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学園編 18歳

130 舞台に幕を引きましょう

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 一瞬、言葉の意味が分からなかった。エリーナはクリスの横顔の向こうにいるシルヴィオに視線を留めた。確か彼はシルヴィオ・ディン・アスタリアだ。
 そして弟は母親が違い、赤髪の金目だと聞いていた。

「第三王子だと!?  馬鹿なことを」

「なら、そこの第二王子に訊いてくださいよ。まぁ、直にお会いしたのは十年ぶりでしたが」

 突如、話の舞台に引きずり出されたシルヴィオは、椅子から立ち上がり面倒臭そうにクリスへと近づいてきた。

「お前はいつも澄ました顔で、大それたことを行うな。……いかにも、こいつは子供らしさを母親の中に忘れた可愛くない我が弟だ」

 シルヴィオが認めたことで新たなざわめきが起こる。エリーナも混乱する頭で、なんとかその事実を飲み込もうとしていた。

「だが証拠がほしいだろう?」

 そして意味ありげにクリスに笑いかけ、手を出した。それに対しクリスは仕方がないと首元に手をやり、チェーンを抜き出す。首から外せば、少し長めのチェーンの先には小さな指輪が通されていた。
 その指輪だけ外して、シルヴィオの手のひらに乗せれば、彼はそれをつまんで内側を注視する。西の国では、三歳の子供に名を彫った指輪を贈る風習があるのだ。

「クリス・ディン・アスタリア。確かに弟の名が彫ってある、それに王家の紋章もね」

 近づいてきた秘書官に指輪を渡し、王も確認をする。表情がますます渋くなった。

「この指輪が偽物という可能性はないのか」

 王が疑わしげにそう尋ねれば、シルヴィオが鼻で笑う。

「王家の紋が入った指輪は特殊な配合の金属を使っており、専門家に見せればすぐにわかる。もしこれが盗まれたもので、こいつが偽物ならば、私は弟の顔もわからない愚者となるな」

 王は屈辱的な表情で秘書官に指輪を渡す。クリスの元に指輪は戻されば、再びネックレスとして首にかけられた。

「この度縁あってウォード家、ローゼンディアナ家に養子に入っただけのこと。なお、すでに王位継承権は放棄しており、このことに国は一切関与していない」

 強い口調でクリスが主張すれば、旗色が悪くなった王は苦々しげに顔を歪めた。そこにシルヴィオが言葉を添える。

「疑わしければ国に書状を送ればいい。年に数度、宛先を教えない手紙とは呼べない報告書しかよこさなかった息子が世話になったと返ってくるでしょうよ」

 シルヴィオの私情がこもっており、クリスはバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。「悪かった」と小声で謝り、ついでエリーナに顔を向けた。隠し事がバレた子供みたいに気まずそうで、エリーナの反応を伺っている。

「エリー……こんな僕でも、一緒に来てくれる?」

 隠し事が大きすぎて、エリーナはただ呆れるしかない。嘘に傷ついていた自分が馬鹿らしくなった。

「もう、クリスが誰でも、どうでもよくなって来たわ」

 その答えにクリスは信じてたよと呟いて、王に向き直った。そして晴れやかな顔で強者の笑みを浮かべた。

「事の経緯についてはしかるべき時に申し開きをするとして、僕の問題はこれで終わりだ。さぁ、ラルフレア王、この馬鹿げた舞台に幕を引こうか」

 ラルフレア王国内で、他国の王族を捕らえることはできない。クリスの身分詐称が成立しないとなれば、残されたのは王の反逆罪。

「何をふざけたことを!」

 王は王座の肘置きを拳で叩き、口泡を飛ばした。それと同時にジークが衛兵へ命令を下す。

「王を捕らえよ!」

 衛兵に囲まれた王は何かを叫ぼうとしたようだが、それより前に口を塞がれ引きずられていった。
 そして静まり返った大広間で、ジークは高座に上り皆を見回して高らかに宣言する。

「今、歴史が正された。エリーナ・フォン・ラルフレアは正統な王家の血を引くものであり、王はクーデターを起こし、前王を陥れた反逆者である。全ての疑念を明らかにした後、広く国民に知らしめるため口外は控えてほしい」

 堂々と前に立ち、事態を収束させていく。その姿にエリーナはこの先彼が王として進んで行く道が見えた気がして、嬉しく思う。きっとその隣にはベロニカが居るのだ。
 そして改めてクリスに向き直り、硬い表情で話を切り出した。

「クリス・ディン・アスタリア殿。今後について話したいのだが、どうだろうか」

 突如変わった関係性に、ジークも戸惑いがあるようでぎこちなくそう問いかける。

「クリスでいいよ。僕は構わないけど、場を改めなくてもいいの?」

 この場には固唾を飲んで見守っていた卒業パーティーの参加者と侍女達、衛兵達がいる。政治的な話をするなら別室の方がいい。
 だがジークは静かに首を横に振り、大広間を見回して皆にも聞かせるように答える。

「ここにいるのは未来を担う者たちだ。新しく作る国のためにも、話を聞いてもらいたい。もちろん、クリス殿たちが合意されるならだが」

「こちらに異存はないよ」

 まるで世間話でもするかのように、クリスは気軽に答えた。緊迫感に包まれるなか、話はエリーナとクリス、そして両国の今後について進むのだった。
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