不可能に思えます。
しかし、攻め込みにくいと言う事は反対に
攻められれば逃げ場がないということです」
「最悪の事態を想定し、戦闘が起こった時の備えとして造られたのです。
100有余年前はまだシュタイン王国も近隣諸国も不安定な情勢でした。
他国からの侵略や内乱が起こらないとは
言い難い状況から国を領民をいかに守るかが第一に考えられました」
「領民を水の城塞で保護すること、
また、水の城塞が攻められた折は城内の者全てを逃がすこと、
その両方が可能となる隠し扉と共に戦闘が起ころうと
侵してはならない修道院へと続く地下階段を造られたのです」
「シュピリトゥスの森から水の城塞へと続く
白い石の階段と同じ石が使われています。
そして、馬で通れる広さと高さになっています。
もしもに際して常時、開閉ができる様に
修道院から果実酒を水の城塞へ運び込む折にも使用しています」
「鍵の開閉ができる者は限定しておりますが、
白い石の階段と同様にいつでも使用できるよう常時整備をしています」
アロイスは地下階段へ向けて吸い込まれる様に吹いていた冷たい風がおさまるとバルドとオスカーへ扉の中へ入るように言う。
「さぁ、まいりましょう。
バルド殿、オスカー殿、階段の踊り場までお入り下さい。
私は扉を閉めます」
「はっ!」
カコッカコッ
カコッカコッ
バルドとオスカーはセルジオとエリオスを馬に乗せたまま扉の中へ入ると階段踊り場で足をとめた。
アロイスがバルドとオスカーの後から扉の内側へ入る。
左手でそっと扉に触れるとふぅと左手に息吹を吹き込む。
ガッガコッ!!
チャキィン!!
扉を開いた時と同し氷が重なる様な音を立てて鍵が閉まった。
扉が閉まると一瞬、暗闇に包まれる。
アロイスが踊り場で地下階段の方へ向き直る。
左掌を広げるとふぅっと息吹で何かを飛ばした。
パアァァァ・・・・
薄い水色の氷の結晶の様な煌めきが地下階段の天井を駆け下りていく。
白い石の階段に天井を駆け抜けた薄い水色の氷の結晶の様な煌めきが反射し、瞬く間に地下階段が明るく照らされた。
アロイスが失礼と言いながらセルジオとエリオスが乗る馬の手綱を引くバルドとオスカーの横を通り、先頭に立った。
「これで、麓の修道院まで明かりがなくとも進めます」
アロイスはニコリと少し悪戯っぽく笑った。その表情がアロイスの叔母であるポルデュラを思い出させる。
「では、まいりましょう。途中、何度か角があります。
この角も万が一の備えです。
一直線であればた易く造れますが、身を隠すことができません」
「戦闘を知り尽くしていればこそ、
どの様に運用するかが考えられると私は思っています。
初代セルジオ様が何よりも大切に想われていた我が
先祖オーロラが大切にしていたことを守るために
様々な工夫がなされたのだと感じ入るばかりです」
先を行くアロイスの声が震えている。
アロイスは初代セルジオの時代の先祖オーロラと姿が生き写しだった。
そのためか初代セルジオへの思い入れは人一倍強い。100有余年前からラドフォール公爵家に伝えられてきた逸話と自身が幼い頃から眼にしてきた水の城塞でのかつての情景が重なるとまるで自分自身の記憶の様に感じていたのだ。
セルジオは微かに震えるアロイスの後ろ姿を馬上から見下す。
ズキリッ・・・・・
胸に痛みが走った。そっと左手拳を胸にあてる。バルドがセルジオの様子に微笑みを向けた。
「セルジオ様、
初代セルジオ様はご自身のお心に非常に素直でいらしたのです。
愛しみも憎しみも怒りも楽しさも・・・・
全てを受け入れお傍近くにいらっしゃるオーロラ様と
エリオス様と共に過ごされた」
「セルジオ様、
湧き出でた思いは抑えずともよいのです。
今は、抑えずともよいのです。
全てを感じることができて初めて制御が可能となるのですよ」
バルドは優しく微笑んだ。
カコッカコッ・・・・・
カコッカコッ・・・・・
蹄の音が地下階段に響く。
何も思い出しはしないが、先程の胸の痛みは自身の中に封印されている初代セルジオの痛みであったようにセルジオは感じるのだった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
愛する人が大切に想うことを守るために造られた水の城塞の数々の仕掛でした。
思わず涙がホロリと溢れだしながら書いておりました。
セルジオの青き血の目覚めの回は
第18話ラドフォール騎士団6:青き血の目覚め
となります。
水の城塞を出て、次はラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞へ向かいます。
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